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異世界の放浪記   作者: owl
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勇者から頼まれました

翌朝、エリスの意識もはっきり戻ってきたのでオズマが捕まえた

聖騎士共の尋問をすることにするべく、エリスと二人でその部屋にむかう。


部屋ではオズマは四人を監視していた。

場所は俺たちが借りた宿の一室である。

オズマに捕まえてもらった連中である。


「オズマ。ありがとな」

俺たちが入るとオズマは軽く会釈をした。

四人の放火魔の顔面は腫れ上がっており、オズマを見る目に怯えがある。

中でも一名は口から泡を出して気絶している。

昨夜、一名かなり騒いだのでオズマは気絶させたらしい。

オズマさんあんた一体なにやったのさ。


「おい、起きろ」

俺は蹴飛ばして気絶していた男を無理やり起こした。

ぞんざいな扱いだが俺は心底こいつらに呆れ果てていた。


「なんだお前はっ」


「一応聞いておくがお前らが放火したのか?」


「し、知らんな」

俺は軽く男の顔面を小突く。

男の体が一回転して吹っ飛び壁に叩きつけられた。

思いっきり加減したがふざけた威力だ。

他の連中が怯えた目でこちらを見る。


髪をつかみ男の頭を持ち上げ凄んだ。

エリスを殺されかけたことに実はかなり怒ってます。


「いいから正直に俺の質問に答えろ」

俺にびびったのか男は少しずつしゃべり始めた。


引き起こした動機は単純に妬みのようだ。

こいつらはデリス聖王国の聖騎士団に所属している連中らしい。

この聖騎士の一派はもともと貴族の出で選ばれなかったことに不満を持っていた。

さらにエリスの貴族たちへの締め付けもその不満に油を注いだという。

そしてエリスが『ルプスティラノス』の討伐に国外に出たのを好機とみなしやってきた。

エリスを暗殺するために今回火事を仕込んだのだという。


「そもそも庶子が勇者であること自体がおかしいのだ」

自分勝手な耳障りな理屈が止まることはない。


「だからこんな騒動を引き起こしたと?」


「そうだ」

俺はあまりの馬鹿さ加減に頭を抱えた。

この世界の貴族連中こんなんばっかりか。

マジでまともな人間いないんじゃなかろうか。


こいつらのせいでエリスは死にかけたのだ。

こいつらには現状を知っておいてもらった方がいいだろう。


「お前さ、他国でこれだけ騒ぎを起こして無事に帰れると思ってるのか?」

俺の一言に四人の顔が一斉に青ざめる。

全員捕まると思ってなかったんだろう。

事実、こいつら聖騎士は人間の中では結構強い部類らしい。


オズマにあっさり捕まりましたけどね。


「そうですね。サルア王国の法律は放火犯に関しては極刑かと。

外交ルートもデリス聖王国とは無かったはずですし、

デリス聖王国が身代金交渉に応じなければ一般市民と同じ法律で裁かれます」

腕を組みながら無慈悲にオズマさん。


一般市民と同様に裁かれるということは良くて懲役うん十年、悪くて死罪だ。

余所の国でこれだけのことをしでかしたんだ、

身柄を引き渡すにしても結構な額になるだろうし、

聖騎士だとしても罪から免れられないだろう。


「と、取引だ。庶民…」

「断る」

無慈悲に俺は言い捨てる。

こいつらを野放しにしておく理由はない。


「おい偽勇者。国民を助けろ」

今度は自分たちの標的のエリスにすがる。こいつら本当に節操ないな。


「…任せる。この国での罪はこの国で裁かれるべきだ」

エリスはそう言い残すとこの場から立ち去った。


「ギルドに火事の首謀者ってことでこいつら引き渡そう」

俺は笑顔で聖騎士の連中に死刑宣告を告げた。

ギルドに引き渡した彼らは裁かれるために王都まで護送されることになった。



夕方、放火犯をギルドに護送した俺はエリスと火事の現場を見に来ていた。

その一件だけが文字通り跡形もなくつぶれていた。

近隣の人間たちもこんなことは初めてと言った様子である。


「…まさか…あなたがやったのか?」

魔力を使って家を上から押さえつけただけである。

圧縮されたために空気が欠如したらしく、あっさり鎮火した。

出来るかどうかはちょっと不安だったがやればできるもんだ。


「秘密にしてくれ」

表沙汰にされても困るだけなので釘を刺しておく。


「魔族と言うのはすごいな…」

感心したようにエリス。


「彼らから疎まれていたのは知っていたよ。彼らには強く当たってたからな」

二人になったところでエリスは告白してきた。


「スタンピードを防ぐためにか」

エリスは何故知ってるという顔をした。


「すまん、昨日お前の記憶とつながった」

火から守るためにエリスを包んだ魔力を回収する際、エリスの記憶が流れ込んできた。

魔力を回収した際に記憶を共有してしまったらしい。完全な事故だ。


「まあ、いいさ」

エリスはふっと笑った。


「私たちはもう二度と引き起こしてはならない。

わかるか?人が死ぬのではなく消えるんだ。その領地ごとごっそりと。

残るのは何もない。森は浸食を続ける。

悲劇も何もなくただ消えるんだ。

昨日までそこにあったものがまるでなかったように。

そんなのは絶対おかしい。だからこそ私は…」


就任して五年の間ずっと貴族たちに疎まれ続けながらその役を演じてきたという。

何でこいつだけがそんなに頑張らなくてはならないのか?

誰かこいつを救おうとした奴はいなかったのか?

俺は無性に聖王国の連中に腹が立った。

「悪者になったとしてもか?」


「誰かが悪者になるしかないだろう?ただその役割がたまたま自分だったというだけだ」

エリスはふっと笑う。

だからどうしてエリスがそんな役割を引き受けなくちゃならない。


「死んだとしてもか?」


「私一人死ぬぐらいならば安いモノだろう?」

エリスは澱みのない眼でそう答えた。

こいつ、本気でそう考えてやがる。

人に自分の負ったものを負わせたくない。

ただそれだけのために。


俺は少し眩暈を感じた。

エリスは完全にイカれている。

こいつは自身の幸せをあきらめているんだ。


「ユウ殿、聖剣を受け取りに行くのに私も連れて行ってはもらえないだろうか?」

エリスは俺に頼んできた。

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