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異世界の放浪記   作者: owl
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火事がありました

法術と法術の戦いにおいて最も重要とされるのは数である。

エリスも勇者と認められるほどの力量を有してはいるが

法術のみで聖騎士数人相手となれば分が悪い。


「お前たち、何をしているのかわかっているのか?

聖騎士たるものが恥を知れっ」

エリスは白装束の四人に激昂していた。


「問答はしない。あなたはデリス聖王国のためにここで消えてもらう」

四人の男たちが法術を使うと、エリスの周りの空気が固まっていく。


エリスをここに足止めをするつもりのようだ。

勇者であろうと生身の人間である。

このままこの場所にとどまることは死を意味する。


「くっ…私一人では…」

ここは自分のことよりも子供を救うのが最優先だとエリスは判断する。

自身の隠し持ったナイフの先に法力を集中させ結界を破る。

そして四人の包囲を強引にかいくぐり子供を抱きかかえる。


外に出ていこうとすると背後から法術を放たれ足が止まる。

再び結界を張られたのだ。

この四人聖騎士の中でもかなり上位の存在だ。


エリスはナイフを投げ、再び結界を破ると法術を使い子供を外に吹き飛ばした。

その直後、エリスの頭上に瓦礫が落ちてくる。


エリスは腰にあるはずの『聖剣ゼフィール』を取ろうとする。

あるべき場所に『聖剣ゼフィール』がない。

エリスは『聖剣ゼフィール』を所持していないことを思い出す。

「聖剣が…」

エリスはそのまま瓦礫の下敷きになった。


瓦礫の下敷きになったエリスを見下ろすように男たち。

「あなたにはこの場で死んでもらいます」


「このまま放っておきますか?」


「我々が直接手をかける必要はあるまい。

勇者殿は火事で取り残された子供を助けるべく犠牲になったのだ」

すべては彼らの筋書き通り。


「子供の方はよろしいのですか?」

子供にはすべて目撃されている。

「所詮は子供の証言だ。放っておいても問題はあるまい」

四人の男たちはその場を後にした。



セリアの話ではエリスは先ほど火事の現場に向かったという。

無性に嫌な予感がした。

「オズマ、俺と来てくれ。セリアは部屋にいてくれ」

「うん」

外に出ると目の前の光景は真っ赤に染まっていた。

俺たちはエリスを探しに野次馬をかき分け火事の現場に向かう。


「さっき銀色の甲冑の女性が家に残された子供を助けるために入っていったぞ」

「大丈夫なのか?まだ出てきてないぞ」

野次馬たちの声が聞こえてくる。

間違いなく銀の甲冑の女性はエリスだ。

今彼女には『聖剣ゼフィール』は無い。

『聖剣ゼフィール』のないエリスはただの女性である。


建物の前にやってくると子供が文字通り飛び出てくる。

俺は滑り込み、それを受け止める。


「お姉ちゃんが…中に…白い人が…」

子供は泣きじゃくり何を言っているのかわからない。

子供の母親が駆け寄ってくる。

俺が子供を手渡すと母親は何度も頭を下げる。


エリスはこの子を助けるために入ったはずだ。

こんな乱暴な方法でエリスが子供を建物の中から出すとは思えない。

中で何か異常事態が発生したのだ。


ふとここで一つのことに思い当たる。

このラクタに来てから感じていた纏わりつくような視線。

あれで監視されていたのはセリアではなくエリスだったのではないか。

俺は自身の間違いにようやく気付いた。


直後、建物の影から白い四つの影が屋根伝いに飛び出していく。

一般大衆はどうやら気付いていないらしい。

「オズマ、連中を捕まえてくれ。俺はエリスを助けに行く」

「御意」

オズマは頷くとその場から離れた。

俺は火事の現場に走っていく。

「何をやってるんだ。早く戻りなさい」

背後から声がかかるも俺は止まらない。


家の前に立つと熱風が頬をかすめる。

俺が中に入るのを拒むかのように。

人間であったころならばなすすべもなかっただろう。

今は俺は魔族である。

魔力で体を包む、すると嘘のように熱風の熱が俺に届かなくなった。


これならいける。

俺は意を決して炎の中に飛び込んだ。


燃え盛る家の中で俺はエリスを探す。

「エリス、エリスどこだっ」

俺は炎の中、瓦礫に埋もれたエリスを見つける。

幸いまだ息はあるようだ。

俺は胸をなでおろす。


俺はエリスを魔力で包み、瓦礫を蹴散らす。


そのまま彼女を背負い連れて逃げようとするも、俺たちは火に周囲を取り囲まれていた。

建物の倒壊が始まっている。

このまま長い間火の中にいれば生身の人間であるエリスがやばい。

全身を魔力で覆ってはいるが、生身の人間で長くこの場所にとどまることは危険だろう。


さて、どこから脱出するべきか?

周囲は既に火の海だ。

すでに通ってきた道は火で埋め尽くされている。


ふと俺は頭上に目を向ける。

崩されたことにより屋根が見えていた。

加減を誤り、屋根ごと破壊すれば周囲に火が飛び散ってしまう。

魔力の制御は少し練習しただけだったが幸い以前よりは使えるようになっている。


鋭く、長く、それでいてその軌跡維持しろ。


拳にそう念じ、魔力を溜め、頭上に向けて一気に拳を突き上げる。

俺の魔力により頭上の建造物の屋根の一部が吹き飛んだ。


わずかな間だが空が見える。

これでわずかな時間、頭上に外への魔力の道ができた。

道が消える前に俺はエリスを抱きかかえ、足に魔力を込める。


跳躍すると景色があっという間に変わる。

俺はラクタの街の頭上にいた。

人間では考えられないほどの跳躍。

手にはエリスが抱きかかえられている。

俺は今だけこの力に感謝する。


そのまま町全体が見える丘の上に移動した。


エリスが息をしていることを確かめ、俺は安全な場所に彼女を降ろした。


ラクタの街の中心で、未だどす黒い煙を出しながら燃える建物が見える。

今のところ辛うじて近隣の建物には火が移ってはいないが、

このままでは周囲に燃え広がるのは時間の問題だ。


ならば燃えている建物だけを押しつぶしてしまえばいい。

そんな考えが脳裏によぎる。


さっき魔力で道を作った時に手ごたえはあった。

今の俺にならできる。


俺は拳に魔力を込め、跳躍した。

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