クーリングオフってできますか?
勇者と出会ったその夜。
俺たちは野宿することになった。
エリスはセリアに慰められどうにか眠ったらしい。
本当に困った勇者様である。
仲間のことをオズマに頼み俺は一人森の奥に入っていった。
そもそもの問題の元凶はヴィズンである。
俺はヴィズンと連絡を取らなくてはならない。
ゲヘルを呼び出すことにした。
この物騒な剣はそもそもは魔族から貰ったものである。
仲間たちと十分に距離を取るとゲヘルが手渡してきたのはハンドベルを取り出す。
ベルには細かく文字がびっしりと刻まれている。
これも何らかの強力なマジックアイテムなんだろうな。
いかんせん魔族たちの所持するマジックアイテムは強力すぎる。
セリアから借りた手鏡の前で鳴らし、三回鏡を叩いた。
「ユウ殿。何でしょうかな?」
ゲヘルの声が聞こえてくる。
鏡に映るのはゲヘルと言う魔族だ。
頭部は恐竜のような骨をつけている。
「ゲヘル、いきなりすまないな。ヴィズルと連絡を取りたいんだが…」
「おそらくヴィズンの奴は酒を飲んで酔いつぶれておるかと。話があれば私が聞きましょう」
多分剣を作り終えたことで酒盛りしたか…。
何か文句を言いたい気分だったのが一気にしぼんでいく。
ヴィズンってそう言う奴だったよな…。
「ゲヘル…この剣切れすぎるんだ」
ゲヘルに今までの経緯を伝えた。
「フム…少し見せていただけますかな…」
ゲヘルは鏡の中から剣をじっくりと見つめる。
「原材料はアダマンタイトですな。その上何層も付与効果を加えておる。
この剣ならば霊体であろうと、呪いであろうと、結界であろうと
有象無象関係なく切り捨てることが可能でしょう」
…呪いとか霊体とか切り裂くとか…。
足にでも落したらシャレにならないんだが…。
「人間の分類では神話クラス級以上の代物ですな、ホッホッホ」
…なにその最終兵器。
「勘弁してくれ…『聖剣ゼフィール』もただ受けただけで真っ二つだぞ?」
普通に使えれば何も言わないよ。
むしろ俺の場合、切れないほうが用途は多いよ。
「『聖剣ゼフィール』ですと?」
ゲヘルは少しだけ驚いた表情を見せた。
「これだよ」
俺は二つになった『聖剣ゼフィール』を指輪から取り出した。
「ホッホッホ、確かに『聖剣ゼフィール』じゃ。しかし…これは見事に切れましたな」
真っ二つになった聖剣の断面を見比べ、ゲヘルはしきりに感心している。
何故ゲヘルじいさんゼフィール知ってるのかちょっと気になったが、
そこはスルーしておいた。
「キレマシタナじゃないって。おかげでこっちはまた面倒事に巻き込まれたんだ」
俺は頭を抱えた。
魔族たちの渡してくる道具はとんでもないものばかりだが、
これに関しては極め付きの危険物と言える。
「これできれば返品したいんだが…」
「じゃが…ヴィズンの奴、これを作った際ものすごく喜んでおられましてな。
王に献上する最高にして至高の傑作じゃあと喜んでおりましてな。
万が一返品しようものなら…」
「…泣くか…」
「…泣きますな」
うん、想像はしてた。
俺たちの間に気まずい沈黙の時間が流れる。
俺は八方塞がりだと言うことを悟った。
ヴィズンさん…慕ってくれる気持ちは嬉しいが、これはマジで危険だよね。
本気で振ったら街ごと破壊しかねない。
そんなことすれば一発でお尋ね者確定で旅どころではなくなってしまう。
抜くこともためらわれる剣って、使えるかどうかと言う以前に根本から何か間違ってると思う。
「ならこの『聖剣ゼフィール』の方、ヴィズルに直してもらえないか?」
「そうですな。それならばすぐに終わるでしょう」
これならって…一応、人間の社会では『聖剣』って呼ばれてる代物なんですがね。
「すまない、助かるよ」
俺は鏡を通して二つになった聖剣をゲヘルに手渡した。
「…その剣に関してはどうにかできるやもしれません」
「本当か?」
俺はゲヘルの一言に飛びついた。
「その剣の力を力を封じる鞘を作ればいいのです」
なるほど。さすがゲヘルさん。
「…ゲヘル…頼む」
俺はゲヘルに頭を下げた。
返品するわけにもいかないし、このままだと指輪に死蔵することになる。
ちょっとさすがにそれは…。
「ホッホッホ、今回こちらに非がありますからな。
私のほうで用意させていただきましょう」
「助かる」
そう言って俺の剣もゲヘルに渡した。




