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異世界の放浪記   作者: owl
31/121

そして二つになりました

事の発端を話すために時間を少々さかのぼる。


リバルフィードを離れてからかれこれ二週間経つ。

旅は何度か盗賊の襲撃にあったものの比較的順調に進んでいた。

王都に近づいているためか人通りも多くなり、少しずつ街の間隔が短くなってる気がする。

目的地である王都カーラーンはもう目と鼻の先である。


俺たちはマルフィーナ街道沿いの食堂の片隅のテーブルに座っていた。

昼の時間も過ぎ食堂にいる人はまばらである。

代金はすでに払い終えているし、店主も店の中で仕込みをしているようだ。


俺たち三人は深刻な顔でテーブルの一点を見つめている。

真ん中には一本の剣があった。


「…コレ危険過ぎだよね…」

俺はそうつぶやく。


「それには私も同意」

珍しく何度も頷くセリア。


「鍛冶の神ともいえるヴィズル殿の剣…主には確かにふさわしいとは思うのですが…」

さすがにオズマも苦い顔で同意してくれた。


鍛冶の神?あのおっさんが?

思い返せば俺との戦いで武器も槌に変化してたし、鍛冶の神ってちょっと理解できる。

そんなにすごい人が全力で造った剣らしいです。

でも魔族が神扱いされるのってどうなんだろうな。


昨日のことだ。ゲヘルから連絡がありヴィズルが俺に渡したいものがあるという。

俺はある事情で六人の魔族たちから一品ずつ貰えることになっている。


前回はゲヘルの爺さんから指輪をもらっている。

街一つ入る規模を収納できるという。

実際に領主の邸宅を指輪に収納している。


呼び出されるとヴィズンという巨人の魔族に剣を手渡された。

聞けばヴィズンは鍛冶が得意らしい。

俺にふさわしい武器をということで剣を作ってくれたとのこと。

俺はそれを喜んで受け取った。

で、それが今回問題となっている剣である。


今日、試し斬りも兼ねて魔物相手にそれを使ってみることになった。

魔物は何の抵抗もなく真っ二つになった。

だが、問題はそこではなかった。

この剣は背後の風景まで切ってしまっていたのだ。

背後に生えていた木々も一太刀で。

斬○剣も真っ青なキレ味でした。


言っておくがそんなに力を込めたわけじゃない。

全力でやれば…など怖ろしくて考えられない。

そこで緊急会議である。


「うん、これは返品…」

言いかけると俺の目の前にはものすごい美少女がいた。

銀髪で髪を後ろで束ね、顔はどこかの彫刻のように整っている。

銀色の甲冑をその身に纏い、堂々とした物腰で、凛々しく背筋はぴんと伸びていた。

外見から隙というモノが全く感じられない。

見ていて胸のすくような美しさである。

その美人さんが青の双眸でこちらを睨みつけてくる。


「お前、魔族だな」

いきなり困ったことを発言してくる。

周囲には人気がないのが幸いだった。


「な、なんのことでしょう?」

俺は出来る限りとぼける。

ここで騒ぎを起こしたくはない。


「ここでは被害が出る、表に出ろ」

この人、そう言って凄んで来る。

美人の凄みってマジで怖い。

とにかく彼女の言葉に従って人目のつかないところに移動。



「ユウ…」

心配そうにセリア。


「オズマはセリアと一緒にいてくれ」

俺はテーブルにおかれた剣を持って外に出る。

相手は何やら剣呑な雰囲気醸し出してるし、護身用のためである。

その時は話せばわかると思ってたんですよ。


その女性は二人きりになると腰に下げた剣を静かに抜いて構えた。

その剣はかなり手の込んだ装飾がなされている。


話し合う余地はないということですかね…。


「私の名はデリス聖王国、十二代目勇者エリス・ノーチェス。

貴様ら魔族をこの『聖剣ゼフィール』の錆にしてくれよう」

聞き間違えでなければこのヒト、勇者といったぞ。

それに聖剣って何?

この人マジでやばくない?

…ああそう言えばオズマが以前デリス聖王国の一部に

魔族を見抜けるとかいう人間がいるとか言っていた覚えが…。

フラグだったというわけですか。そうですか。


「丸腰の相手を斬るのはこちらとしても気が引ける。剣を抜け」


「いや…それはちょっと。俺何か悪いことした?」

脇には昨日ヴィズルからもらった剣が差してある。

これを使えばとんでもないことになることにはわかってた。


「魔族が人間社会に潜んでいる時点で危険だろうが。貴様何を一体何を企んでいる」

ごもっともです。ですが俺は誓って何も企んでません、

俺はただ穏便に旅をしたいだけなんです。

こうなれば奥の手。

「俺、悪い魔族じゃないよ」


「ええい、口答えするな。いいから剣を抜けっ」

まったく聞いてくれないどころか激昂されました。

やめてー。お願いだからこの剣を抜かせないでー。

この剣はある意味災害級なの。


「頼むから話し合おう…なっ」

俺は相手をなだめる。


「問答無用」

相手は剣を振り回してくる。

俺の鼻先を剣が通り過ぎる。ちょっと危ないって。


どーすんの、この状況…。

この人、動きに無駄がないし、人間にしてはかなり早い。

こんな相手に白羽取りなんて器用な芸当できませんよ。

それにこの人…逃げるにしても絶対追ってくるだろうし…。


小石に躓き俺はバランスを崩す。

相手の剣が俺の眼前に迫ってくる。

俺は剣を抜いてそれを受け止めようとかざした。


言い訳させてください。

このとき俺は斬撃を剣で受け止めるだけのはずだったんです。

ただ受けるだけ。受けるはずだったんですよ。


「え」

「え」

俺たちは同様にそんな言葉しか出なかった。


サク


これは彼女の手にした聖剣の一部が地面につきささる音だ。

彼女の手にしたありがたい聖剣とやらは見事、真っ二つになっていた。

そして、前回の状況に至るわけです。

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