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異世界の放浪記   作者: owl
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半べその勇者をなだめました

オズマが言っていたデリス聖王国で魔族を見破れる一部の人間。

その存在は勇者と呼ばれ、人類の守護者とも言われる存在なのだという。

その勇者は聖王国の至宝である『聖剣ゼフィール』を代々受け継ぐしきたりになっている。

ちなみに現在俺たちのいるサリア王国とは二つの国と山脈を隔てて離れているために

デリス聖王国と正式な国交はないらしい。

事前にセリアとオズマから聞かされていた話はそんなところだ。


その勇者である彼女が俺の前で体育座りをして号泣している。

号泣しているその女性の足元にはその『聖剣ゼフィール』が刀身を真っ二つにされ

足元に転がっていた。


実に無残な状況である。


その真っ二つにした犯人は他ならぬ俺なんだが。

どうしてこうなったのかと俺もそれを聞きたい。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

泣きながらうわ言のようにそれを繰り返す勇者様。

声をかけても返事を返してくれない。


この勇者様見てくれはいいのだが、『聖剣ゼフィール』が折れたことにより

完全に精神崩壊を引き起こしていた。

勇者様は見た感じ、十代後半から二十代前半といったところか。

男だったら間違いなく放っておくところだ。


こんな状況で女性を一人残して戻るわけにもいかず俺は立ち尽くしていた。

俺が頭を悩ませていると戻らないことを心配してか、セリアとオズマがやってきた。


セリアはエルフの容姿をした少女である。

目の冴えるような金髪であり、新緑を想起させる碧眼。

俺が以前に送った青い髪飾りをつけている。

何と言うか十代前半だというのに人間離れした美しさがある。

辺境の森で生贄として出されていたところ、偶然俺が助け、一緒に行動している。


もう一人のオズマは黒一色の男である。

長く黒い髪に黒の瞳。

漆黒の鎧を着け、長い髪を後ろで無造作に束ねている。

お堅い感じの二枚目である。

ラーベという魔族から人間社会の案内役として借りている。


二人の登場がカオスな状況にさらに油を注いだ。

「こいつ殺しますか?」

汚物を見るような目でオズマ。

一見冷静に見えるが俺に剣を向けた相手に爆発寸前である。

殺気をだだもれにし、剣の柄に手をかけている。

オズマさん…そういうのは嬉しいんだけどもうちょっと空気読もうよ…。


「だめよ」

オズマが表情を動かす。

うちのパーティのヒラエルキーのトップのセリアが必死に間に入っていなければ

大変なことになっていたかもしれない。

まあどうしてセリアがヒラエルキーのトップになっているかと言えば

いろいろと事情はあるが…まあ…一言でいえば餌付けである。


「ねえ、あなたは誰?」

セリアが背中をさすりながら必死になだめている。

同じ女性と言うことで気を許したのか勇者様は少しずつ身の上を語り始めた。

「わ…私は…エリス…ぐす」

半べそをかきながら勇者様。

この人なんかすごいめんどくさい。


「その勇者様がなんでこんなところにいるんですか?」

うん、それを俺も聞きたい。


「…この先の魔の森に『ルプスティラノス』出たっていうから…ぐす…」

半べそをかきながら勇者様。

もう威厳もひったくれもない。

なんでもレジェンド級の魔物が出現したということで

冬で街道が使えなくなる心配もあるために、

はるばるデリス聖王国から馬を飛ばしてきたのだという。


『ルプスティラノス』というのはオズマのことだ。

オズマも魔族であり、本来の姿は『ルプスティラノス』という巨大な狼の化け物だ。


「…」

俺は当時のことを思い返す。

二週間前にリバルフィードという街でちょっとした騒動に巻き込まれた際に

冒険者たちに目撃されていた。


あー、あの時許可するんじゃなかったな…。

あの時はこんな騒動に発展するとは思いもよらなかったわけで。


「このままここに置いていきましょう」

無慈悲にオズマ。


「だめよ。こんな状況の女の人こんなところに一人おいておけないじゃない」

セリアがそれに反発する。


「ユウ殿の命を狙ってきたんだ。命を取られないだけましだろう」


「あなたはこんな女性を一人こんな場所に残せっていうの?

そんなことしたら今後オズマさんにはご飯を作ってあげないから」

このセリアの一言にさすがのオズマもたじろいだ。

理不尽だがもっとも効果的かつ絶大な一撃だ。


「うっ、…ここはユウ殿に任せます」

さすがに分が悪いと判断したのかオズマが俺に振ってきた。

うん、ここはちょっとだけオズマに同情。


「ユウはどうするの?」

セリアは俺に詰め寄る。

要するに全部俺が判断しろってわけらしい。


「危害を加えてくる様子もないし、彼女が立ち直るまで連れて行こう」

剣を折った(切ったか?)責任もある。

こうして俺たちは勇者エリスと関係を持つことになったのだ。


事件のはじまりは一時間前にさかのぼる。

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