街につきました
城壁が視界に入る。
夕食の支度のためか複数の煙突から煙が上がっている。
城塞街ドルトバ。
人間の生活する北限に位置する街であり、いざと言うときはここが北の砦となるために
四方を城壁に囲まれているのだという。
ここまで来るのに半月かかった。
飛べば一日もかからずにドルトバに着いたのだろうが、セリアには飛べることを秘密にはしてあるし、
万一見られればあらぬ誤解も与えてしまうであろうために見せていない。
まあ、セリアからこの世界のことをいろいろ聞けたし、料理もおいしかったから不満はない。
結構な長旅だったはずで、荷物もそれなりに背負っているはずが
どういうわけか肉体的な疲れがほぼ皆無だった。
俺の体はどうなってしまったのかしらん。
「他の都市と違って城門の管理は結構緩やかと聞くわ」
「それにしても詳しいな」
「月に一度やってくる行商のおじさんに聞いたのよ。一度こうして世界を巡ってみたかったの。
まさかこんな形で叶うなんて思いもしなかったけど」
セリアは目に見えてはしゃいでいた。
「気になっていたんだが、セリアはドルトバに来たことがあるのか」
俺はふと気になったことを声に出す。
「ずっと昔。私がずっと小さかった時に来たのを覚えてる」
特別な思い出だったのだろうか。
セリアの横顔からは寂しげであり、それでいて懐かしむような複雑な感情が読み取れた。
「ギルドに行かないと。しまっていたら換金もできないわ」
日は既に橙色に染まっている。
「そうだな」
俺とセリアは足早にドルトバの城門に向かった。
城門で二人の衛兵に呼び止められる。
甲冑をつけた初老である。
口元には豊かな白ひげを蓄え、背は低く、自分の顔がすっぽり入るような分厚い手をしている。
「エルフとは珍しいな」
「先祖返り。珍しいでしょ」
セリアはにこやかに対応して見せる。
盛大な猫をかぶっている。
普段を知っている俺から見ればむず痒い。
「一応規則でな、ドルトバに来た用件は?」
「魔石の換金。この辺りじゃ換金できる場所ってここぐらいなんだもの」
セリアは袋から魔石の一つをとって手渡す。
「ほう、立派な魔石だな。少なくともカルネ金貨二枚はくだらないんじゃないのか」
門番は手にした魔石をセリアに戻した。
高圧的でもなく市民と普通に接する姿にユウは少しばかり面食らう。
「村は」
「トールズ」
「それはずいぶん遠くから来たもんだ」
トールズと聞いてその門番の硬い空気が少し柔らかくなった気がした。
「ギルドが閉まる前に魔石をお金にかえたいのだけど。ギルドの場所を教えてもらえる?」
「ここから入って真っ直ぐ行けば左に見えてくる。
だが最近ギルドは閉めるのが早くてな。今行ってもしまってるはずだ」
現状、魔石を換金しなくては文無しである。
「…あーあ、また野宿か」
セリアは大げさに肩を落とす。
「宿代は持ってないのか?」
「来る途中で魔物に襲われたときに落しちゃったのよ」
もちろん嘘である。銀貨一二枚はセリアの家から持ってきているが
宿に一泊できる金額ではない。
「そりゃ災難だったな。そうだ…そろそろここの番も終わる。もしよければ知人の宿を紹介してやろうか」
「現金ないから後払いよ?」
「ハハハ、困ったときはお互い様だろう」
心地よい笑いでその老兵。
「代わりと言っちゃなんだが、この辺最近魔物が騒がしくてな。旅の状況とか教えてくれんか」
「ユウどうする?」
「ああ、俺ならかまわないぞ」
柔らかいベットの上で寝られるのであれば願ったりだ。
俺たちはその門が閉まるまでそこにいることになった。
夕方であり、門を通るのはまばらだ。
セリアはここまでの道のりを門番に話していた。
地名も交えてセリアは詳しく語っていた。
部外者の俺は会話に参加できないので、ただ西の山に日が落ちていくのをぼんやり眺めていた。
「ほう、道中魔物に六回遭遇したのか」
門番は驚いて見せる。
「それほど強くはなかったから問題なく来れましたけど」
これには嘘が混じっている。
セリアの話では中にはかなりやばい魔物とも遭遇している。
「だが魔物だぞ?…そこの坊主はそんなに強いのか?」
そう言って俺の方を見てくる。
「ええ。頼もしい護衛です」
セリアのセリフを聞いていて少しだけ嬉しく感じた。
「それにしてもそんなに魔物が騒がしいんですか?」
「ここ数日山の上にいた魔物が村に下りてきてギルドも警備隊も大慌てよ。
最近では近くのラド村にレッドベアが降りてきて今ギルドで討伐隊の話が持ち上がってる」
「レッドベアって言ったらBランクのですか」
「ああ、遅れれば村が全滅なんてこともあり得る、この警備隊もギルドの連中もピリピリしてるよ」
村が全滅するほどの魔物ね。そんなのもいるんだな。
あとあと自分たちに関わってくるのだがその時は俺は上の空で聞いていた。
俺は初めて見る街並をきょろきょろと見ていた。
足元の道には敷き詰められた石畳。
行き交う人々は中世ヨーロッパを思わせる服を着ている。
「ユウ、やめなさいよ。田舎者っぽいわよ」
セリアが袖を引っ張ってくるが好奇心の方が勝っていた。
しばらくしてセリアもあきらめたらしい。
「はっはっは。お主も大変じゃの」
「ええ」
「あの山の向こうに魔族の都があるって話なんだが、それがどうも騒いでるらしくてな」
衛兵は北にある山陰を指さす。
「魔族?伝説じゃないの?」
「魔族はいるぞ。うちのひいばあちゃんが言ってたんだが、
その昔、王様が鉱山の調査のために一個師団を送りこんだんだが、一匹の魔族に全滅させられたらしい。
今でも功績欲しさに名のある傭兵やら高名な武術家たちが入っていったと聞くが帰ってきた者はいないって話だ。
山の向こう側は魔境よ、はっはっは」
そうこうしているうちに門番はぴたりと足を止める。
目の前には古びた二階建ての建物がある。
相当古そうな建物だが手入れされている様子で雑草はなく、花壇に花が植えられている。
「ここだ」
門番は無造作にその建物に入るなり声を上げる。
「おーい。ラムばーさん。客連れてきたぞ」
すると足音とともにしわがれた声が聞こえてきた。
「聞こえてる。あまり大きな声をだすんじゃないよ」
通路の奥から老婆が姿を現した。




