幕間 彼の新たな主人
あの方たちは時々妙な気まぐれを起こす。
この世界における絶対不可侵の六体の魔神が一柱ラーベ・ファウ・ヴィスカリオ。
彼の者が真祖であり、始まりであり絶対者である彼を筆頭に順位が組まれている。
現在その眷属の六位が私である。
眷属とは言うが血を分けられたただの模造品である。
ラーベ様の直系であり純血種である上位三位は真の化け物であり、
ここ千年の間順位の変動はないという。
血を吐くような修練を繰り返したがある時から成長が感じられなくなった。
あの方の元にいてはこれ以上の成長は見込めない。
もし成長したいのなら彼らとは違う筋道を辿るしかない。
そこで私は人間と言う種族に目をつけた。
儚き命の間に研鑽され、次の世代に受け継がれる技術。
積み重ねられるそれらは美しいとすら思った。
人の中で生きるという奇妙な選択をした眷属は他にもいたが
ただ二人の例外を除いて、多くの者は人との関係を断ち『北』に戻った。
ある者は追われ、ある者は絶望し、ある者は見限り。
だが私は人の社会に身を投じることを選択した。
力を求めて人の世界をさすらっていた俺に声をかけたのは一人の老騎士だった。
「わしと一緒にこないか」
老騎士は本来の私の姿を見ても怯えず笑い飛ばした。
それからは多くの化け物を共に退治した。
魔の森や黒の孔、多くの魔物とも戦った。
いつしか俺たちの周りには人が溢れ、騎士団と名乗るようになった。
短い間だったがそれは俺の生の中で輝きに満ちた時間だった。
だがそんな時間にも終わりがやってくる。
人間とはそれほど長く生きないことをその時に知る。
俺は『獅子』の称号をその老騎士から譲り受けることになる。
「孫を頼む」
それが老騎士の最後の言葉だった。
私は多くの敵と戦った。
どうしてそうしたのかはわからない。
だがそうしなくてはいけない気がした。
『七星騎士団』の武名はその頃には周辺諸国に轟くようになる。
仲間から団長に推薦されるも私はそれを拒み続けた。
騎士団はただの預かりものだからだ。
そして私はとある国の姫に求婚を受ける。
麗しく可憐な姫だった。
所詮私は人からすればただの化け物だ。私はその求婚を断り続けた。
人の心は変わるものらしい。
私が断り続けたことにより、その姫は心を醜く変容させていった。
そして彼女は私を暗殺しようと手を回す。
私を殺そうとしてきたのは他ならぬ老騎士の孫だった。
騎士団での裏切りは死罪だ。
私が理由を問うと
「私はどうやってもあなたにはなれない」
涙を流しながらそう訴えてきた。
その時私は悟った。
ここでの私の役割は終わったのだと。
そして、私は七星騎士団を去ることにしたのだ。
騎士団を抜けた私は考える。
私は一体何を手に入れようとしてきたのか。
私の在り方は純粋な強さとはおおよそかけ離れてしまったのではないか。
私は間違っていたのか?
前任者たちと同じように人との接点を消そうとした丁度その時、
ラーベ様は私に一つの命を与えられた。
一人の魔族の教育係兼部下になってほしいと。
多くは教えられなかったが相手は人の社会にいるのだという。
断ることはできた。ラーベ様の命は強制ではない。
人間と共生する魔族。
私はその在り方に少し興味が湧いた。
そのものは人の社会で何を求めるのか?何を手に入れるのか?
見れるものならば見てみたいと思った。
そして今その人の元にいる。
そのものは私の姿を見て『綺麗だな』と言った。
背中のあたりがむず痒く感じた。
この主といるとき老騎士と出会った時をよく思い出す。
考え方も姿も全く別であるにかかわらずだ。
人はこれを心と呼ぶらしい。
心とは何か、また一つ考えることが増えた。




