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異世界の放浪記   作者: owl
25/121

少しだけ頭にきました

俺とオズマはたき火の前に向かい合っていた。

「すみません。そこまで考えが及ばず…」

オグマはさっきからずっと謝りっぱなしだった。

例の盗賊たちは縄で拘束したうえで目隠しをし、

少し離れたところにまとめて放置してある。

念のため魔物避けの魔力を周囲に張って。


「もういいって」

こうなってしまっては別の手段を考えるしかない。

オズマに捕らえるように命じたのは俺だし、

起きたことを悔やんでもどうにもならないのだ。


次の動きを決めるためにお客さんをもてなすとしようか。


「いい加減出てきたらどうだ、ダーシュ?」

俺は闇に向かって声をかけた。


「まさか君が魔族だったとはね。道理で強いわけだ」

闇の中からダーシュが現れる。

オズマが槍を取る。

風下だったのとたてこんでいたためか、

オズマにも気が付かれていなかったようだ。


「そういうことなら君も魔族かな?」

俺の方を見てダーシュ。

魔族と知って一緒にいる段階で答えるまでもなくアウトであるが。


「消しますか?」

オズマは静かに立ち上がる。怖いって。


「他言はしないよ」


「信用ならないな」


「僕だって命は惜しいさ」


「勘違いするな主ごとだ」

オズマの目が赤く光る。

これは脅しではない。それにオズマならばできるのだ。

知性をもつ獣ほど恐ろしいものはない。

その獣もレジェンド級という規格外である。


「わかったよ。これならどうだい?」

一枚の紙を出してくる。

紙には曼陀羅のような紋様が描かれえている。


「ギアス。特殊な呪法で対象の行動を縛るもの」

呪法。初めて聞く言葉である。あとでセリアかゲヘルにでも教えてもらおう。


「オズマ、いいよ。俺は彼を信じる」

こっちとしてはむしろ好都合でもある。

むしろ逃げられていればそれなりに対処を考えなくてはならなかったためだ。


「ですが…」


「大丈夫だ。ここに来たってことはあんたはここまで読んでたってことだよな」

ダーシュがここを監視しているのはさっきからわかっていた。

戦いの最中、例の視線を感じたのだ。

距離があったためか、ぼんやりとしか感じることはできなかったが。

ダーシュはこっちの正体を知った上で出てきている。

殺されることも承知の上で。

ならここにいるダーシュの目的は俺たちにも悪いものじゃないはずだ。


「いいや。予想外だらけ。一番の予想外は君たち。

良くてガルダ盗賊団と善戦してて、僕が参戦するつもりだったんだけど

すぐに終わらせちゃうし。それも全員生け捕りとか斜め上過ぎ…クックック」

ダーシュは腹を抱えて笑い転げる。

この人はいつでもぶれないな。


「盗賊団?」


「そう。あいつらこの周辺を荒らしまわるガルダ盗賊団。もちろん領主ともつながりがある」

やっぱり領主とつながりがあるらしい。


「冒険者ともども俺たちを亡き者にしようとしたのか?

無謀過ぎだし、そこまで危険を冒す必要性を感じないんだが」

そう冒険者ごと俺たちを消すにしてもリスクが高い。

冒険者は強い。魔物と戦えるだけの力を持っている。

そんな連中をまとめて倒すとか無謀以外の何物でもない。


「領主はギルドの上ともつながりがあってね。

私兵を大量にギルドに潜り込ませている。

あくまで推測だけれどギルドを乗っ取るつもりだったんじゃないかな」


なるほど。俺は少し納得する。

冒険者ギルドを乗っ取って私兵を潜り込ませるつもりだったのか。

私兵は維持費がかかる。ギルドの仕事を受けることができればその維持費も多少は浮くだろう。


「一領主が軍を持つことはかなりの制約がある。それは領主の反乱を恐れてのことさ。

理由がない限り領主が一定数以上の私兵を持つことは禁じられている。

だからギルドという組織が存在できてるっていう側面もあるんだけどさ」


そこらへんの制度はかなり複雑らしい。深く突っ込むつもりもないが。


「ダーシュが動いてたのもそれが理由か?」

ガルダ盗賊団とつながりがあって、私兵を増やしていた。

それなら王の手先であるダーシュの動く理由になる。


「まあね。そんなわけで僕は領主のしっぽをつかむためにこの街に滞在してたってわけさ」

筋は通っている。


「領主がセリアにこだわる理由は?」

それが一番聞きたかった。

金ならあるだろうし、

金にすれば一生不自由なく遊んで暮らせるぐらいの金なのは知ってる。

だがいまいち釈然としない。


「中央とのパイプを強固にするためだろうさ。

先祖返りは王都の貴族の間で高値で取引されている。

彼は金以上に中央とのパイプを強く望んでいた」


「取引された先祖返りはどうなる?」


「先祖返りは見栄えがいい。貴族の嗜好品でもある。

へたをすれば貴族の子弟よりもずっと大切にされる。

…見方を変えればあの子にとってそっちの方が幸せなんじゃないか?」


隣にいたオズマがびくりと体を震わせる。


「大事にされるとかそう言う意味じゃない」

頭が沸騰する。久しぶりにブチ切れそうだ。

人をただの道具として扱う人間たちに。

どうあろうとセリアはセリアだ。

彼女の未来は彼女自身が決めるべきである。


「君は本当に変わっているね。

この世界で人らしく生きられるってことだけでも本当に幸運なことなんだよ」

この世界での人の命は軽い。

その理屈はわかるが、納得いくかどうかは別の問題だ。


「人の意志をないがしろにしてもか?」

セリアの幸せはセリアがセリアが決めること。

それは断じて人から与えられるものではない。

まして赤の他人が決めることではないはずだ。


「僕は少し君が羨ましい」

いきなりのダーシュの言葉に俺は困惑する。

「なぜ?」


「君はそう考えられる場所で育ったんだね」

ダーシュの言葉に俺は胸を突かれた。


「君はこの世界が間違っていると思うかい?」


「わからない。けれども人は自分の運命は自分で選ぶべきだ」


「フフフ…ハハハ…ハッハッハッハッハ」

ダーシュ大爆笑。今シリアスな話だったはずなんだが…。

笑うポイントあったか?


「まさか魔族の君に人の在り方を諭されるなんてね」

涙を手でぬぐいながらダーシュ。

元人間ですけどね。


「ボールダー家を裁くにはあれで足りるのか?」

俺は遠くで拘束されている盗賊たちに顔を向ける。


「ああ、僕も用意していた証拠がある。あれと合わせれば領主を引きずり落とせる」


「…ということは後釜まで考えているんだな」

だからこそ初めから俺たちに目をつけていたのだ。

先祖返りが領主の手の届くところにいれば何らかの動きがあるはずだと。


「ただ私兵を持っているし。今反乱されても困るから

こっちは領主という地位から引きずりおろすだけが精一杯」


「それだとまた戻ってくる可能性もあるんじゃないか?」


「そこが痛いんだよねぇ。ボールダー家の根は深い。

その上ありあまる資金もある。すぐに元の地位に戻ってくる。

だから今までこっちも動けなかった」

その結果失った分を取り戻すために重税を課す。

それではだめだ。何の解決にもならない。


「…なら俺に考えがある」


「…君は彼らを殺すつもりかい?」

現状それが最も手っ取り早い方法だ。

魔族になってからなのか動物でも殺めるのにそれほど罪悪感は感じなくなっている。


「いいや。少しやり返すだけだよ」

こちらに喧嘩を売ってきたのはあちら様なのだから。

倍にして返してやろうじゃないか。

俺はにやりと邪悪に微笑んだ。


「まあいいや。芽を摘んでくれるならこっちは手段を問わない。

本来なら僕たちがやらなきゃならないことだし。お手並み拝見といこう」

いつになく陽気な声でダーシュは立ち上がる。


「ガルダ盗賊の連中の処遇だがここにおいておくのは無しだ。

魔物の目の前に餌を置くようなものだからね。

間引くのも手だけど、それは全員捕まえた時点で考えていないんでしょ?」


「ああ」

偽善かもしれないが、人を殺すことはできるだけ避けたい。


「…それじゃ、一番近くの村はここから西に少し行った場所に…」


「明日の昼までにはリバルフィードのギルドに連行できる」


「十数人を馬車も使わずに馬車よりも早く連行できると?

まったく君らは本当に常識というモノが通じないな。

こちらとしては好都合なんだけど」

ダーシュは大げさにおどけて見せた。


「もう行くのか?」


「夜明けまでにいろいろと連絡をつけないとね。それじゃ」

離れた場所にある馬に飛び乗るとそのままどこかに走って行ってしまった。

さて、こっちの方針は決まった。

オズマの姿が目立たない夜のうちにリバルフィードの手前まで移動するとしよう。

俺はたき火に砂をかけて消す。

「オズマ、リバルフィードまで頼む」

周囲はぼんやりと明るくなり始めていた。

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