魔の森です
空はどんよりと曇っている。
夕暮れだというのに日の光も見えない。
もうじき一日が終わる。
深く暗い森が眼前にある。
馬車を使いここまで半日で移動してきた。
テントを張ったあとは、依頼を受けた冒険者たちは各々自由時間となっている。
武器の手入れをするもの、酒を飲むもの、さまざまだ。
俺とダーシュは外れの方に待機している。
領主から十倍という破格の待遇を受けたことにより時折むけられる視線が痛い。
「景気がいいねえ」
「そりゃどうも」
妬みの混じった挨拶に俺は上の空で答える。
俺だけ領主命令で十倍なのだからそう言うことになるのは当然である。
横にいるオグマさんが相手を睨みつけて嫌がらせはあまり受けてないが。
魔の森。
この世界にはそう言った場所が多数存在する。
一言でいえば魔素を発生させる森なのだという。
焼き払おうとすると森の魔物が大量に押し寄せてくるという。
まるで森がそれを拒絶するかのように。
仮に焼き払ったとしても次の日にはその場所はほぼ元に戻っているとのこと。
また放置し魔素が多くなると瘴気が発生し、強力な魔物も出現しだすという。
さらに放置するとスタンピードと呼ばれるものが発生する。
スタンピードは魔物の大量発生で街すらも呑み込むという。
過去には戦乱に明け暮れ、対処を怠ったために国が滅んだ事例もあるらしい。
そのためその付近の者たちは定期的に魔物を間引く必要がある。
それを国土としてもつ国は毎年多額の費用を払い魔物の討伐をしているという。
今回のキラーエイプ討伐もそう言った意味合いも兼ねている。
本当に魔の森とは厄介な森である。
さらに俺はこの隊の指揮官から夕刻討伐対象と方針の説明を受けた。
今回の討伐対象はキラーエイプ。
文字通り猿の化け物で作物を食い荒らし、人すらも襲うという。
体は人間の子供ほどの大きさで木々の上で生活しているという。
この森の魔物は主にキラーエイプが多く出ると言われており、
木々の上からの攻撃に毎回毎回苦戦させられるとのこと。
俺は渡された夕食分の干し肉を口にした。
昼から硬いパンと干し肉ばかりの食事でかなり憂鬱だ。
セリアの料理が懐かしい。というか恋しい。
今頃どうしてるだろうか。
セリアの方と言えばダーシュに言われたとおり宿を移すことにした。
借りていたほうはそのままにしてだ。
少し多めの硬貨を渡し、食事の方は旅の連れが病だと言って出し入れしてもらっている。
宿を一歩も出ないようにセリアには言い聞かせてある。
オズマをセリアの方につけようと思ったのだが、かえって目立つだろうし、
相手を皆殺しにしてしまっては人間社会で生活できなくなる恐れがある。
それに今のうちにオズマという男の力を見ておきたい。
「オズマ。明日の討伐戦、お前の分析はどうだ?」
オズマに話を振ってみる。
騎士団経験者はどんな話をしてくれるだろう。
「指揮官の言うとおり弓による攻撃が主体になるでしょう。
冒険者たちの武器を見ましたがかなり使い込まれているので、ある程度戦力としてみなすことができるかと」
かなり分析されている。さすが戦いのプロ。
ちなみにオズマの武器は槍である。
俺たちは後方支援に徹するように指揮官に言い渡されている。
(キラーエイプの討伐経験がないということでそっちに回された)
折角オズマの槍裁きを見れると思っていたのに残念だ。
「なあ、オズマは魔の森の討伐経験があるのか?」
気になった疑問をぶつけてみる。
騎士団経験者ということから考えても討伐経験はあると思われる。
「魔の森の討伐の経験は何度かありますが、キラーエイプは初めてですね」
既に経験済みとか。さすがです。
「他の場所ではどんな魔物が出るんだ?」
「私の討伐した場所は狼、木に擬態する魔物、獅子といったところですか」
うん、それらから考えれば猿なんか序の口もいいところだな。
「魔の森は魔族の住んでいる土地にもあるのか?」
そう言えば魔族の土地はどうなんだろう。ふと気になった。
「以前あったようですが魔族によりかなり前に消されたと聞いています」
消されたね…。人間の取れる選択肢ではないわな。
確かにゲヘルじいさん、ヴィズル辺りならできそうだ。
ヴィズルの場合、森が湖になりそうだけど。
「それにしても石とは…少し驚きました」
そう俺の攻撃手段は投石である。
安いバックを街で買い、石を詰め込んできてある。
いちいち収納の指輪を使わないのは目立つし、若干反応が遅れる為である。
「ははは…」
…オズマ以外、誰でもそう思うってことだろうな。
あんまり人前で化け物じみた動きを見せるのもなんだし、
こっちの方が倒すのに効率がいい。
ほぼ動かずに視界に入ったモノをすべて的にできる。
それに何と言っても一番はコストがかからないことだ。
何度か試してみたが俺が武器を持てば大抵すぐ壊れるし、常に修理しなくてはならない。
そんなこともあってか、俺の中では投石が戦い方の主流になっていた。
「明日は主の戦い拝見させていただきます」
なんかオズマの視線がアツい。なんで君たちそんなに忠誠値高いの?
「まあ…。それなりに頑張るよ」
リバルフィードにはセリア一人残してきた。
不安がってるだろうし、領主の手がセリアに向くことも考えられる。
宿を変えたは時間稼ぎになるが、いつまでも安全ではないだろう。
今回は最悪出し惜しみなしでいく。
状況次第では俺だけで対象を駆逐させてもらうつもりでいた。
そして次の日になる。




