領主からの依頼です
その日の夕方、リバルフィードの街でちょっとした買い出しだ。
収納の指輪のおかげで少し多めに買えるようなったし、次の街まで少々距離がある。
昨日のこともあったのでセリアには帽子をつけてもらってる。
オズマは宿で待機。ただの買い出しでものすごく注目浴びそうだし。
本人は全く気にはしないだろうが。
買い出しが終わると通りは既に暗くなりかけていた。
行きかう人々は足早に去っていく。
そんな中、一つの馬車が通りを走ってくる。
通りの人たちはそれを見るなり、動きを止める。
「領主だ」
通りの人間たちはそう小声で囁く。
人がすっと引いていく。
店の中に隠れる者、窓を閉める者。
親が歩いていた我が子を抱きかかえるとどこかに走り去っていった。
この状況で領主がここの領民からどう思われているか容易に想像できる。
…これは悪徳領主のパターンですよね。
少し興味があったので俺たちは道の隅でそれを眺めていた。
装飾の施された馬車が道の中央を堂々と進んでくる。
領主の乗った馬車は周囲を武装した私兵に守られていた。
金がかかってそうな感じだ。
悪徳領主は儲かるのだろうか。
馬車が俺たちの前でいきなり止まる。
…あれ?ちょっとまずいことになったか?
俺の前に私兵が両側に立ち並び立ち道が作られる。
その道の中を恰幅のよい男が歩いてきた。
感想は一言。ブタが服着て歩いてる。
領主の視線が一瞬セリアに向けられる。
セリアがびくんと反応し、さっと俺の後ろに隠れた。
「あなたがユウ・カヤノさんですか?」
領主は人のよさそうな笑みを浮かべる。
「はい」
「私はここ、リバルフィードの領主バルマ・ボールダーといいます」
敵のボスが現れたって感じだ。
まさか相手から直に来るとは思ってなかった。
「その領主様がどうしてこのような場所に?」
おおよその見当はつくが、あえて聞いてみる。
「レッドベアを倒した英雄がいると聞きおよびやってきました」
レッドベア討伐…俺の功績にしたのはダールさんだな…。
あの人のことだ。善意で譲ってくれたのだろう。悪い気はしないが…。
「それは一緒に戦ってくれたドルトバの警備兵の方々のお力あってこそです」
実際そうである。
レッドベアを薬を使って呼び出したのはダールさんたちだったし、途中で倒れてしまった。
「そう謙遜なさらず、多くの魔石もこの街で換金したのでしょう」
言い換えれば魔石を換金したことも知ってるぞ、だ。
この街にいる限り自分の手の内から逃れられないと言ってるのも同義。
…さあ、どうするか。
「どうか明日からのキラーエイプ討伐に参加していただけないでしょうか」
なるほど。セリアと俺たちを分断するつもりらしい。
「私など駆け出しの若輩者もいいところ。
より経験を積まれたベテランの方々の足手まといになってしまいます」
やんわりと角が立たないように断っておいた。
報酬はカルネ金貨十枚だったか。
結構な金額だが、ある程度の手持ちはある。
「いえそこをなんとか」
領主の頼みを断るとギロリと領主を取り巻く私兵どもがこちらを睨んでくる。
人間のころの俺ならビビってたかもしれない。
…ここで相手の策に乗ってみるのもありかもしれない。
このまま相手の出方を待つより飛び込んでいった方が相手の出方の予測がつく。
相手はこちらを侮っている。その隙をつける。
「では提示された額の五倍、いえ十倍払いましょう。いかがですかな」
金貨百枚。ちょっとぐらっときた。
これだけあればしばらくは稼がなくてもよさげだし、
セリアの今後のための資金にもなる。
旅をしてわかったが、セリアは怖ろしく聡明な子である。
きちんとした場所でしっかりとした教育を受けさせるべきだ。
そのためには資金は少しでも多いほうがいい。
少しずつそう思うようになってきていた。
「…わかりました。そこまで言われるのなら…」
「ではよろしく頼みましたぞ」
領主は何事も無かったように馬車に乗り込み去っていく。
領主のここに来た理由は簡単。
単にセリアを値踏みしに来たのだ。
俺としてはあんな野郎に絶対にセリアは渡さない。
俺は背後のセリアの頭を撫でた。
どうやら領主との対決は避けられそうになさそうだ。
「あのさ。深く関わるなっていったよね」
人気のない場所を通ると物陰から苛立ち交じりの声が聞こえてきた。
ダーシュである。暗闇で見えないが声だけは聞こえる。
「領主はもう俺たちを逃すつもりはないだろう。
ここで逃げても追ってくるさ。ならあっちの手に乗るのも悪くない」
確信があった。わざわざセリアを値踏みしに来たのだ。
次はどんな手段を使ってもあの領主はセリアを手に入れに来る。
「ずいぶんと自信家じゃないか。
…君も僕の計画に組み込ませてもらうけどいいかい?」
ダーシュは嘆息する。
「セリアの安全を保証してくれるなら」
それ以上それ以下の条件は無い。
セリアの身の安全が第一だ。
もちろん力ずくで領主にいうことを聞かせるという手段はあるが、
俺は可能な限りそう言う手段は取りたくない。
「明日の早朝、宿を北門近くの『ペッケトッケの宿』に移すといい。
あそこなら領主の目は比較的届きにくい。
もちろん今泊まっている宿は契約したままでだ。
宿の主人には僕から話を通しておく。
連れが病人と言うことで話を合わせてくれ」
俺はセリアに向き合う。
「セリア…今回討伐には連れていけない、それでもいいか?」
「うん」
セリアは今回は素直に従ってくれた。
レッドベアの一件で考えを改めてくれたのだろうか?
「ダーシュさん、ありがとうございます」
セリアが物陰に向けて頭を下げる。
「…まったく僕も大概だね」
そう言うとダーシュの気配が消えた。
王の手先って気苦労多そうだ。




