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異世界の放浪記   作者: owl
20/121

ちょっと困った相手らしいです

大通りで二人の奇妙な言い合いが続く。

徐々に周囲には人が集まり始めている。

こいつら本当に人目気にしないな。

「それを言うなら貴様もだ。ダーシュ・ランブル」


「ルーベ王国のアラン姫から求婚されてたんじゃないのかい?

団長にも推薦されたって話を聞いたよ?

そもそも『黒獅子』の君がどうしてこんな地方にいるのさ」

『黒獅子』ってものすごくかっこいい二つ名。

オズマさん…すごく有名っぽいんですが。

それに王族から求婚?何その超絶リア充。


「それはこっちのセリフだ。貴様のここにいる理由は何となくわかるぞ。さしずめ『お…」

そんなことは全く意に介さないといったようすでオズマさん。


「わーわー。そう言うこといわないの。業務妨害で訴えるよ」

ダーシュは思いっきり険悪な表情である。


「業務妨害?それなら出るところに出てお前の立場を詳しく話してもらおうか」

二人とも知った仲の様子で一歩も引く気配がない。

先に引いたのはダーシュの方だった。

「用が済んだらとっとと失せろ」


「それのセリフを後から来た君がいうかな…。

こっちが先に目をつけていたのにどうして君は横からかっさらっていくのさ」


「二度目はいわないぞ」

オズマは剣の柄に手をかけ凄む。


「へいへいわかりましたよ」

ダーシュは手を上げて降参のポーズをとる。

俺の隣ではセリアが必死に笑いをこらえている。


「それじゃね。お二人さん」

ダーシュは背を向け、歩き出す。

「ありがとう、ダーシュさん」

セリアが頭を下げる。ダーシュは振り返ることなく手を振る。


「お見苦しいところをお見せしました、主よ」

オズマが涼しい顔で俺に頭を下げてくる。


周囲の人の目が痛い。次からは通りで口論とかマジでやめて。

とにかく場所を変えよう。

俺たちは人ごみをかきわけて人気のない場所に移動した。

三人になるとオズマはセリアに視線を向ける。


「改めて私はラーベ公の配下六位、オズマと言います」

六位ってすごいのかな…?

他の魔族とか知らんのでいまいちよくわからん。


「そちらの方は?」

オズマの目がセリアに向けられる。


「彼女はセリア。俺と一緒に旅してる同行者」


「…ほう。先祖返りですか」

珍しいモノをみるようにオズマ。実際に珍しいらしいが。


「ダーシュとは知り合いなのか」

気になっていたので聞いてみた。


「以前仕事で少し関係を持ちました。ここのサリア王の手先ですね」

その言葉に俺とセリアは固まった。

オズマさん、さらりととんでもないこと言いやがった。

そうなるととんでもない相手に目をつけられていたことになる。


王国ではなく王と確かにオズマは言った。

王の直々の手先ということは昔いた世界では公安である。

公安の相手と言えば国家の敵である。

…どうやら俺はヤバい相手に目をつけられたっぽい。

だとすれば問題は別にある。


「どうしてお前は俺をすぐに見つけられたんだ?」

魔族だとばれている可能性を考慮しなくてはならない。

俺を探し出せる手段があるということだ。


「魔族同士ならば近くにいれば相手の魔力を察することができます」

そう言えば以前、魔族たちに奇襲をかけようとして見破られたな。


「人間にもそれは可能か?」

問題はここである。


「デリス聖王国の一部の人間やマルドゥサ神聖帝国の異端審問官ならばそれは可能でしょう。

ただし魔族の感知とは系統がかなり異なるために、相手を直接目視しなくてはなりませんが」

そういうことならばこの国にいる限り多少は安心できそうだ。

デリス聖王国、マルドゥサ神聖帝国…西方の国だったか、かなり前にセリアに聞かされた記憶がある。

響きだけで魔族とは敵対していそうな名前である。


「ダーシュは俺の種族をわかっていて接触してきたと思うか?」

念のために聞いておく。

もしそうならこの国を即刻去るか、ダーシュを消すしかない。

できるだけ後者は選びたくないが。


「…御安心を。あの男はそういった能力を有してなかったはずです。

あの男が目をつけた理由はむしろ…」

オズマの視線がセリアに向けられる。

「私?」


「先祖返りは希少ですから」


「…たしかにな…」

冷静にダーシュの言動を振り返ればそれが正解だろう。

もちろん油断はできないが。


「コホン…ところでオズマはどうやって隠しているんだ?」

人の社会で生活するには隠す手段があるはずだ。

ばれてしまえば生活基盤を無くすだけではなく、追われる身になるためだ。


「…そうですね。確かに魔力を隠す手段があります」


「それは俺にも使えそうか?」


「訓練次第で」


「それじゃ、今度それから教えてくれ」

人間社会において魔族であることがばれないというのは必須事項といってもいい。

先達は必要なのだ。


「キミも大変ね」

横から他人事のようにセリア。


「…主よ。彼女の口調はいささか不敬かと」

オズマに睨まれ、セリアはさっと俺の後ろに隠れる。


「セリアはいいから」


「主がそうおっしゃられるならば…」


「それと主はやめてくれ。これからは教えを乞う立場だ。ユウでいい」

本当にこの男、堅苦しくてしかたがない。

実直そうではあるが…。


「ですが…」

「俺に従うって言葉は嘘だったのか?」

こうなったら強権発動である。

オズマの場合強気でいかないと話が進まない。


「失礼しました。ではユ、ユウ殿」

オズマさんの件はひどくぎこちないがこれはこれで解決としたい。

…なんかすごい徒労感…。


…考えようによってはこれはこれでいいのかもしれない。

魔物はオズマが倒したことにすればだれも不自然に思わないだろう。

セリアと歩いていて絡まれることもない。


何事もポジティブに考えてくって素敵だよね。

そうして俺はまた一つ厄介ごとの種を抱え込むことになったのだった。

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