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異世界の放浪記   作者: owl
19/121

変なのと出会いました

朝食が済んで俺はセリアに昨夜のことを説明した。

指輪の力を使ってフライパンを何もない空間から取り出して見せる。


帰ってきた後、宿にあるモノでいくつか実験をしている

部屋にあるものなら出し入れ可能。

街ぐらい入るほどなのだからこのぐらいは余裕である。

普通にこの宿ごと収納できてしまうだろう。


「すごいモノもらったね」

セリアはしきりに感心していた。

「詳しくは知らないけど空間属性の付与されているマジックアイテムは

商人たちの間ではかなりの高額で取引されてるみたい。

行商の人が言ってたけど一樽ぐらいのもので家が建つとか」

「まじ?」

考えてみれば商人にとって商品の移動手段は生命線である。

財産を隠して歩けるとなれば絶対に欲しいアイテムだろう。

…これには街が入るんですが。


「それで今日この街に滞在したいんだけど」

オズマと言う魔族を待たなくてはならない。

相手がどんな手段でコンタクトを取ってくるかわからないが、

場所は動かないほうがよいという判断だ。


「別に一日ぐらいリバルフィードにとどまってもかまわないよ。

資金なら余裕はあるし、まだ冬入りするまでは時間があるからね」

セリアから許しは得た。

「それじゃ、今日は街を散策するか」

ということでその日は何をするわけでもなくリバルフィードの散策となった。

大通りとギルドは出来るだけ近寄らない方針で。

昨日の連中に出会わないとも限らない。



宿を出た矢先に飄々とした男に声をかけられた。

「君らこの街は始めてかい?」

恰好は街の人と大差ない服装。身長は俺と同じぐらいだろうか。

この世界では低い部類だろう。

細目に仮面のような笑みを浮かべている。

セリアに対してのナンパかと思ったが、

こちらを値踏みするような視線には心当たりがある。


こいつ宿でセリアでなく俺のほうを見てた奴だ。


このタイミング、偶然ではありえない。だとすると…待ち伏せされていた?


標的が俺ならば大概のことには対処できる。

ダーシュと言う男の目的がわかるまで様子を見ることにした。


「そうだが…。あんたの名は?」

俺は表面上はあくまで冷静を装う。


「僕の名はダーシュ。いわゆる何でも屋だな」

自己紹介から怪しさ満点である。


「君ら、いつまでこの街には滞在するつもりなんだい?」

馴れ馴れしく聞いてくる。

「明日までよ」

セリアが応える。

「なら今日が最後ってわけだ。なら僕が案内してあげるよ」

張り付けたような笑みと言うのはこういうのをいうのだろう。

俺はこの男がどうも好きになれなかった。


「セリアはどう思った?」

俺はセリアに小声で問う。

「悪い人ではなさそう」

うん、セリアの直感に賭けることにしよう。

こいつは怪しいと思うが今日だけだ。

明日にはこの街を出ていくのだから。


ダーシュの案内で快適にリバルフィードを探索できた。

リバルフィードはマルフィーナ街道沿いにできた街である。

歴史は古く、五百年前からあるという。

新市街地と旧市街地に分かれ、歴史を感じさせる街並である。


ダーシュはガイド並みによく知り尽くしている。

区画整理が行われた旧市街地はところどころ迷路のような路地になっており、

俺の好奇心をくすぐる。

一人細い路地に足を向けるとダーシュに手をつかまれた。


「あまり変なところいくとまた狙われるよ」

今ダーシュはまたと言った。やっぱりこいつ昨日の奴だ。


「…あんた、昨日ギルドで見てた奴だな」

この際ちょうどいいし、敵か味方か白黒つけておきたい。


「お兄さん、見かけによらず怖い人だね」

ダーシュはこちらの顔を覗き込む。


「声をかけてきたのは偶然じゃないな。何が目的だ?」


「そりゃ珍しかったからね。リバルフィードに、それも領主の息のかかったギルドに

先祖返り連れてくるなんてよほどの馬鹿か、それとも事情があるのか気になったからね」

はい、馬鹿でした。これはやっちまった感があるぞ。

…知らないうちに地雷踏み抜いてたパターンだこれ。

俺は顔に手を当てる。


「クックック…そんなに鋭いのになんでそんなに抜けてるの」

そんな俺を見てダーシュは腹を抱えながら笑い始めた。

「ほっとけ」

ダーシュの笑いに俺はちょっとムッとする。

「てっきり自分たちと同じかと思っちゃったじゃないか」

「同じ?」

あっちにもいろいろと事情があるようだ。

「…明日リバルフィードを立つ君らには関係のない話さ」

「二人ともどうしたの?」

異変に気が付いたのかセリアが近寄ってくる。

「なんでもない」

関係ないなら別にいいや。

知れば深く関わることになりそうだし、また面倒事に巻き込まれそうだ。

ここは深く突っ込まないことが最良の選択だろう。

とにかく今は観光を楽しむことにする。



俺たちは昼下がりの午後、ダーシュ君の進めてくれた食事屋に満足し、

通りの茶店に座り、通りに面した席でお茶を飲んでいた。

旧市街地にあり、歴史を感じさせる店だ。

雰囲気はいいし、茶の味も悪くない。

「君らはどこまでいくの?」

そこでダーシュが声をかけてくる。

「王都カーラーンまで」


「でもどうして今日滞在することにしたんだい?」


「人と待ち合わせしててね」

それにしてもどんな人が来るのだろうか。

そもそも人じゃなくて魔族なんだが。

人間の社会と接点があるのだから見かけ上は人間だろう。

「へー、待ち合わせ?」


「俺も初めて会う人間でね、名前ぐらいしかわからない」


「それでその名は?」


「オズマっていう名前なんだが…」

「オズマ?」

ダーシュの表情が凍りつく。


「…オズマ…オズマ…同名…?けど珍しい名前だぞ…」

名前を聞くと呪文でも唱えるように一人ぶつぶつと何かつぶやき始めた。

何か心当たりでもあるのだろうか?


通りの向こうから長い黒髪で長身の男が歩いてくる。

漆黒の鎧を身に纏い。他者と隔絶した雰囲気。

ひどく整った顔立ちで注目を集めているがそんなことはそっちのけである。

にぎやかな街とはおおよそ不釣り合いなその存在は完全に周囲から浮いていた。

一言でいえば、世紀末を切り取ってのどかな街の風景に張り付けたみたいな感じ。


はい、何となくわかりました。


「遅れました。我が主よ」

いきなり眼前で跪かれた。

これには俺もセリアも口を開けたままになった。

俺はどこから突っ込むか頭を抱える。

確かに人の社会と接点はあると言っていたが…。

ラーベさん…俺の求めているのはそういうんじゃないんだよ…。

頭を抱えて状況を整理しているとオズマが口を開く。


「どうしてお前がここにいる?」

オズマはダーシュを睨みつけていた。


「それはこっちの台詞さ。それに主って何?」

ダーシュは目を見開き、顔をひきつらせている。

務めて冷静だったダーシュの動揺が顔まで現れてる。


「答える義理はない」

ダーシュの問いにそっけなくオズマさん。


俺の心の叫びを無視して、二人は俺の前で口論を始めている。

通り中の注目を浴びている。

のどかな昼下がりの午後のことであった。

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