幕間 特異点
何処までも深い暗闇が支配する常夜の地。
そして、人が到達したこともない極北の地。
その地で六体の魔族が円卓を囲んで座っていた。
「まさかわしの『地殻砕き』が止められるとはな。長生きはしてみるものじゃな」
腕を組み豪快に笑う。
自身の最大の技が止められたというのにヴィズンはなぜか上機嫌である。
「まさかアレを受けて無事とは目を疑ったわ」
ネイアも笑みを絶やさない。
「それをあなたがいいますか。そもそもゲヘル殿のメギドから生き残った者など初めて見ましたが」
ラーベは大げさにおどけて見せる。
「この世界の特異点か。そんなものが本当に出てくるとは」
にたにたと笑みながらゼロス。
「ワタシはそれ以上にあの者のアリカタがキニイッタ」
クベルツンは影を揺らめかせる。
「ただの武力だけのモノならば我々もこのような選択をとることも無かったじゃろうな」
ゲヘルは当初あの者を消すつもりだった。
報告によれば彼の者はここの門番を蹴散らし、どこかに消え去ったという。
それを報告で受けた後、ゲヘルは少なからず動揺した。
自分たち魔族と対等以上に戦える存在がこの世に現れたことに。
それはこの世界の歪みにほかならない。
放っておけばこの世界にどんな大災害をもたらすかわからないものだからだ。
そんな中、警戒網を張っていると力の揺らぎを捉えた。
自身たちの持ち得る最大戦力をあの場にかき集めた。
その特異点を消し去るためだ。
芽を摘むのならば早いほうがいい。
世界にとって力だけの存在など害悪に他ならない。
だが彼の在り方を見て考えを改めるに至った。
彼ならばこの世界を変えられるかも知れない。
この歪み、停滞しきった世界を。
その想いは皆同じだったようだ。
「本当に女神共の手先ではなくてなによりでしたわ」
しみじみとネイア。
「そうじゃの、女神共の手が及ぶ前であって幸運じゃった」
ゲヘルの言葉に全員が頷きあう。
「ゲヘル殿、王の指南役の人選はお決まりですかな」
ラーベが切り出してくる。
「のうラーベ、オズマを借りたいのだがよいか?」
「…オズマですか。それはよい人選です。奴ならば人の社会との接点もあります。
これほどの適任はいないでしょう。彼には話をつけておきましょう」
ラーベは優雅に微笑む。
「ラーベばかりずるいですわ」
「ワレワレも王のために何かシタイ」
「フム、ならば今回の詫びとしてそれぞれが一品ずつ献上するというのはどうか。
此度の件では相当な迷惑をかけたしの」
ゲヘルの提案にそれぞれは頷きあう。
「なるほど。さすがゲヘル殿」
「ほう」
「競争ですわね」
「これは楽しそうだ」
「オウにふさわしき器ヲ」
各々はそう宣言し、六体の魔族は立ち上がる。
こうして六人の間で奇妙な取り決めがなされた。
ユウにとって思わぬ方向へ進んでいく。
やがてそれは世界に対する大きな波紋となっていく。
まだ世界は特異点の存在を知らない。