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異世界の放浪記   作者: owl
13/121

魔族と対決しました

「相手をするのは我々です」

目の前に立つのは六人の魔族。

骨のようなものを被った老人、薄気味悪い笑みをうかべた子供、ゆらゆらとたゆたう人影、

六枚の黒い翼を背後につけた女性、貴族のような身なりをした男性、棍棒をもった巨人。

それらがどんな力を持っているのか。

俺は思考を張り巡らせる。


「先ずはそちらからでかまいませんよ」

これは相手の余裕だ。

ならば遠慮なく付け込ませてもらう。


だれを先に相手にするか。

俺は冷静に六人を見比べる。

先に倒すべきは誰かを考える。

翼をもつ相手に目が向く。

この場合、注意の行き届かない頭上からの攻撃が最も危険であろう。

そう俺は判断し、空にいる女性に狙いを定める。


俺は肩に下げたバックから石を取り出し、思い切り投げつける。

石は真っ赤に染まり、空気の壁を切り裂いて相手に向かう。

銃弾よりも早い、人間なら目視すらできない速度。


だが全力の投石ですらひらりとひらりと躱していく。

文字通りかすりもしない。


「あら、石をなげるのがうまいのですね。次はこちらからイカせてもらいますわ」

そう言うと黒い六つの翼を大きく広げる。

同時に数千、数万の羽が地面に向けて解き放たれる。


俺はその瞬間とっさに腕に不思議パワーを纏わせる。

広範囲攻撃。それを意識した瞬間、豪雨にも似た攻撃が俺のいる場所(半径十メートル)ほどを襲った。

まるで格の違いを見せつけるかのように。


「うがああああああ」

防御に徹しているはずなのに全身に針で刺されたような激痛が体を襲う。

自分のいた場所だけ残して地面が削れていく。

密度の濃い攻撃を受け、石を入れていたはずのバックが地面に落ちる。

反撃すら許されない一方的な独壇場である。

たまらず俺はその範囲外に飛び出す。


「どうしマシタ?」

無数の口が俺に向けて俺に向かってくる。

拳で地面を叩き、その反動でそれをかわした。

俺は自身のいた場所を見て顔を引きつらせる。

地面は何か所もえぐられていた。

食いちぎったというのが最も適切な表現かもしれない。

触れればああなるらしい。


一体一体は化け物だ。

こうなれば狙いを決めて一人ずつ確実に倒していくしかない。

近場にいた貴族のような身なりをした男に飛びかかる。


拳が相手を捉えたと思った瞬間、男の体から黒い霧のようなものが噴き出す。

視界が暗闇に覆われる。

地面を蹴って横跳びするが黒い霧を振り切れない。

次の瞬間、全身を針で刺されたかのような痛みが襲った。

「ほう、頑丈ですね」

男は優雅にその場から飛び退く。


「くそっ」

黒い霧が晴れるとそこには今にも槌を振り下ろさんする巨人がいた。

俺は目を剥ぐ。今までに経験したこともない悪寒が全身を走り抜ける。

避けられないと判断し、俺はとっさにすべての不思議パワーを両手に纏わせる。


「うぎぎぎぎぎ」

俺は歯を食いしばりその攻撃を両手で受け止める。

振り下ろした槌により俺の周りの地面がドーム状に陥没する。

受け止めたはずなのに周囲は隕石が落ちたように陥没している。


不思議パワーで覆ったはずの両腕が悲鳴をあげている。

とてつもない破壊力。不思議パワーがなければ即死だっただろう。

次はアレを絶対受けてはならない。


巨人の横なぎを跳躍で躱す。

暴風が吹き荒れ、俺の体は抵抗できず風の渦に巻き込まれる。

反撃するつもりが暴風に飲まれ身動きすらままならない。


上下左右の感覚などない。

暴風に言いようにされていた体が突然何かにぶつかる。

岩でもなく木でもない。生物のような温かみと

ねちょりとしたそれは全身に絡みつく。


「それじゃだめだよ」

子供の姿をした男の右手がわけのわからないものに変化しこちらに巻きついていた。

タコの足のようでもあるし、触手にも見える。


「こんなもの…」

力をこめ、その拘束を解こうとする。

動きを止められたのはほんの一瞬だ。


目の前にゲヘルと言う魔族が浮かんでいた。

右手と左手の背後に大きな魔法陣のようなものが描かれている。


一瞬その精緻な陣に目を奪われるも、

魔方陣は線となりその魔族の両手に白と黒の玉となった。

両手を合わせると二つの玉は混ざり合う。


直感がひっきりなしに警鐘を鳴らす。

これはさっきの巨人の一撃よりもヤバいものだ。

空中にいる俺は無我夢中で体の周りに絡みついているモノを解こうとする。


「メギド・レイ」

その魔族がその言葉を口にすると目の前が白く染まる。


光線が森の中を駆けぬける。

それは真っ直ぐ森を貫き、海まで伸び、大気をかき分け、宙に到達していた。


気が付けば抉られた地面の上に倒れている。

周囲には焼け焦げた臭いが立ち込めていた。


意識が飛んでいたらしい。

どれほど吹き飛ばされたのかわからない。

俺は痛みをこらえながら上体を起こす。

服はすべて吹き飛ばされていた。

全身が悲鳴を上げている。

生きているのが不思議なぐらいである。


「…まだ生きていますか」

聖職者が神託を告げるようにゲヘル。その傍らには五人の魔族が立っていた。

満身創痍な俺に対し、こちらを見下ろす六人の魔族は全くの無傷。


どういう無茶ゲーだよ。

今までこの世界で出会ってきたどんな魔物など比べ物にならない。

途方もないほどの絶対的な、圧倒的な実力差がそこにはあった。


「うるせえ、化け物」

こんな相手に絶対に勝てっこない。


ここで俺は死ぬかもしれない。そんな思いが胸中を横切る。


死を意識した瞬間、全身に体が小刻みに震え始めた。


逃げたい。


逃げたい。


逃げたい。


だがここで俺が逃げれば、みんな死んでしまう。


ダルカさん、ラムばあさん、ラクターさん、ダールさん、

イアルさん、ルーカスさん、ルジンさん

今までこの世界で出会ってきた人たちの顔が浮かんだ。


最後にセリアの顔が浮かぶ。

初めてできたこの世界でのつながり。

これが話に聞いた走馬灯というものだろうか。

もし俺が死んだらセリアは悲しんでくれるだろうか。


…何を考えている。

俺は自分の顔を殴りつけた。


ここをこいつらから守れるのは自分しかいないのだ。

この理不尽な暴力から。

こんな時に弱気になってどうする。


「…そうだよな。負けるわけにはいかないよな」

俺は立ち上がると身構える。

腹をくくると自然と震えが収まった。


「それは我々相手に戦いを継続するということでよろしいでしょうか」

何の抑揚もなくその魔族は語る。


「そうだよ、くそったれ」

精一杯の悪態をつく。

六人の魔族は真正の化け物だ。

打つ手も思い浮かばなければ、こちらの勝てる見込みも全くない。

だが退くのは俺が、俺自身が許さない。


その最悪の戦いは予想もつかない結末で幕を下ろすことになった。

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