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異世界の放浪記   作者: owl
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開戦

アウヌスの騎馬兵はファルカッソ砦の前を流れるルタ川を渡っていた。

その数およそ六万。今の時期、ルタの川はそれほどの水量は少なく歩いて渡れるのだ。


サルア王国は自然の要塞である。

冬は雪が障害になり、それ以外は山の雪解け水が大きな川となり

東の騎馬民族の侵攻を阻んできた。だが雪解け前の春先だけは違う。

ルタ川の水量は大きく減り、歩いて渡れるようになる。

アウヌス国の王になったパルムンはそれを知っていた。

入念な下調べを行い、数か月の準備期間を経てサルア王国を攻める決断をしたのだ。


聞けばサルア王国において王党派と大臣派のいざこざが終わりを告げ、

王都カーラーンに出現した化け物により、大臣派は事実上壊滅。

そうしてエドワルド王がサルアの実権を握ったというわけである。


アウヌス国の新王パルムンは焦っていた。

調べれば調べるほどエドワルド王の優秀さがわかる。

二十三という異例の若さで王を冠し、ゆっくりと大臣派を切り崩していったのだ。

それも十年と言う長い歳月をかけて。自分が同じ立場ならそんなことはとてもできない。

大臣派との危ういパワーバランスの中、一歩間違えれば殺される。

それこそ薄氷の上を歩くようなものだ。

大臣派という腫瘍を排除し終えたエドワルド王はサルアを繁栄に導くだろう。

それは同時にアウヌス王国がサルア王国への侵攻はおろか、

西側諸国への足掛かりを失うことを意味していた。


叩くならば今しかない。


『災害』がサルアに現れたと聞き、パルムンはそれを好機ととらえ、

去年からずっと準備してきたのだ。

その上、王都カーラーンには化け物が現れ城壁の一部ごと吹き飛ばされたという。

これほどの好機は無い。まるで天がそれを我々にサルアを滅ぼせと言っているようでないか。

一族の悲願であったサルア王国を落とすことができれば西側諸国への足掛かりにもなる。

奴を倒し我が名パルムンを歴史に名を刻むことにしよう。

パルムンは内心、ほくそ笑んでいた。



難攻不落のファルカッソ砦。サルア王国の南に位置する砦で最も戦略的に重要な場所とされる。

ここを抑えれば王都カーラーンは目と鼻の先になる。

もしファルカッソ砦を落とすことができるのであれば、実質王都を取ったのと同じなのである。

現在カーラーンでは任命式が行われている最中。エドワルド王は未だ式典中だ。

念には念を入れて暗殺者一族シャーミアの力も借りた。


目前にはファルカッソ砦の巨大な城壁が見える。

パルムン王は勝利を確信し軍を進める。

「全軍、ファルカッソ砦を落とせ」

パルムン王の言葉に騎馬兵が一斉にファルカッソ砦に向かって進軍を始める。

それはまるで生き物のように砦に向かっていく。

城門を破壊する杭をもった部隊が近づいた時だった。

ファルカッソ砦の城壁において一斉に兵が立ち上がる。


「弓を放て」

ファルカッソ砦の中から声が上がる。同時に騎馬兵の頭上に矢の雨が降り注いだ。

サルアが大規模な攻勢に転じたのだ。


「始まったな。宣戦の布告もなしとは蛮族め」

エドワルドはファルカッソ砦の奥で堂々と座っていた。四人の師団長と総兵士長がその周囲に並ぶ。


「相手は虚を突かれております。攻めるのなら今かと」

四人の師団長の意見は一致していた。

エドワルド王は頷くと、立ち上がり声を張り上げる。


「我が勇猛なる兵士たちよ。蛮族どもをサルアの地から一兵たりとも生きて返すな」

エドワルドの声に兵士たちが一斉に声を上げ、呼応する。

それが開戦の狼煙となった。


「エドワルド王がなぜここに。奴は式に出ているはずではなかったのか」

陣中にいるパルムンは目に見えて動揺していた。

なぜこちらの動きがわかっていたのか。


「シャミールの連中が失敗した?ならば連絡があるはず…」

サルアには『王の目』と呼ばれるエドワルドの専用の隠密部隊がいることを知らない。

それが大きな差になったのだが、パルムンはそれを知らなかった。


初戦はサルア側の大勝利となった。

アウヌスは一万近くを失い、ルタ川の手前まで後退することになった。


初戦の後、戦いは膠着状態に陥る。

初めの奇襲による騎馬兵の損害は大きいがパルムンは引かなかった。

新王であるパルムン王は実績を作らねばならない。

もしここで引いたとなれば王の威光を傷つける。それは国内において求心力の低下を意味している。

そうなれば配下にいる族長たちをまとめ上げることすら困難になる。

それだけは絶対に避けねばならないことだった。

ファルカッソ砦は堅固な要塞であり、征服王以外にそこを落とした者はいないと言われる。

またファルカッソ砦を無視し、王都カーラーンを攻めれば挟撃される恐れがある。

アウヌスの軍勢はその場から一歩も動けずにいた。


サルア国のエドワルドも引けないのは同様。

エドワルド王がいるということで士気は高いがそれだけだ。

食料の備蓄はあるもののわずかな期間でかき集めたものである。絶対量は多いとは言えない。

兵士の数もアウヌスの六万に対し、サルアは二万。

二倍以上に兵力の開きがある。それを覆すには奇襲しかなかった。

二万を相手に知られないように集め、移動させるのに相当な労力を有した。

もしオズマの冬季の鍛錬がなければ、アウヌスの軍勢に押し込まれていたかもしれない。

ファルカッソ砦を落とされればもう一度砦を奪還することは困難だろう。

王都カーラーンを護るはずの近衛騎士団は立て直し中で戦力としては期待できない。

彼にとってファルカッソ砦を落とされることはサルア王国を渡すのと同じなのである。

エドワルドもまた引くわけにはいかないのだ。互いに一歩も譲らず、双方とも決め手に欠いていた。


動きがあったのは三日後の昼。予想もしないことから事態は動き出す。

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