ミーティングしましょう
俺の方針を仲間たちに話したのは夕食が終わってからだ。
セリアの手料理を目的に全員集まるために、最近は情報交換の場になっている。
俺はエドワルドの提案を皆に伝える。皆寛いだ姿勢で俺の話を聞いてくれた。
「この国の最後の仕事だ。俺は引き受けようと思うが皆の意見はどうだ?」
俺は皆に意見を求める。
「主殿がそう判断したのなら」
オズマは腕を組んで真っ先に賛成してくれた。
オズマは基本俺の意見に賛同してくれる。
「私なら賛成だ。戦場に出てくれというわけでもない。
この国には世話になった。そのぐらいならばひと肌ぬいでもいい」
エリスはにこやかに答える。
エリスは人間相手ではあまり戦いたくないらしい。
「私も同じ。ユウの意見に賛同するし、この国のために手を貸すのも賛成。
それにここが戦火に包まれるのはちょっと嫌かな」
茶を皆に配りながらセリア。
セリアはなんだかんだアネッサと親しくなっている。
カーラーンが火の海になるのはできるだけ避けたいだろう。
「大将の好きにしていいんじゃね。好き勝手生きるのも魔族の本分だ」
頬杖を突きながらクラスタ。
なんだかんだ言ってもクラスタは反対しない。
「良いと思いますよ。そのぐらいならば文句は言われないと思いますので」
アタはそう言ってセリアの注いだお茶をすする。
神族の末席だったアタがそう言うのだから神の園とやらからは文句は言われまい。
この数か月何度か一緒に魔物狩りとかしてきたので、
パーティの体を成してきてるなーと思う。
余談だが、何故か知らないが俺が皆のまとめ役になっていた。
というか誰もやりたがらないと言うね…。
「それじゃ、受けるってことで決定だな」
「異議なーし」
特に反対意見が出なかったのは幸運だったと思おう。
「次に暗殺者のことについて何だが。オズマ。暗殺者が使う毒について話してくれ」
毒に関しては昨日オズマから話を受けている。
「東方の特定の場所に生える苔だそうです。乾燥させて粉状にして使うのだとか。
使う際には水で溶かして刃につけて使用すると聞きます。
神経毒で致死量が少なく、人間が体内に入れれば即死ですね」
「ちなみに魔族が体内に入れた場合は?」
「個体差もありますが、半日しびれるぐらいでしょうか?」
魔族の体すごい。スペックがいろいろと違う。
「万一、エリスとセリアが暗殺者たちに遭遇した場合は注意してくれ」
この場合気をつけなくてはならないのはエリスとセリアだろう。
人間なのだから。
「了解」
「うん」
二人とも法術を使えたとしても即死の毒はどうにもならない。
セリアは対人用の戦闘訓練を受けていない。
念のために二人一組で動いてもらうようにした方がいいかもしれない。
あとで話しておくとしよう。
「それと暗殺者についてもう一つ、暗殺者は風の精霊使いって話を受けているが…」
風の精霊使いと言うのはオズマから聞いた情報だ。
王宮の城壁を一跳びで越えたという。
王宮の城壁はざっとみても高さ十メートルぐらいはあろうか。
そんなものを一跳びとか、人間の脚力のレベルじゃない。
ここにいるメンバーなら(アタとセリアを除いて)できそうな感じではあるが。
「精霊使い?話は多少は聞いたことはあるけど…」
セリアもちょっと驚いている様子。
「…精霊の加護を受けている人間か。珍しいな」
エリスもそんな感想だ。どうも精霊使いは珍しい様子。
俺もかじっただけしか知らないし、専門家に話してもらうことにしよう。
「アタ。精霊について話してくれないか?」
「なんで私が?」
不服そうにアタ。
「神の園関連はアタだろ」
「…やれやれ、いつから専門家になったのやら」
カラスのアタはない肩を落としため息をつく。
「一言にいえば精霊と言うのは自然の化身ですよ。
この世界の自然現象そのものと言ってもいいでしょう。
それが意志を持った存在。それが精霊と言う奴です」
アタはなんだかんだ言いながら説明してくれた。
「意志を持った自然現象ね…」
戦い方次第ではかなり厄介な存在のような気がする。
「オズマ。その風の精霊使いはお前からみてどう思った?」
「戦ったわけでもないので何とも言えませんね。
ただ精霊を手足のように使っているのを見ても相当な使い手かと」
油断はしてはならない相手だということだ。
「にしても風の精霊使いか。俺たちを助けてくれたあの白フードも風の精霊と契約してたっけな」
クラスタが思い出しながら語る。
「白フード?あのパールファダの時にいたあの人か」
パールファダの攻撃からオズマとクラスタを転移させ守ってくれた人だ。
どうやら精霊使いだったようだ。
「はい、狐の成りをした精霊を連れていました」
横から俺の表情を見ながらオズマ。
「狐?精霊は姿を動物に変えられるのか」
「風の精霊でも上位種ともなれば肉体を自身の意思で具現できると聞きます」
「アタ、風の精霊から白フードの女性のことを知ることはできないか?」
パールファダとの戦いの後、一度も出会っていない。
どうしてオズマとクラスタを助けてくれたかはわからないが、
幸いこうして手がかりを得た。もう一度会って一言お礼を言いたい。
「精霊を統括している元締めの大精霊に聞けばわかるかもしれませんね」
思案気にアタ。
「大精霊か…」
ゲヘルから聞かされている神の園側の戦力の一つ。
万一倒してしまえば大規模な自然災害が引き起こされるという。接触は慎重にするべきだろう。
近くから感じる物騒な気配に目が向けられる。
「と・こ・ろ・で、ユウ。カーラーンを出ていく日取りは決まったの?」
セリアはさりげなく茶のおかわりを注いでくれている
セリアの顔はにこやかだが妙な迫力を感じる。
「あ、ああ」
俺はセリアの迫力に圧倒されながら頷く。
セリアの質問は誰もが気になっていたところだ。
「暗殺者の一件が片付いたら出て行こうと思ってる。ここの人たちには世話になったし。
皆取りあえずここでの滞在期間は一週間ぐらいだと考えてくれ」
俺の言葉に一同頷く。
ほんと、なんで俺ごときが皆の同意とってるんですかね。
「うーん…それとまああれだ、詳しくは言えないが
…最悪ちょっとこの国のためにひと肌脱ぐことにになることを考えてる。
みんなそれで構わないか?」
「はい」
「了解」
「異議なし」
「うん」
「ええ」
カーラーンでは多くの人に出会った。
個人的にも東の国アウヌスには滅ぼされたくはない。
せめて自分の良心の許す範囲で手伝うことにしよう。