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異世界の放浪記   作者: owl
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王から頼まれました

暗殺者が王宮に現れた翌日、(何故か)俺はエドワルドに呼ばれた。

昨日暗殺者が出たということで城内の警備はかなり厳しいものになっていた。

ところどころで呼び止められるが、俺はオズマと一緒だったのですり抜けられた。


執務室の前まで来るとダーシュと近衛の人が二人たっている。

人払いしているのか周囲に人影はいない。

分厚いドア越しに怒鳴り声が聞こえてくる。

何やら立て込んでいる様子。


「見ての通りだよ。ちょっと中でやりあっていてね。

人払いして口の堅い衛兵選んでドアの前に配置してる」


「派手にやってるな相手はだれだ?」

エドワルドとガチでやりあえる人材がいることに驚きである。


「大臣のモントリー卿。王党派なんだけど堅物でね」

そう言ってダーシュは背後のドアに手をかける。


「入っても大丈夫なのか?」


「ああ。君が来たら通せって言われてる」

ダーシュが執務室のドアを開けると声が漏れてくる。


「しかし、このたびの任命式はこの国中の貴族が集まる初めての舞台。

もし来賓に万が一の事があれば国の威信が傷つけられましょう」


「くどい」

そこでエドワルドの視線が背後の俺たちに目が向けられる。

「陛下」


「…どうやら客が来たようだ。その件は私の方で考えておく」

モントリー卿が一礼し部屋を出ていった。


「どうも堅物でな。任命式に警備兵が少ないと俺に話を持ってきた。

だが奴の言うことも一理ある。次の任命式は俺の治世の始まりを告げるようなものだ。

すべての貴族が国中から集まってくる。

何か問題が起きようものならば国の威信に関わる問題となろう」


執務室の中にはエドワルド王。その脇にルケル。ソファにダーシュ。

俺と俺の後ろにオズマがいる。


「アウヌスで軍事行動が確認された。奴等はあと二週間もしないうちにルタ川を渡る。

例の暗殺の件もその一環だと俺はにらんでいる」

エドワルドはそれを俺に告げる。

エドワルドの言葉にやはりと納得する。

暗殺者の件については昨夜オズマから報告を受けていた。

何となくだがつながりがあるんじゃないかと感じてはいた。


「…すでに知っていたようすだな」

エドワルドはこちらの反応を見たようだ。

俺はぎくりとする。


「そ、それにしてもよく東のアウヌスの情報が手に入ったな」

俺は話題を変える。

冬の帰還は雪で人の出入りも少なくなるために情報を手に入れることは困難なはずだ。


「半年前、『蝕の大事変』のしばらく後から目星をつけ、アウヌスの間諜を増やしておいたのさ」

ダーシュが横から口を出してくる。


「おいおい、やけに手際がいいな」


「簡単な消去法だ。西は険しい山脈が縦に入っている。

マルドゥサ神聖帝国は侵攻してくるとは思えない。

南のコルベル連合国は今後継者問題で揺れている。

プラナッタ王国は内でごたごたしていて外に向かうだけの余力はない。

とすればやはりちょっかいをかけてくるのは東のアウヌスだろうよ」

エドワルドの予測に俺は舌を巻く。


「アウヌスでは新王パルムンが即位したばかりで

豪族の中には彼を認めていない者たちも少なくはない。

そこで従えるために手っ取り早い実績を欲していたってわけだ。

もし先代が手に入れられなかったサルアを手に入れれば王の地位は盤石なものになる。

迷惑な話だよ。要は人の国を踏み台にするつもりだったのさ。

そこでタイミングよく例の事件が起きた」

ダーシュはそう言って菓子をポケットから取り出し頬張る。


「『災害』の到来に化け物の出現。

さらに国を二分する王党派と大臣派の争いも終息した。

もしこの国を狙ってる人間がいるとすれば今しかないと考えるだろうね。

その上、今まで奴らの怖れていた目の上のたんこぶ、バルハルグも消えた。

これが決定打になったんじゃないかとも思っている」

そこはボルドスの考えと一致している。

バルハルグはイーファベルドを使い一千の騎馬兵を倒したという英雄譚をもつ。

そんな彼はオズマとの一騎打ちで倒されている。


イーファベルド。カムギムランコレクションの一つであり、生命力、法力を力に変換する兵器。

常人が使えば満足な力を出すことなく果てるだろう。

天然の法力使いであったバルハルグだからこそ扱えた戦略兵器である。

現在この国の中にイーファベルドを完全に使いこなせる人間はいないだろう。

…法力使いのエリスならば使えるかもしれないが。


「あれは…」


「バルハルグに時間が残されていないのは知っていたよ。

その件に関しては感謝すれ、恨みになど毛ほども思ってはいない」

エドワルドは淡々と語る。


「…それなら何で俺が呼び出されてるんだ?」

全く話が見えてこない。

俺に関係ないんじゃないかとすら思う。


「ユウには頼みがあってな」

俺はその言葉に内心身構える。

エドワルドがオズマたちを貸し出せと命じられるのであれば、

悪いがそのままサルアとはおさらばだ。

薄情に思えるかもしれないが俺なりの線引きがある。

俺の持つ魔族の力は理不尽な人の世に非ざる力だ。

この国はおろか、この世界の在り方まで変えてしまえるほどの。

オズマ達は俺の命令なら実行するだろう。アウヌスの騎馬兵も倒すことはできるだろう。

だが俺が気に入らない。これは人の世の戦である。

相手もまた人間である。家族を持ち、営みを持っている。

自分たちがどちらかに加担し、力を振るい悲劇を巻き起こしてはいけないと思う。

戦争は人類が解決するべき問題なのだ。


「それで頼みと言うのは?」

俺は警戒しつつエドワルドに問う。




俺はエドワルドの予想もしていなかった提案を聞き、愕然とする。

予想の斜め上の提案に俺は顔を引きつらせる。

「おいおい…俺がか?」


「現兵士長キルリスは大臣派が担いだ正真正銘のお飾り。

四つの師団長との仲もうまくいっていない。

間もなくアウヌスとファルカッソ砦にて国の命運をかけた大戦がはじまる。

だがあのお飾りの無能には国の命運は任せられん」


「本当に俺にできると思ってるのか?」

エドワルドの提案はあまりに突拍子すぎて俺は多少混乱する。


「これはユウにしかできないことだ。それにこちらにそのための道具ならある。

どうか俺に力を貸してくれないか」

エドワルドは俺の前で頭を下げてきた。


「王」

側近のルケルが声を上げる。

王が一般人に頭を下げるのは家臣からすれば受け入れられないものであろう。


「頼む」

王としてのエドワルドは俺に頭を下げているのだ。

エドワルドが頭を下げるのはこれまでに見たことがない。


「エドワルド、幾らなんでも俺を買いかぶり過ぎだ。どうしても俺じゃないとできないのか?」


「この国の命運がかかっている。他の者には任せられん。

ユウ殿には信頼できる仲間もいるだろう。それにユウ殿ならばどうにかできる気がするのだ」

そこにいるのはいつもの余裕を持ったエドワルドではない。

さらに理屈ではなく直感で俺にはそれができると確信している。


結論から言えば俺にはそれができる。

クベルツンからもらった魔道具はそれに適したものだ。

ただし簡単にはこの王の提案に首肯できない。

王の提案はこの国の命運を左右するものだからだ。

一介の魔族が国の存亡に関わりを持つことは良くない。


「…一日だけ待ってもらえるか?」


「わかった」

エドワルドはこちらを急かすこともなく、ただ頷いた。



俺は帰ってからすぐに自室にむかった。

夕焼けの橙色に染まる部屋の中、鏡の前に立ちゲヘルを呼び出す。

鏡の反対側が『北』とつながる。

「ユウ殿。何ですかな?」


「たびたびすまない。聞きたいことがあってな」


「それで今回はなんでしょうかの」


「以前にローファスが国を滅ぼした時問題になったといった。

今回俺は一国の命運を変える選択をすることになるかもしれない。

もしそれが結果、他の国を滅ぼすことになったとして

それはゲヘルたちからすれば許容できることなのか?」

本来なら異分子である俺が関係していいことではないが、

関係を持ってしまった以上、最後まで付き合うのも悪くはないと思っていた。

ただし、そのことで『北』の魔族たちと敵対するのであれば話は別だ。


「…フム、そうですな。ユウ殿は知っておいたほうがよいでしょう。

前触れもなく、理由なく、利己的な目的で国を滅ぼしたとなればそれは咎になります。

世界の導き手である神の園はそれを禁としております。

我々魔族の在り方はこの世界をただ見守ること。

それは力に対する戒め。もしその在り方を破ることがあればそれ相応の罰を受けねばなりませぬ」


「以前ローファスが国を滅ぼした時は二つに意見が分かれたという。

命数が残った国を滅ぼすのは禁を破る行為ではないのか?

人間が魔族に喧嘩を売って勝手に自滅したので我々には関係ない。と」


「…もし『神の園』が禁を破ったと判断した場合どうなる?」


「精霊や神獣が出てくるでしょうな。

神は現界するにはいくつかの手順を踏まねばなりませんし、

現界する際に受肉する必要があり条件が厳しいのでないかと。

現実に出てくるとすればこの世界で力をもつ神獣、四界竜、精霊王。

彼らは自然の化身。パールファダほどの力はありませぬが、

もし倒したならば世界の均衡が崩れ、数年は自然災害が多発するでしょう。

最悪地上は人の住めなくなる場所になる場合がありますな」


さらりとゲヘルはとんでもないことを言いやがった。

二次災害やべえ。神の園と事を構えるのも絶対に避けたほうがよさそうだ。

自然災害とか人類存亡でやばいです。


俺が動くことはかまわない。

動いた結果として人間であるセリアやエリスにまで魔族の手が及ぶとしたら…。

それは避けなくてはならないものだ。

ルールを破れば世界は必ずどこかでその代償を求めてくる。


俺はもうすぐいなくなるからいい。

俺のいなくなった後もセリアやエリスはまだこの世界で生き続けなくてはならない。

もし彼女たちの人生に何らかの影響を及ぼす場合は手を出してはならないと心に誓っている。


「所詮は人の世は水物。移ろい続ける。ユウ殿は現在どこにも所属しておりませぬ。

どこにも所属していない魔族が何をしようとそれはわしらのあずかり知らぬこと」

ゲヘルは俺に好きにしていいと言ってくれている様子。


「すまない、ゲヘル。助かった」

そうして俺はゲヘルとの通信を切る。


「…よし、腹をくくるか」

一人残された部屋で俺はこのサルアと最後まで関わることを選択する。

『北』の魔族たちと関係を持ててよかったと思う。

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