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異世界の放浪記   作者: owl
110/121

暗殺者がでました

王宮の中庭では兵士たち訓練している光景が見られる。

その光景は既に日課となっていて誰も気に留める人間はいない。


「声が小さいぞ」

オズマの叱咤に兵士たちの声が大きくなる。

オズマに鍛えられたいと望む者たちは多く、今でも新規の希望者が来ることもあるのだという。

冬季の間、オズマの評判を聞きつけ近隣の都市や村からやってくるのだ。

それも冬季は警備の任務も少ないためである。

騎士団の保有する宿舎も一部解放され、一部は宿に泊まるものもいるという。

大半はオズマの厳しい特訓に根を上げるらしいが。


「若いっていいねェ」

ダーシュはベンチに座り日向ぼっこしながら、庭内での訓練を見ていた。

その様は枯れた爺のようである。


「冷やかしに来たのか?お前の役職はずいぶん暇な役職だな」

ダーシュの横にオズマがやってくる。

ダーシュの役職は『王の目』という特殊な役職についている。

それは国内の反乱分子を見つけ出す役職であり、一般の人間には知られていない。

ちなみに宮廷での仮の役職は王直属の宮廷楽士になっている。

ほどほどに楽器が弾けるらしい。


「一昨日まで大臣派の動向を窺っていた僕に言う言葉かい?

あいにく今日は口喧嘩する気力もないんだ」

ダーシュはだらしなくベンチにもたれかかっている。


「結局は何もなかったのだろう?」


「まあね。カルザックの馬鹿が二千の兵率いて魔族に返り討ちくらっただろ。

アレは公表されてなかったはずなんだが、奴のところの家紋が入った武器防具が市場に流れた。

それでエドワルド王がみせしめに皆殺しにしたんじゃないかって噂が流れて

大臣派はびびちゃって全く動く気配なし。国内は平和なもんだよ」


魔族に返り討ち食らったというのはローファンが二千兵士を皆殺しにした一件である。

魔剣イーファベルドにつられてやってきたカルザックという魔族と運悪く戦闘になり、

全滅させられたという話である。

エドワルドはこの話を一切公表しなかった。

結果的にはこの国にとってプラスに作用したらしい。

どうもエドワルドの手の内らしい。


「訓練した兵士たちが動けないのは少々心残りだな。実戦でこそ兵士は成長する」


「へぇ~。情でも湧いた?」


「兵士を鍛えるというのが主からの命だ」


「それはそれは忠実なことで。僕としてはこのまま何もなければ言うことなしなんだけどね。

けどその機会はもうちょっとできそうだよ。どうも違う方面から情報が入ってきててねぇー」


「…違う方面だと?」

ダーシュと話していると嗅いだことのある臭いをオズマはその鼻で嗅ぎ取る。


「それは機密事項。どうせもうすぐこの国出るんでしょ?」


「それは主…」

ノザゴケの臭い?

オズマはその匂いを嗅ぎ、顔色を変える。

オズマが目を向けたその先には廊下を歩く十人の使用人の姿があった。


「あれは今年の新人使用人第一弾。王党派の貴族からの推薦を受けてる。初々しいよねぇ」

ダーシュはだらけながら使用人たちを眺める。

サルア王国の宮中において城の清掃、食事等を任される使用人は貴族からの推薦から選ばれる。

それも王に近しい貴族からである。つまりは縁故採用である。

王宮の機密が漏れる可能性があるためだ。

もちろん使用人が何が問題を起こせば推薦した貴族が責任をかぶらねばならない。

危険を伴う反面、メリットもある。宮中で重要な人間と関係を持つ可能性がある。

王宮内において貴族も自身の選んだ使用人が高位の人間と関係を持てば

貴族は王宮内部に強いパイプを作ることができる。当然、それはもちろん王も含まれる。

そのために教育を施された国中から選りすぐりのエリートが選ばれる。


「あの後血まみれの王宮見て退職者が…ちょっとどうしたの?」

オズマは無言でその使用人の集団に近づいていく。


「オズマ?」

オズマは一人のメイドの肩をつかんだ。


「何をなさるのですか?」

どこからどう見てもただのメイドである。

あまりに突然のことに辺りは騒然となる。


「おい、オズマ…」

追いかけてきたダーシュがオズマを止めようとする。


「お前は…何者だ?」

オズマのその一言に女の気配が変わった。

その使用人はオズマに隠し持った短刀を投げつける。

オズマは片方の手でそれをつかもうとするも、使用人から手を放し体を捩って躱す。


「毒か…」

王宮の通路で使用人と対峙するオズマ。


「賊だっ」

ダーシュが大声で叫ぶ。

騒ぎを聞きつけ、兵士たちが駆けつけてくる。


「通路を塞げ、絶対に王宮から逃すなっ」

ダーシュは駆けつけてきた兵士たちに指示を飛ばす。


使用人は舌打ちすると懐から白い球を取り出す。

オズマは警戒し構える中、使用人地面にそれを叩きつけた。

白い球から噴出した煙が周囲に拡散する。


通路は後から来た兵士たちが塞いでいる。


オズマは王宮の塀を飛び越える使用人の背中を見る。

その姿に誰もが目を疑う。人間の跳躍力ではない。


「風の精霊…厄介だな」

オズマは槍を降ろし、構えを解いた。


「風の精霊?おいおい、精霊使いが暗殺者か。厄介だな」

ダーシュが頭を抱えている。


「とりあえず事情を聴かれるだろうから、使用人たちは別室に移動させてくれ。

残った者は現場検証のための人払いだ」

オズマは集まってきた兵士たちに指示する。兵士たちはオズマの命に従い動きだしはじめる。

新人の使用人たちは別室に移されることになった。


オズマと交戦したアサシンが残した短刀にダーシュは近寄っていく。


「珍しい形状の短剣だな」

ダーシュはその短刀を拾い上げる。


「刃先に触れるな。毒が塗ってある」


「毒?」


「ノザゴケの毒だ。かすり傷でもあの世行きだぞ」


「…臭いなんかしないんだけどー」

ダーシュはその臭いを嗅いでみるがほとんど臭いらしきものはしない。


「まあ君だしね…」

ダーシュは乾いた笑みを浮かべる。

ダーシュはオズマが魔族であり、本体が大きな狼だと知っている人間の一人だ。


「で、その毒はどんな毒だい?」


「ほぼ無臭の神経毒だ。

即効性があり、致死量がきわめて少なく、痕跡も残らないために

かつて東方では暗殺用に使われていたという」


「…一介のメイドがもつものではないね。一応、持ち物検査を徹底させるべきか」

ダーシュが一応とつけたのは暗殺のプロならば

どんな持ち物検査をしたとしてもすり抜けるだろうからだ。

ただ相手への牽制にはなる。


「この武器…どうも東の暗殺集団シャーミルの持つ武器に似ている」


「シャーミルの名は僕も聞いたことがある。東に暗殺技術を生業とした一族がいると。

…本当に実在したとはね」


「(裏社会に関係のある)僕はともかく君はどうして知ってるのさ」


「私が大陸東部を旅していた際に一度遭遇した」


「…ははは、なるほど」

ダーシュは再び乾いた笑い声を上げる。

そんな暗殺者集団に遭遇して生きてるということで察したらしい。


「動くとすれば」


「任命式だろうな」

オズマとダーシュお互いの見解が合致した。

見る者がみれば実は仲がいいんじゃないかと思える光景である。


「僕は僕の線から追ってみる。

相手はプロだしどうせ何も出ないだろうけど、何もしないよりはましでしょう」


そう言い残しダーシュは去っていく。

そうして物事は表面化したのだった。

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