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異世界の放浪記   作者: owl
108/121

キチクな連中でした

アネッサはたまに屋敷にやってきていた。

夕方に来てはセリアの夕食を食べ、セリアと魔法について話した後帰っていく。

そんな日が続き、アネッサは俺たちの一員になっていた。

セリアも初めあった嫌悪感もなくなり今では完全に打ち解けている。

話題は主に魔法の話や最近のはやりなどの女子トークである。

華があっていいとは思うが、オズマとクラスタは興味がないようで

食事が終わるとさっと自室に引き上げる。


今では面倒見のいい近所のおばちゃんポジである。本人いわくぎりぎり二十代らしいが。

身長低いし、ドワーフの血も交じっているため身長が低い。

そのために子供に見られる事も少なくないという。

…若く見られたいのか、それともその逆に見られないのか。

…そこは俺も命が惜しいので突っ込むつもりはない。


夕食も終わり、俺たちは椅子に座ってセリアの入れてくれた茶を待っていた。

セリアが食後に茶を入れてくつろぐのが日課になっている。

「どうしたの?神妙な顔して?」

アネッサがこちらの顔をのぞいてきた。


「昼間、ちょっとゴロツキどもに女性が裏路地に連れられて行ったのを見つけてな。

大声で注意したら睨まれた」


「客引きだったんじゃないの?」


「そうはみえなかったけどな」

頬杖を突きながら俺は考え込む。

女性は東方の旅衣装で客引きのような感じには見えなかった。

ただ何故かその光景が頭に引っかかっていた。

あの時向けられたのはむしろ…。


「あんたどうしたのよ。左手に黒いトカゲのタトゥーなんかつけて」

アネッサが俺の左腕をみて声を上げる。


「ああ、これはな…」

俺が言い終わる前にタトゥーがにょろりと動く。


「動いた!」

アネッサたちは驚く。


「ちょっと前にクベルツンからもらった魔道具『黒蜥蜴』だ」

俺は腕まくりして左腕をみせる。

そこには黒の蜥蜴をあしらったタトゥーがあった。


「魔道具?」


「魔道具…らしい」

俺も魔道具と言われなければ信じないだろうなと思う。

それほどまでに皮膚と一体化している。

カテゴリー的に生物のような気がしないでもない。害はなさそうだが。


「肉体の皮膚に寄生する類の魔法道具…。理屈はわかるけど製造法とか未知の領域だわ。

生物でも媒介にしてるのかしら?」

アネッサはずっと入れ墨をみている。

動いているところを見れば既に生き物に近い。

取りあえず左腕から出ないように命じてはいる。

人の見てる中で顔にでも出てこられようものなら大騒ぎ間違いなしである。


「…ちょっと使ってみてくれない?」

アネッサは目を輝かせながら俺に頼んでくる。


「わかった。わかった。ちょっと見ていてくれ。何もするなよ」

そうアネッサから言われると思っていたのでそのつもりだ。


黒の入れ墨が巨大化し、俺を包み込む。

見る見るうちに影が収束していき一つのカタチを成した。

体積がずいぶんと減っている。


「…うっそ」

アネッサは目を点にしている。


「かわいい」

エリスがびっくりして目を見開いている。

皆の注目が俺に集まる。

影が収束された場所には一匹の黒猫になった俺がいた。


「どうにゃ」

猫になった俺はドヤ顔で胸を張る。体積とか質量とかも変化している。

さらには肉体の感覚まである。

本当に猫になってしまったと思うぐらいである。


「質感、質量、体積…発声器に至るまですべて猫と同じになってる。

もうここまでくると自分の作った魔道具と比較するのがおこがましく思えるぐらいだわ。

文明のレベルが違い過ぎると魔法に見えるっていうけど、これもそうなのかもしれないわね。

魔族とうちらの魔法レベルは何世代ぐらい違うのか知りたいところねぇ」


クベルツンからもらったこれは魔法道具の専門家でもお手あげということらしい。

…俺の前にいた世界でもこんなのなかったぞ。


猫になった俺の両脇を抱えながらアネッサ。


「…これは」

アネッサは驚く。


「もふもふだわ」

アネッサは猫になった俺の腹に顔を押し付けてくる。


「にゃ、にゃにお!」

いきなりのことに俺は猫の声を上げる。


「もふもふ!」

アネッサにつられセリアとエリスが近寄ってくる。

近寄る二人の人影。それはさながら前の世界のゾンビ映画のようだ。

逃げようにもアネッサは俺の両脇をがっちりつかんで離さない。

四本の手がゆっくりと俺に迫ってくる。


「にゃめろー…そこは…さわるにゃ…にゃあ、あ、あ、あ、あ」

俺は抵抗もむなしく、この鬼畜三人娘にもみくちゃにされる。


「…もうお嫁にいけない…」

小一時間、女性三人にもみくちゃにされて、ぼろぼろにされた俺が寝転がっていた。

そりゃもう、抵抗むなしく全身すみずみまで…。

もっと早く変身を解けばよかったのだが、使い慣れていないため時間がかかったのだ。

女性三人に可愛いと奇声を上げながら全身くまなくまさぐられる成人男性…。

…なんか暴漢にでもあった気分だ。


「動物がこんなに心地いいものだとは知らなかったぞ」

エリスはうっとりしながら言う。

それ、正確には俺なんだが。こいつ…一心不乱にモフってたな…。


「感覚も猫になっているらしいな。

ここまでくると肉体を別の器に移し替えたとしか思えないわね。

ところであんたの男性器の大きさはあんな感じなの?」

「お前かっ」

アネッサの奴、興味本位で俺の息子を触りやがった。

しかも女性がそれを言葉にするってのはどうなんだ?


「ユウ、もう一回やって?」

セリアはにこやかな表情で催促してきた。

もふもふが忘れられないのか顔が高揚している。

「二度とやるかっ」

俺の絶叫が屋敷に響き渡った。



気が付けばすでに夜も更けていた。

屋敷のエントランスで俺とアネッサは話し込んでいた。

人避けの灯がアネッサの手には握られている。

(以前に一度女性の夜道は危ないから送ろうかと言ったら私にはこれがあるから大丈夫と笑われた)


「頼まれていた、私からのセリアの推薦書ね」

別れ際、アネッサは収納の指輪から書類を取りだす。

アネッサに頼んでいたカロリング魔法大学への推薦状である。


「何から何まですまないな」


「いいって。こっちはゲヘル様からの頼みでもあるしさ。

むしろあんたたちにはこっちが感謝したいぐらいよ。

あんたにはマルペット商会とつながりを作ってくれたしね」

アネッサはゲヘルとつながりがある。


「…もう少ししたら俺たちは南に行くつもりだけど、良ければアネッサも一緒に来ないか?」

アネッサなら俺たちの素性も知っているし、魔法大学にも顔が効く、

こことカロリング魔導国は何度か行き来しているという。

道案内として申し分もない。セリアたちにも打ち解けているし、一緒にいて楽しいと思った。


「…折角の申し出だけど遠慮しておく。

また研究室戻ったらこっちにもどれなくなっちゃうだろうし。

マルペットからもいくつか依頼を受けてるのよ」

アネッサは笑ってやんわりとこちらの申し出を断ってきた。

そう言うところはアネッサらしい。


「あんたがどっちを選ぶかを見るのはちょっと見届けられないのは心残りだけど…」

俺に聞こえないほどの小声でアネッサがつぶやく。


「…なんか言ったか?」


「フフフ…なんでもない」

アネッサは意地の悪い笑みを見せる。


「それにゲヘル様と会って自分の未熟さに気づかされたところ。

これからは魔道具屋として自分の技術を研鑽していくつもり」

アネッサは腕まくりして笑う。

アネッサならばきっと名のある魔工になれるだろう。


「そうか…寂しくなるな」


「カーラーンに来たら私の店に立ち寄んなさいよ。特別に七掛けで売ってあげる」

アネッサは商人らしい素振りを見せる。


「ああ。その時はよろしく頼む」

俺はアネッサの後ろ姿を見送る。

出会った人々が目的をもってそれぞれの道を未来へと進んでいく。

そんな姿がまぶしく思えた。


俺には未来はないのだから。


寿命がないのが少しだけ惜しく感じた。

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