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異世界の放浪記   作者: owl
107/121

出立の準備です

年明けから三か月、俺はカーラーンのギルドにやってきていた。

ギルドマスターの部屋に入ると書類が山のように机の上においてある。

収納の指輪の中にある狩った魔物の部位を旅の路銀に変えるためだ。

これから南に向かうにしても細かい金が必要になってくる。


ちなみに以前の報酬の白金大金貨五枚はまだ手元にある。

セリアの入学資金に使って残りは後で皆で分けるつもりだった。

俺がいなくなった後もセリアには残しておくつもりだった。


「それにしてもずいぶんと持ってたな」

ウーガンは髭を撫でながら報告書を見ていた。

こうしてみるとまともな人間に見えるから不思議だ。

顔を合わせればネイアさんを何度も紹介してくれと頼まれてる。


「旅で狩ってたら自然にたまっただけだ」

その半分はである。

体内の魔力を使えなくなったために外部の魔力が必要だった。

そのためにこの冬季の間にセリアも連れて何度か魔物狩りに出かけている。

そのうちにパーティの連携をとれるようになってきた。


「…玉石混交とはこのことだな、価値のあるものやら二束三文のただのガラクタやら」

価値がわからないのだからしょうがない。

俺から見ればそこら中にいるホーンラビットも

かなり討伐が困難とされるレッドベアも同じである。


「…魔石はここに載っているのだけか?」

ウーガンは腑に落ちないと言った顔をしていた。


「そうだが?」


「いや…魔物の部位の数のわりに少ないと思っただけだ」


「うちには魔法使いがいるからな」

魔力は人間の体内で製造されるものではなく魔石を使うという。

そのために魔石は魔法使いに欠かせないのだそうだ。


「なるほどな。セリアちゃんか」

セリアは街でゴロツキに使いまくっていたせいか、

すでに魔法使いと言うことはカーラーンに知れ渡っている。

セリアだけではなく俺も使うが。


「魔法使いが入っていると言えば名の売れたパーティの証だぜ。

依頼を出す方もそれを判断基準にするところもあるみたいだしな」


「そうなのか」


「魔法使いは魔力の確保のために定期的に魔石を必要とするからな。

買うにしても魔石は高いし、定期的に魔物を狩れるパーティでないと仲間にできないのさ」

ウーガンの話を聞いてちょっと納得。

定期的に魔物を狩れるパーティなどそうはいない。

高価な魔石を売るのではなく、消費する選択を取るのはなかなかできないことだ。

ウーガンの言うとおり定期的に魔物を狩る実力が必要となる。


収納の指輪も冒険家のある種のステータスだと以前に聞いたが、魔法使いもらしい。

それに加えてセリアはまだ幼さは残るが美人である。

誘いは多く来るだろう。


「あんたら、このままBランクにしておくのはもったいないな。

本当に昇進試験受ける気はないのか?」


「そっちは興味ないからいい」

今はカロリング魔法大学に行くことが最優先だ。

これ以上ランクを上げる必要もない。

稼ぎも相当稼いでいる。別に今のままでも問題はない。


「幾つかは後日改めて支払う。今日はこれだけもってってくれ」

ウーガンは金庫からカルネ金貨二十枚を出してきた。


「ああ」

俺はその枚数を確認し受け取ると、売買契約書にサインする。


「本当にあんたならS級冒険者も目指せたっていうのによ」

ウーガンは残念そうに俺を見る。


「そう言うのには興味がない」

間違いなくこれが俺の最後の旅になるだろう。

俺に残された寿命はざっと二年ちょっと。

女神の呪いによって膨大なはずの魔族の寿命はそこまで削られていた。

セリアをカロリング魔法大学に入れるのを見届けて一人消えるつもりだった。


この異世界に来て以前の世界に戻ることも考えていたがかなり前にあきらめた。

あっちには家族はいない上に俺は魔族になっている。


セリアたちと一緒にいるときの暖かな感じが好きだ。

前の世界では望んでも得られなかったものがこっちにはある。

だから命の残りカスはできることならあいつらのために使いたい。

最後はあいつらのために生きて死ぬのも悪くない。

それなら少しでも報われる気がする。


「寂しくなるな」

しんみりとした雰囲気になる。


「やめてくれ。今生の別れでもあるまいし」

俺は出来る限り笑顔を作る。

ふと通りの方が騒がしくなる。


「おお、例年通りだな」

ウーガンは窓の外を見ていた。

サインを終えた俺はつられて窓の外をみる。

ぞろぞろと大名行列の様な旅の行列が門から入ってくる。

街の人々が集まってお祭り騒ぎだ。


「なんだアレ?」


「今年一番の商隊だな。服装からして東からか」

ウーガンの言う商隊とは商人たちの一行である。

盗賊や魔物が跋扈するこの世界において一人旅は危険である。

そのため商人たちはまとまり、お金を出し合い、冒険者を雇うのだという。

今年一番というのは冬の間は雪でカーラーンの出入りが極端に少なくなるためだ。

雪の中で旅をするということはリスクが大きすぎる。

雪の降り具合によって通行止めになる区間も存在するからだ。

そのために冬の期間は商隊は消える。

もっとも行き来する人が完全に途絶えるわけではないが。


春がやってくる。

商隊の訪れとともにもう間もなくこの地を離れる時がくることを俺は実感していた。

ふと複数の柄の悪い男が女性一人を裏路地に連れ込んでいくのが目に留まる。


「どうした?」

ウーガンが俺の表情から何かを感じ取った様子。


「ちょっとな」

俺はギルドの二階から身を乗り出す。

後で思い返せばこれがサルア王国での最後の事件の始まりだったのだと思う。



裏路地の足元は溶け残った雪が多くみられる。

雪の処理をしてあるのは表通りだけらしい。

その女性は腕を組み、ごろつきたちと言葉を交わしていた。


「聞いていたのとはずいぶん違う。『災害』が来たんじゃないのか。

化け物がでたんじゃないのか。なのになんだ、ここのにぎわいは?」

布を着た女性がごろつきたちに問う。


「嘘じゃない。確かに破壊の痕跡はあった。

嘘かと思い調べてみたが王宮でも近衛兵がかなりの数死んだのは事実だそうだ」


「にしてもこれは変わらなさすぎじゃないか?」

苛立ち交じりの声をその女性は発する。

背後の通りからは人々雑踏やら声が聞こえている。

事前に受け取った情報とはあまりにかけ離れている。


「ここからでは依頼人と連絡を取る手段は限られるというのに…」

女性は爪を噛む。


「おい、何をやっている」

大声が女を取り巻くごろつきたちにかかる。

女を取り囲むごろつきたちは懐に手を忍ばせる。


「やめろ」

女はごろつきたちを小声で制止する。

「…今は事を荒立てる時ではない」

女性の一言にごろつきたちは手を懐から出す。

女を囲んでいたごろつきたちは俺に悪態をつきながら散って行った。


「大丈夫か?」

やってきた男はその女性に手を差し伸べる。

「離せっ」

差し出された手を払いのけ女は大通りに走って行った。

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