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異世界の放浪記   作者: owl
103/121

聖者がやってきた

それは雪が深々と降る日だった。

北の新年会(公開処刑)が終わり、一週間ぐらいたった後だ。

新年の浮かれた感じも消え、王都は少しずつ日常に戻り始めていた。


そんな中、一人の男がカーラーンの王宮を訪ねてくる。

大きな帽子をつけて大きな竪琴を片手に

吟遊詩人の様な出で立ちである。

大道芸人風の優男である。


「止まれ、ここは貴様のようなものが」

王宮の門の前には四人の男たちが番をしている者たちがその前に立ちふさがる。


「下賤な者とは少々ひどい言われようだ」

雪の降り積もった帽子を取り男は頭を下げる。


「お前は一体何者だ?」


「私は女神ミラカルフィの使徒パルメア・フィナース」

使徒カルナッハの行った虐殺行為はまだ記憶に新しい。

カルナッハは『蝕の大事変』の際にサルア王国の選りすぐりの兵士である

近衛兵を虐殺しまくった。それも王宮内でである。

知らない者もその凄惨な現場の片づけだけで兵士たちの何人かは軍を辞め、

半数近くが転属願いを出すという異例の事態になったという。


使徒という言葉に兵士たちの記憶が呼び起された。

一人は使徒と言う言葉に腰を抜かし、

その場にいる屈強な兵士たちがおよび腰になる。

通りを歩いていた一般人は既にどこかに消えた様子。

『蝕の大事変』の記憶はまだ新しい。


「まったくひどいものだな、人を化け物扱いして」

パルメアはわざとらしくおどけて見せる。

パルメアを王宮の中からやってきた兵士たちが遠巻きに取り囲む。


気まずい沈黙が周囲に流れる。


「『救済』の使徒パルメア」

そんな沈黙の中、一人の男が人垣を一足に飛び越え、その男の前に着地する。

そのまま瞬きすることなくその男は槍をその使徒に突きつける。


兵士たちの中でオズマの動作を見切れるものはいない。

男の目前で槍が停止する。

騒ぎを聞きつけ兵士たちの鍛練をしていたオズマが駆けつけてきたのだ。


兵士たちの崇拝するオズマの出現により城の兵士たちは安堵する。


「ようやく話のできる人間がでてきてくれたようだ」

パルメアは槍を向けられるも微動だにしない。


「先ずは矛を収めてもらえないかな?

初対面の相手にそんなものを向け続けるのは無礼じゃないのかな」

オズマは男に言われたとおり、ひとまず槍を収める。


「こちらの言い分を聞いてくれて、先ずは感謝しようか。

話の通じない相手とは悲劇しかうまれないだろう?」

それは言い換えればこちらはこちらの対応次第で力を行使するということだ。


「何の用だ」

威圧するような低い声でオズマ。


「私はわが友であったカルナッハがどんな終わり方をしたのか知りたいのさ」


「終わり方だと?」

オズマはぴくりと表情を動かす。


「…フム、君ではないな。君も相当な腕だが、君ではカルナッハは殺せない。

…ああ、勘違いしないでほしい。別に君が弱いとか言っているわけじゃない。

カルナッハは理不尽な相手だ。理不尽な相手には理不尽な暴力でしか対抗できない。

それこそ嵐に槍一本で抵抗するようなものだ」

一方的にパルメアはオズマに語りかける。


「…」


「人間たちが彼に名付けた『災害』という二つ名は彼の本質を言いえてるよ。

圧倒的でいて人智の及ばない何か。そう、例えるのならば自然災害。

君らもそれを知っているだろう」


「…」


「友の最期を教えてくれるというのならば私も誓って暴力は振るわない。

…って私は何に誓おう?もうずいぶん前に宗教もやめてしまったし」

パルメアは考え込む素振りをみせた。


「急な来訪は歓迎できない」

オズマは動じる気配はない。


「なるほど。予約もなしに来た無礼者は私のようだ。

それじゃ、明日改めてまた来るとしよう」

帽子をかぶり直しパルメアは語る。


「それにしても何で君らがここにいるのかな?宗旨替えでもしたのかい?」

振り返り際に流し目でパルメアはオズマに語りかける。


「たまたまだ」


「…ま、どうでもいいか。それじゃまた明日」

パルメアはオズマ達に背を向けた。

パルメアは視界から忽然と姿を消す。




「『救済』のパルメアか。それはまた厄介な奴と関わりをもったの」

俺たちの話を聞いたゲヘルの第一声がそれだった。

オズマから報告を受けた俺はゲヘルと相談することにした。

ゲヘルはパルメアの名を聞くと、セリアとの修行を中断して相談に乗ってくれた。


「やはり知っていたか」

間違いなく知っていると思った。

対策を立てるためにも今は少しでもパルメアの情報が欲しい。


「四人の使徒のうちでもっとも厄介な男じゃよ」


「ちょっと待ってくれ。その四人の使徒と言うのは?」

俺が食いついたのは今後のためにも名前は是非記憶しておきたいためだ。

この間の誰かさんみたいに遭遇戦はごめんである。

会わないならそれで構わないが、どうも嫌な感じがする。


「カルナッハ、メリオーラ、ナルファト、パルメアの四人です」

俺たち魔族と同等以上に戦える神の加護持ち。

俺はその四人を頭の中のブラックリストに書き込んだ。カルナッハはもういないが。

俺はその四人の名前を頭の中で反芻し忘れないようにする。


「ありがとう。それじゃ、パルメアの話に戻ってくれ」

再び目の前の問題に向き合う。


「パルメアはミラカルフィの使徒でしたが、

ある事件を境に奴はその使徒であることを放棄しました」


「加護は続いているのだろう?」


「そこが厄介なところでの。

五百年前に姿を確認したのが最後、そのあと奴は姿を今までくらまし続けた。

カルナッハと異なり猛烈に仕掛けてくるタイプではないし、

メリオーラとナルファトのように使徒としての使命に従順な者たちともタイプが少し違う。

奴は長い間不気味に沈黙を続けておる」


「カルナッハと比べるとパルメアの能力はどうだ?」


「パルメアはカルナッハよりも上。

実力の上では四人の使徒の中で最強だというのがわしらの共通の見解じゃ」

俺は頭を抱える。

あのカルナッハよりも上の化け物がいたことに驚きである。

最強の使徒とかマジでシャレにならん。


あの戦いの後、カルナッハのことをオズマから聞くにつれ

カルナッハの化け物ぶりを再認識させられていた。


あの場面でどうにかできたのは条件が単に幸運が重なったからだ。

一つ、カルナッハはあの場所から動くことができず持ち前の機動力を生かせなかった。

一つ、戦う場所の誓約もあり大規模な破壊行為が連続で使用できなかった。

さらに自身が強者であるという驕りもあったというのもある。


そんなわけでカルナッハは実力を半分も出せなかった。

カルナッハが万全の状況で戦っていたら勝つことすらできるかどうかあやしい

というのがオズマの見解である。


俺もそれには同意する。

俺が攻撃を放った時に防御ではなく回避するという選択もたしかにあった。

機動力を前面に出された戦闘になっていれば傷すら与えられなかったのではと思う。

カルナッハには自身の加護への絶対の自負があり、

それを否定されたことにより隙が生まれたのだ。


困ったことに今回のパルメアはカルナッハ以上の相手だという。

魔力を満足に使えないこの躰ではどうにもならないだろう。

残りの寿命をすべて注ぎ込んでどうにか戦いになるかどうか。

冗談じゃない。災害みたいな奴相手に命を賭けていられるか。


それにパルメアと戦闘になった場合、カーラーン周辺は焦土になるというのが

俺とオズマの共通の考えである。

この間復興したばかりなのにまた復興とかしゃれにならん。その上、今は冬季だ。

住んでいる住居を破壊されればカーラーンの住民は

ほぼ一日中氷点下である外に放り出されることになる。

二次災害でカルナッハの時とは比べ物にならないほどの死者が出るのは明白だ。


そんなわけであのパルメアとの戦いは何としても回避しなくてはならないのだ。

既にエドワルドには話を通してあり、パルメアとの会談場所も現在手配中である。


「今回ばかりはなんとしても回避だ。回避。

もしどうにもならなくなったら北に逃げ込もうと思うがゲヘルたちは問題ないか?」


兵法三十六計、逃げるが勝ちである。

標的がいなくなれば相手が攻撃する理由は無くなる。

それに不測の場合に備えて少しでも多く手段は残しておきたい。


「それは構いませぬが…ユウ殿はわしらには頼らないのですな」


「ゲヘルたちが奴を生かしておくということは世界の脅威ではないんだろうし、

ゲヘルたちはそれなりの理由がなければ力を行使しないだろう。

それにここで俺がゲヘルたちに頼むのは筋違いだ」


ゲヘルたちならば多分奴を滅ぼすことは容易だろう。

俺の知らない生かしている理由があるのかもしれない。

俺はゲヘルたちの領分まで首を突っ込むつもりはない。


俺の言葉にゲヘルとオズマは唖然と俺を見ている。


「あれ?俺、なんかおかしいことを言ったか?」


「ホッホッホ、さすがは我らが王ですな」


「ええ。さすがは主殿」

ゲヘルとオズマはどこか嬉しそうだ。


「だから王じゃないっての。とにかくエドワルドのところいくぞ。オズマ」

俺は立ち上がる。

エドワルドのことだ。もう会談場所は手配を終えているだろう。

明日のためにも打ち合わせしに行かなくては。


「はい」

オズマがうれしそうに俺の後をついてくる。


「ゲヘル、それと明日はセリアをなんとしてもこっちに引き留めてくれ。

万が一の場合、強引にでもセリアをこっちに戻してくれ」


セリアはハイエルフである。神の憑代にされる危険もある。

カルナッハのことを考えるとその線も捨てきれないし、セリアは戦う手段を持たない。

使徒との会談の間『北』にいてもらうことがもっとも安全だろう。

本当は今日の夜からこっちにいてもらいたいところだが、

セリアのことだし変な行動を取れば逆効果になる可能性もある。

知らないままでいてくれた方がいい。


「わかりました」


「いろいろとありがとうな、ゲヘル」

そう言うと俺は次の段取りを行うために移動した。


とにかく方針は決まった。

後は用意して明日になるのを待つだけだ。

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