北の宴会です2
北の宴会は混沌度合いを増し、続いていた。
クラスタはヴィズンとネイアの飲み比べで審判をしている。
二人の後ろには樽が転がっている。どちらも一歩も引かない壮絶な戦いである。
…こいつら沼だ。
オズマは酔っぱらったラーベに相変わらず女性を紹介されている。
「この娘は世話焼きでな。私のお勧めだ」
本人はずっと石像と化している。
ラーベさん…。いつまでやるんだ…。
…オズマが『北』を飛び出した理由が一つわかった気がする。
ちなみに後で聞くことになるが
ラーベは双子の娘を溺愛しており、
娘の結婚を阻止するためにめぼしい男に結婚相手の紹介を始めたところ、
それが趣味になってしまったという。職場の世話焼きのおばちゃんである。
それも権力持ってる分、性質が悪い。
誘っても誰も来ないのも…。
俺がラーベさんに抱いていたかっこいいできる男というイメージが瓦解していく。
セリアはゼロスに相変わらず異界のことを聞いていた。
酒を片手にふよふよと浮かびながら話すゼロスに対し、
セリアは正座してそれを聞いている。
セリアは外の世界のことを聞くのが楽しいようだ。
ゼロスもまんざらでもないような感じである。
エリスはずっとクベルツンに泣き言をこぼしている。
会話が成立しているかは怪しいが。
「こういう日が続けばいいなって」
「そうですな」
俺はゲヘルと酒を酌み交わしていた。
宴も半分ほど過ぎた後、ネイアの前にその眷属らしきものがやってきた。
「準備できました」
ネイアの前で跪いて答える。
「よし。ヴィズン、今日の勝負はお預けよ」
ネイアはそう言って立ち上がる。
「お?なんじゃ、つまらんの」
ゲヘルが樽を片手に口をとがらせる。
「よし、じゃあ映して」
「はい」
ネイアさんイケイケです。
「!!!」
俺は目にし酒を吹き出す。
ネイアとその眷属の造った人工衛星『天の目』には五つの機能が備わっている。
透視機能、学習機能、記憶機能、攻撃機能。
そして、最後の一つは投影機能。
その投影機能を使って、
空にはでかでかと俺と女神パールファダの戦いが映し出されていた。
映画館みたいな感じと言えばイメージしやすいかもしれない。
「こ、これなに」
俺は脇に戻ってきたネイアに聞く。
「ユウ様の雄姿を永遠にと
思い現存する七つの『天の目』を駆使して記憶しておきましたの」
顔を真っ赤にしながらネイアさん。
見ればところどころ編集されている。
友人の結婚式でみたアレを自分が受けるとは思ってもみなかった。
というか何でこんなの撮ってるんだこの人たち。
「おおおおお」
再び盛り上がり始める酔っ払い共。
「ネイアさん!!!!!」
俺は抗議の声を上げるも誰一人として聞いていない。
「ユウ様、私これを一万回以上繰り返し見ておりますの」
ネイアさんはうっとりと語る。
それを聞いて俺は凍りつく。
何?ネイアさん、コレ、イチマンカイ見てたの?
黒歴史。
それは某ロボットアニメで登場した言葉である。
自分にとって恥ずかしい過去の記憶のことを指す。
オズマとクラスタが死んだと思いガチで女神にキレてた自分がそこにいる。
めちゃくちゃ恥ずかしい。公開処刑でしょう、これは。
衛星で撮ったもので音声までは拾えないのは唯一の救いであるが。
「アレがわしの『天月』じゃあ」
ヴィズンは酒を片手にご機嫌に俺の手にした剣を自慢している。
「すげえぜ。親父!」
「そうじゃろう。そうじゃろう」
ヴィズンと肩を組みながらクラスタ。
クラスタ…仲良いな。
この二人はもうどうでもよくなってきた。
「わしの与えた収納の指輪にああいう使い方があったのは驚いたわ」
瓦礫を足場にする俺の姿を見ながらゲヘルはしきりに感心していた。
パールファダの光線から身を護る障壁にもしたし。
収納の指輪は無くてはならない便利アイテムである。
「私のあげた『天の目』もあの場で使うなんてなんて、
ユウ様本当に本当にうまいんだから」
ネイアさん、そう言ってがっちりホールドして胸を押し付けてくるのは止めてください。
「私も早く完成させてユウ殿に献上せねば…な」
ラーベは思案気にそれを見ている。
「さすがだよ。僕らの作ったものをあそこまで利用するなんて。
僕も早く献上しなくちゃなあ」
ゼロスがつぶやく。
「…ウラヤマシイ」
眺めるクベルツンの横顔からは感情は読み取れない。
「あれがユウ…」
セリアも感心している様子。
「女神相手になんという…」
エリスも食い入るように見ている。
頼むからやめてー。
俺は心の中で絶叫する。
俺からしてみれば罰ゲームなんですよ。
雄姿でも何でもなくただの痴態ですから。
俺は顔を真っ赤にしてその時間を耐えきるしかなかった。
俺の周りで酔っ払い共が声を上げ盛り上がっている。
俺の戦いを酒の肴にその後三時間飲み会は続いた。
…もう二度と飲み会なんかするものか。と俺は心に刻む。
これよりひどい蛮行がもうちょっと後に開催されるのをこの時の俺は知らない。