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異世界の放浪記   作者: owl
101/121

北の宴会です1

今日は新年会である。

セリアとゲヘルが話し合って決めたという。

酒は例の小瓶の薬でエドワルドから相当交換で得ているらしく、

酒の消費するためと顔合わせにセリアが発案したのだという。


本来ならば永劫の時を生きる魔族に新年という概念は無い。

彼らにしてみれば一年など人間の一週間のような感じらしい。


俺たちはちょっと着飾った服装をして『北』にやってきた。

ちなみに参加者は俺とセリア、エリス、オズマ、クラスタである。


アタも誘った一応神族であり、

ここに来るぐらいならば死んだ方がいいとまで言ってた。

アタたちにとって魔族はどういう印象なのか後で聞いてみたいところだ。


魔族側の新年会のメンバーはといえば、

ゲヘルを含める六柱の魔族が参加することになっている。


「ネイアさん、くっつき過ぎです」

ネイアさんが俺に抱き着いてくる。

入ってくるなり抱き着いてきたので回避不可能だった。


「いいじゃない。あまり会う機会がないんだから。ああ、ユウ様の臭い久しぶりだわ」

ネイアさんは俺の腕に胸を押し付けてくる。


「いつもこうなのかな?」

セリアは微笑んでいるが背後に鬼が見える。


「ユウ殿は軽薄な男だったのだな…私は買いかぶっていたのか…」

エリスは俺に失望している様子である。


「ち、違う。ネイアさん離れて」

ネイアさんはがっちり俺の左腕をホールドしてる。

柔らかなモノが左腕にあたってる。

今理性が飛んだら二人に軽蔑される気がする。


「王もなかなかやりおる」

気が付けばヴィズンはジョッキ片手に親指をこちらに向けて立てている。

既に酒を飲んでいる様子。


俺はクラスタとオズマに視線を向ける。

ネイアを苦手とするクラスタはしょうがないにしても、

オズマはさっきからぶつぶつと独り言をつぶやきながら固まっている。

収集のつかなくなってきたところにラーベが空から降りてきた。


「ユウ殿ご機嫌麗しゅう」

胸に手を当て俺に一礼するとラーベはちらりとエリスを見る。

やっぱりラーベはさまになるわ。


「それにしても今代の勇者がこの場にやってくるとはな。

よほどの愚者か、よほどの物好きか」

エリスを真正面から見据えながらラーベはいう。


「あなたは?」

エリスはラーベに向かい合う。


「魔族の首魁の一人、ラーベという」


「…」

彼らなりに配慮しているのか威圧や殺気は発してはいないものの、

ラーベは独特の雰囲気を醸し出している。


「私は少なくとも数百万以上の人間を殺している。

その中に貴殿も入らないとは保証しないし、

その在り方はこれからも変えるつもりはない。

勇者である貴殿がそんなものと一緒に酒を酌み交わせると?」

試すようにラーベはエリスに問う。


「それはあなたの正義のために行うことだろう」


「…自身の正義に殉じたものだとと誓うが、すべてとは限らん。

私の下には趣味や快楽で殺す者もいる。

事実、先日お前が激昂し斬りかかった男、ローファンはかつての私の部下だ」


「…カルナ様は多くの世界を見てくるように私におっしゃられた。

ならばそれを見極めるのも私の役目だと思う」


「…なるほど。知った上で私たちと一緒の酒宴を共にするという。

まさに勇者だ。…歓迎しよう。その名を聞かせてもらおうか」

ラーベの周りにある奇妙な気配が消えていた。


「エリス・ノーチェスだ」


「ふむ。その名を覚えておくとする」

ラーベはそう言うとエリスに背を向ける。

それは誰かが聞かなくてはならなかったことだ。

自ら悪者の役を買ってくれたらしい。


周囲に視線を向けると魔族の六柱がそろっていた。


「それにしても仲間を誘うようにと言ったはずじゃが?わしらだけか?」

ゲヘルは困った様子である。

ちなみにゲヘル爺さんの率いる眷属は皆研究者が多く、

誘っても来ないだろうと予め言われている。


「眷属と言われてもなぁ。そもそも俺のところはいないんだが」

ゼロスの眷属はいないらしい。


「…コナカッタ…」

クベルツンが暗い顔をしている。


「わしのところからは無理じゃな。うちらの連中はここに入りきれん」

ヴィズンががはははと笑いながら言う。

ヴィズンはもともと巨人である。

何らかの手段を使って人間サイズになっているという。

とはいえ二メートルを超す大男だが。


「とか言って本当は酒を独り占めしたいだけじゃないの?」

ネイアはヴィズンに食って掛かる。


「そういうネイアのところからも来てないみたいじゃが?」


「私の腑抜けどもは誘ってもこなかったわ」

後でクラスタに聞いた話によれば、

ネイアさんのところは皆ネイアさんに全員酒で潰されるために来ないとのこと。

以前全員ネイアさん一人に潰されたという。


「私のところも誘ってみたが、どうも食いつきが悪くてね」

ラーベは残念そうな表情をみせる。


「それは…仕方ない」

他の六柱の皆は同様に頷く。


…何でみんな同意してるのだろう。

何故皆が同意しているのかは少ししたらわかることになる。


そんな事をしているうちに皆に酒のジョッキが配り終える。


「さて、皆に酒は渡ったな」


「そうじゃな。皆が集まった丁度よい機会じゃ。

こんな機会はめったにないじゃろうし、わしから話すことがある」

ゲヘルに皆の注目が集まる。


「あの道楽者めのローファスがユウ殿に刃を向けたおった。

酒盛りを始める前に奴への対応を決めておきたい」

ゲヘルがそう言うとひやりとした空気が会場を包む。

寿命が減ったとか言わないでくれたゲヘルの配慮に感謝したい。

唯一知らないセリアに心配はかけたくない。


「…奴からの武器の修理の要望はこれから聞かんようにするか」

腕を組みヴィズン。かなり怒っているのか空気がぴりぴりする。


「前回は奴をかばったが、次は無い」

ラーベは黒い笑みを浮かべている。


「見つけたらシめる」

ネイアさん…。


「アイツか…調子乗ってるし、今度見せしめに血祭りにあげてあげようかな」

ゼロスはにこやかに言う。

姿が子供であるだけその悪さは五割増しである。


「…ユルサナイ」

何考えてるかわからない感じでクベルツン。

この六人は女神から魔神と呼ばれている。魔族の集まる極北の中心となる化け物たちだ。

六人の放つ圧でエリスが固まっている。


このままだと空気が元に戻らないので俺は自分から声をかけることにする。


「まてまて、今日は新年会だから。そういうの抜きで。

それに俺はあんまり気にしてない」

この六魔族は何故か知らないが王様扱いしている俺の話は聞いてくれる。


「ユウ殿がそうおっしゃるのであれば…。

おのおの殺さぬ程度に個別に対応するということでよいな」


「異議なーし」

ゲヘルの一言に軽いノリで魔族の六柱からは声が上がる。

この決定はかなりローファンにとってキツイことになるのだが

それは俺の知るところにない。


…よく考えてみればここにいるクラスタもだが。

それは彼らにはカウントされていない様子。


「では気を取り直して、乾杯」


「かんぱーい」


そうして『北』での新年会が始まった。


「これはなかなか」

酒のつまみはセリアが作ったものだという。

魔族にも好評のようだ。


乾杯からしばらくすると幾つかグループが出来上がってきた。

先ずはゼロスとセリア。

「これはお前が作ったのか」


「はい」


「ほう、ハイエルフか。他の世界ではそこまで希少ではないのだがね」

宙に浮かんだゼロスが物珍しげにセリアを見下ろす。


「他の世界…!」


「ハイエルフは寿命が長い上に腕っぷしも強いから減らないんだ。

それにエルフ同士の交配でもまれに生まれたしな」


「ということは保護対象とかではなかったのですか?」


「私がいたところは保護対象ではなかったな。そもそも保護する理由が見当たらない。

連中、人間の国を脅せるぐらいに強かったしな」

酒を片手に思い出すようにゼロス君。

世界も変われば事情も違うんだなと。

その時の俺はそんな風にしか見ていなかった。


「ゼロスさん、良ければ他の世界のこと教えていただけませんか」

目を輝かせながらセリア。食いつきがすごい。

知的好奇心を刺激された様子。



クラスタはヴィズンと話している。

「久しぶりだな。ヴィズンの親父さん」


「おう、クラスタか。元気そうだな」


「ところでよ。人間の使う武器はすぐにぼろっぼろになっちまう。

親父さんのすんげー武器が欲しいんだ」


「おお、お前も武器の良さを理解する時がくるとはな。で、どんな武器を使うつもりだ?」


「俺は双剣使いだ」

クラスタはポーズを決める。


「おお、なるほど。お前にぴったりだの。よし、明日にでも作ってやろう」

嬉しそうにヴィズン。


「親父」


「クラスタ」

クラスタとヴィズンは抱き着く。

相性ばっちりだよこの二人。


「ヴィズンあんまりうちのクラスタ甘やかさないでもらえます?」

ネイアがジョッキ片手に不服そうに近づいてくる。

いつの間にか俺の脇からいなくなっている。


「男が武器を持つと決めたのだ。ならば最初は良い物を使うべきだ」


「だめよ。そんなんじゃ。

はじめから強い武器を渡したら武器にありがたみを感じなくなっちゃうでしょ」


「わかっとらんな。武器というのは長く使っているうちに愛着が湧いてくるのだ。

愛着があってこそ武器はその本領を存分に発揮してくれるのだ。

人間が使うようなすぐに壊れてしまう消耗品では愛着など生まれはせん」


「それじゃ、いつも通りコレで決めようぜ」

クラスタは二人の中央に酒樽をどんと置く。


「のった」

「よし、いいだろう」

クラスタの提案に二人は乗る。

かくてあっちでは酒の飲み大会が始まる。



「オズマ、会いたかったぞ」

ラーベはそう言ってオズマの首に手を回す。

ラーベさんはすでに出来上がっている様子。

ひょっとしてラーベさん、酒に強くないのか。


「はあ」

オズマ困惑モード。こういうオズマは初めて見る。


「人間界での修業も順調のようだな。

ユウ殿の片腕として頑張ってくれているお前が私は誇らしい。

お前ならばもうすぐ私の眷属でもうすぐ四位を取れると私は確信している」

ラーベさんのオズマへの評価はかなり高い様子。

なんかいい上司っぽくてちょっと安心した。


「そうなればお前も身を固めてもいい時期だろう。

そう思い私はお前の嫁によさそうな娘を見繕ってきた」


…ん?変な方向に話が…。


ラーベの懐から取り出したのは五人の魔族の女性の写真。


「…で、どれがいい?」

オズマが固まる。

…どれもキャバ嬢っぽい恰好である。


「皆いい娘たちだぞ。この娘はな…」

いつもの優雅な姿はどこへやら。

オズマのことはお構いなしに写真の女性を一人一人紹介していくラーベさん。

オズマは一言も発せず固まったままだ。


パワハラ全開ですね。

…ラーベさん、かなり地雷っぽい。

なるほど彼の眷属で誰も来たがらないわけだわ。



最後はエリスとクベルツン。

「…私がふがいないばかりに」

エリスは酔うとどうやら地が出てくるらしい。

酒を片手に泣きながら自虐ネタを呟いている。

どうやら泣き上戸のようです。


「…ソレ…シカタナイ」

それをクベルツンは背中を手(というか触手?)でさすってなだめている。

クベルツンさん…よくわからない人だと思ってたけど、意外といい人っぽい。


俺と初めて出会った時の光景に重なる。

魔剣ゼフィール折った時もあんな感じだったか。

やっぱりエリスはダメな子だったらしい。



「いくらなんでもみんなハイペース過ぎませんかね」

俺は横に座っているゲヘルに問う。

始まってまだそんなに時間は経っていないはずである。

既に場が出来上がっていた。


「いつもこんなもんじゃよ」

しっぽりと一人でゲヘルは酒を飲んでいた。

全く酔っている素振りはない。というかわからない。

俺もそれに付き合うことにする。


「それでユウ殿、かつて竜どもを倒したと言っていましたな。

その中に黒い竜はいたか覚えておられますか?」

ゲヘルが俺に聞いてくる。


「ああ、いた。一際でかいヤツな」

ぶん殴って逃げてきたが正解である。

そのあと俺が飛ぶたびに目の色を変えて襲ってくる。

飛翔するのを一時期やめていた。


「あのじゃじゃ馬を…こりゃ…大変なことになるぞ…」

ゲヘルが頭を抱えている。


なんかとんでもないことをやらかしてしまったようだ。

これが盛大なフラグだったことは後で知る。

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