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異世界の放浪記   作者: owl
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とある騎士の話をしました

サルア王国の軍編成は王立騎士団の下に置かれ、

近衛兵団、第一師団から第四師団が王都カーラーンに置かれる。

他は都市ごとに騎士団が存在しておりその治安を担っている。


現在の軍の総責任者、ここでいう総兵士長はラング・ベルモートンである。

彼は大臣派の伝で担がれた貴族の出の者であり

元々いた近衛兵長、師団長彼のことをは軒並み嫌っている。

そこで前総兵士長バルハルグを担ごうとしたため

バルハルグは自身の領に引きこもった経緯がある。


今回の『蝕の大事変』により、近衛兵団を含めた中枢は

カルナッハにほぼ壊滅させられてしまった。

現在そのためオズマがこの訓練と再編成に追われている。


オズマのことを一部の中堅層は面白く思っていない風潮はあるが、

その伝説的な武勇とその圧倒的な実力によりねじ伏せているというのが現状である。

その上、オズマを崇拝し始めているような気がする。


実際のところ七星騎士団を実質的に率いてきたオズマの人を見る目は相当なものであり、

彼の人事に口を出す人間は少ない。

本当に完璧人間っているんだなと。…いや、魔族なんだが。



「よう、ユウ殿」

王立図書館の帰りにボルドスが俺に話しかけてきた。

ボルドスはバルハルグの屋敷で彼の最期を見届けた騎士である。

ちなみにもう一人いたノールト君はイエルトーダ領の後始末で残っている。

がっちりとした男で動きに隙が見られない。

オズマの話では現行のサルアの騎士の中ではボルドスは最強だという。


オズマとエリスを追ってこの王都までやってきたという。


オズマの訓練を受けにきたところ、

オズマとの数回にわたる決闘後、サルア王国の第一師団長を任される運びになる。

現第一師団長もそれを了承。

今は引継ぎを行っていて、春には正式に発表されることになるのだという。

本人はかなり不服気味だったが。


「一つ聞かせてもらってもいいか?」


「答えられるものなら?」


「埋葬した兵士たちの近くに戦闘の跡があった。

木々がなぎ倒され、まるで竜巻でもあったかのようなそういう跡だ」

俺は痛いところを指摘され、内心冷や汗だらだらである。


「…ユウ殿、あの場であなたがあの魔族と戦ったのか」

俺は沈黙する。答えられないというのが本音だ。


「…安心してくれ誰にも言うつもりはない。

俺は親父の決闘を護ってくれた恩人を売るような卑怯者ではないつもりだ」

穏やかな表情でボルドス。

ボルドスは義に厚い男だ。ある程度の信頼がおける。

俺は黙って頷く。


「それであんたはどれだけ強いんだ?」


「どれだけ強いと言われても…」

俺は口ごもる。基準となる物差しがない。

そもそも強さってのは何なのか。数値には意味がない。

その時、その状況によってその者の力は変化するからだ。

某国民的人気漫画のスカウターでもあれば明確な基準になるのだが。


「俺の言い方が悪かったな。あんたのパーティの中で何番目ぐらいに強い?」


「オズマ、エリスは戦ったことがないからわからんが、クラスタには負けたことがない」

俺の言葉を聞き、ボルドスは頭を掻きむしる。

実際のところ魔力の満足に使えない今だと

人間であるエリスにはどうにか勝てそうだが、オズマには負けそうな気がする。


「俺を超えるのはこれで四人目か。あーあ、全くあんたらはどうなってやがる」

悔しそうにボルドス。ちなみにボルドスはクラスタにも敗けている。

クラスタはちょっと本気を出したとのこと。


「話は変わるがユウ殿、どこかにいい騎士は知らないか?」


「ん?」


「人材不足過ぎる。何でまだ正式な任命もされていないのに何で

隊の編成を考えなきゃなんねえんだっ。

俺が在籍していた数年前はもっとマシな連中いたのにな」

ボルドスはかなり困っている様子である。


「冒険者ギルドでは募ってみたのか?」


「言っておくがそれはなしだ」

俺はいきなり否定されて吃驚する。

冒険者ギルドにもそこそこ強いのはいる。

Aランククラスの強さの者ともなれば騎士団でもそうは見かけない。


「ユウ殿、腑に落ちないって顔をしてるな」

ボルドスは口端を釣り上げる。


「たしかにギルドにも個人としては腕っぷしの強いのは数人はいるのは認める。

…が騎士団はあくまで組織なんだ。

時には裏方に徹さなきゃならんし、

上官のことを気に入ろうが気に入るまいが命令は絶対厳守だ。

それをならずものかぶれの連中に一つ一つ教えていくのは相当な骨なんだよ。

そうするぐらいなら一から新人を鍛えたほうがまだましだ」


俺はボルドスの説明に納得する。

もっとも俺もそのならず者かぶれなんだが。


ふと例の徽章のことが脳裏によぎる。

古株のようなので俺は以前ダールから渡された徽章を取り出してみせる。

もしかしてダールのことを知っているかもしれない。

俺はポケットに手を入れるふりをして収納の指輪から徽章を取り出す。


「これに見覚えはあるか?」

鳥のような紋章が彫られてあり、宝石がはめ込まれた徽章を見せる。

ボルドスはそれを見て目を丸くする。


「七十六回大会騎士団競技会、個人戦の優勝の徽章…思い出したダールのじゃないか?

ユウ殿、これは一体どこで手に入れた?」


「その本人からもらった。ダールさんを知っているのか」


「…知ってるも何も、奴は俺の一個上の先輩だ」


「どんな人だったんだ?」


「あいつは俺の一つ上の先輩でこの国でも屈指の実力者だった。

ただ反骨精神旺盛な奴でな。

自分が納得のいかないことは上司の命令でも聞き言えないんだ。

その一方で部下たちからは慕われていたんだが」


「何度も辺境に飛ばされそうになるたびに俺と部下たちが直訴して

それを取り下げていたんだ」

ひどい話というか。なんというか。

男所帯の騎士にとってみれば羨望の的だろう。

例外がいるとすればエリスだろう。


「挙句にあいつは貴族の女と駆け落ちしてそのまま行方知れずになっちまいやがった」

ボルドスの言葉に俺はダールの奥さんを思い出す。

この世界にやってきて初めてきれいだなと思った女性。

あの奥さんは元貴族だったらしい。


「確かに…めちゃくちゃきれいな奥さんだったな」

俺の言葉にボルドスの表情が凍りつく。

なにこのパンドラ感…。俺何か開けちゃいましたか?


「…ユウ殿、あの馬鹿は今どこで何をしている?」

ボルドスは俺の両肩をつかみ尋ねてくる。

その手にはかなりの力が込められている。

逃がすまいとしているのか。

ボルドスの表情に目を向ければ目が据わっている。


「…ドルトバで自警団をやっていましたよ」

ボルドスさん、神とかと比べて違う意味で怖い。


「そうかドルトバかー。あー、なるほどそこに行ったかー。

極北に近いあそこならば権力闘争からも離れているからなー。

ユウ殿、ありがとうよー」

ちなみにボルドスさんのこのセリフは全部棒読みである。


「クックック…次の編成であいつも引きずり込んでやる。」

俺に背をむけボルドスがそうつぶやき去っていく。


怖いよ、ボルドスさん…。


徽章はボルドスに渡したままだったっけ。

俺は振り返りダールの背中を見る。

背中からは物騒な黒いオーラがダダ漏れしている。

うん、ダールに渡された徽章のことは諦めよう。


変な方向に転がってしまったが

まあ、ダールにとって悪い話ではないと思う。

…そう思いたい。

…というかそうであってほしい。

俺は心の中で祈った。

ふとダールさんの言葉を思い出す。


カーラーンはきらびやかに見えるが澱んだ場所だ。


なんか意味が違っている気がする。

ダールさん、ここは澱んでいるというよりはむしろ捻くれた挙句に捩れてますよ。

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