土下座する男(サイド・セリア)
宜しくお願いします。
もうお分かりだろう。私はその対価…生贄としてさしだされたのだ。
私が選ばれた理由はただ単に都合がよかったからだ。
父と母は私が生まれてしばらくして他界した。
さらにエルフと言う先祖がえりの容姿のために、両親が死んだことも私のせいにされ、
里の中では忌み子として腫物のように扱われてきた。
私には拒否権などはじめからなかったのだ。
別に生に執着はなかったし、次は私だろうと薄々感じてはいた。
「グルル」
その姿からはとても知性があるとは思えない。
その開かれた口からは唾液がしたたり落ちている。
手足から生えた鋭い爪は人の腕ほどもあり、
その巨躯は全身筋肉でできているかのようにはちきれんばかりである。
見たこともない巨大な魔物の出現に私は恐怖で震えあがった。
ああ、私はあの魔物に食われてしまうのだ。
恐怖とともに諦念が胸に広がっていく。
だがそうはならなかった。
あろうことかその巨大な魔物は男のほうに近づいていったのだ。
男は腰を抜かしたのか、正気を失ったのか動けずにその場に立ち尽くしている。
ここで私は正気に戻る。
「逃げて」
私は大声で叫ぶ。
冗談じゃない。
これは私だけで済む話だ。
部外者を巻き込むなんてまっぴら御免だ。
私は一つだけ失念していた。
こんな北限でどうして男が生きていられたのか。
魔物の巣窟のこの場所でどうして男が生存できていたのか。
はじめから疑うべきだったのだ。
それが私の一つ目の間違い。
「うるさいから黙ってろ、お前」
その男は襲いくるその魔物の頭部をいとも簡単に吹き飛ばした。
「は…?」
私がその声を上げると同時に頭部の無くなった巨躯が音を立てて崩れた。
それが私とユウ・カヤノとの出会いだった。