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『先生はどこにいるの?』
私は初めて龍にメールをした。
最初の日にとりあえず交換だけはしたけれど、龍にメールを送るのは初めてだ。
いや、龍だけじゃなくて、誰かにメールを送るのは初めてだった。使わない携帯は、私と一緒で、本当に意味のない存在なのだろう。
『大泉学園駅』
返ってこないかもしれないと思っていたメールは、驚くほどあっさりと返ってきた。
急いで家に帰ってお財布だけ握りしめて、私は部屋を出た。驚いたことに部屋の前には桜ちゃんがいた。
「どうしたの?お母さんは?」
「‥‥‥お買い物。」
「そう。」
桜ちゃんは、必死な顔で私を見つめた。
何か大切な言葉を絞り出そうとしていた。
「桜ちゃん、私ね、今からどうしても行かなきゃいけないところがあって、だから、帰ってきたら必ず聞くから少しだけ待っていてくれる?」
「‥‥‥はい。」
私も同じくらい必死な顔で桜ちゃんを見つめた。
「必ず聞くから。」
そうして私は桜ちゃんを置いて家を出た。
私には桜ちゃんが私に訴えたいことがきっと分かっていた。桜ちゃんはもうすぐあの時の私と同じ年になる。ピアノの才能なんかないと絶望して、自分で自分を傷つけた私と同じ年に。
私は父とは違う。桜ちゃんに私と同じことなんて絶対にさせない。私には分かるから。桜ちゃんの痛みが、そのまま分かるから。
お母さんと戦う勇気なんてきっとないけど、それでも私は桜ちゃんを助けないといけない。
一緒に暮らしていなくて私がどんな生活をしているか知らない父にはそんなこと分かるはずがなかったんだなと私は初めて思った。
だけど今は、私は先生のいる駅にひたすら向かっていた。
先生に会いたい!疑ったことを謝るなんてただの私の自己満足だけど、せめてお礼を言いたいの。
私を、こんな私を、それでも生かしてくれたのは先生のくれた優しいキスだったから。
私を生かしてくれているのは、ずっと先生だったから。
それだけをずっと考えている間に龍の教えてくれた駅に着いたけど、ここからどうすれば?と思っていたら、改札を出たところに龍がいた。
龍の姿を見ただけで、私はなぜか泣きそうになった。
「美樹さんとお前を会わせたくねぇ。」
龍は苦しそうに言った。愛しくて苦しくてたまらないといった顔、私には決して見せることのなかった顔、私は初めて恋をする龍の顔を見た。
胸が潰れそうになった。
龍はそのまま歩きだした。私はただただ龍に着いていった。
しばらくして定食屋さんの前で龍は足を止めた。
「美樹さんはここにいる。ちょうど昼飯の開店前で準備が終わった頃だ。」
「ここに先生が?龍はどうしてそんなに詳しいの?」
「俺のバイトはこの店への配達。少しでも側にいたくて選んだ。」
シンプルな龍の言葉だけど、先生への愛情の深さが伝わってきた。
「行ってくる。」
それでも私は、定食屋さんのドアを開けた。
龍は一緒に入っては来なかった。
「すみません。まだ開店前で‥‥‥。」
チリンチリンとドアに付いたベルの音に反応して、テーブルを吹いていた人が振り返った。
声を聞く前から分かった。声を聞いたら確信した。
「せんせぇ。」




