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異能力探偵は完璧に  作者: ほとけ
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#1 二人の探偵

 空に憧れた人は飛行機を発明し、空を我がものとした。

 大地を欲した人々は戦車を発明し、人々同士で殺しあった。

 文明の進歩を求めた人々は工場を作り、大地を汚していった。

 人類の歴史はこうして生まれた。しかし、再生の裏には破壊があるように人類の歴史の裏にも人類の歴史の終わりがあるのだ。

 そして、それは唐突に訪れた。『アナザー』と呼ばれる能力を持つ者が数多く生まれるようになったのだ。

 最初は神の生まれ変わりや天からの授かり物とはやし立てたが、次第に迫害され人類は多くのアナザーを殺していった。

 それは現在の世界でも同じことだった。異端を異様に嫌がる人類は人類自身に生まれた異端を消そうとした。しかし、それが消えることは無かった。


「なにこれ」

 先程まで読んでいた本を閉じて目の前で意気揚々と感想を待ち望んでいるメガネ女子に一言言った。

「どうよ、私の新作の出だし。前からアナザーについては気になってたし結構感情込めて書いたんだけど!」

 目の前の茶髪のメガネ女子は烏川亜美。多くの本を出しているもののあまり売れない作家で俺の――創咲ハジメの幼馴染だ。

「まだ出すつもりか、もういい加減懲りたら?」

 ため息混じりに白髪混じりの頭を一掻きして本をデスクに置く。

「いーや!懲りないね!本を出すのは私の使命みたいなもんだから!」

 はぁ…。と再度溜息をこぼす。毎回毎回本を出す度に俺に読ませてくる。正直あまり文を読まない身からしてはただの苦行でしかない。それを本人に伝えたがどうやらまた別の使命が生まれたらしく、

「本嫌いのハジメ君を本好きにしてあげよう!」

とか言い始める始末だ。お陰で読むのは慣れたが好き好んで読むことはないだろうと思う。

「はぁ…。感想だけど、なんか、クサイ。セリフというか文が」

 率直に思ったことを言ったがどうやら亜美は納得のいかないらしく

「えー、いいと思うんだけどなー」

と、口を尖らせて文句垂れてきた。

「感想を素直に受け取れないならもう読まんぞ。時間さいて読んでやってんだ、ありがたく思え」

「はいはい、ありがとござーやーすー!…全く少しは褒めろっての…」

「あぁなんだって?」

「なんでもございませんー!」

 相変わらずの大声で返事を返した後、亜美は立ち上がりキッチンのある方へと歩いていった。

 俺こと創咲ハジメは探偵業を営んでいる。仕事内容は不倫調査から迷子犬の捜索、対象の身辺調査まで様々だ。

 先程の鳥川亜美も将来は作家志望だが、それまでは俺の探偵事務所でバイトというわけだ。

 ちなみに俺が二十二歳で亜美が十九歳だ。

「はぁ…。まぁ、いいや。…さてと、最近何か変わったことは…っと」

 俺はいつもの日課の地域新聞に目を通す。

 創咲探偵事務所のある地域は七つの区域に分けられている。

 七つの中で最も栄えているA区。

 さらにその隣にあることでA区の恩恵を受け、栄えてきているC区。

 A区の隣ではあるがA区C区に人を取られ、過疎とまではいかないが人の少ないB区、と言ったふうにアルファベット順にAからGまでの区域がある。ちなみに俺の探偵事務所は特に栄えているわけでもなくかと言って過疎ってるわけでもないD区に根を張っている。

 地域新聞には七つの区域の事件がページ毎に載っている。探偵としてはここまでわかりやすい情報源はないので重宝している。

「A区でまた顔無し死体発見か…。またこの手の事件かよ…もっと人探しとか迷子犬探しとかないのか…」

 ペラペラと新聞を捲るが俺が出られるような事件はなかった。

「また顔無し死体?やっぱりこれもアナザーの仕業?」

亜美がキッチンから二人分の湯呑みをトレーに乗せてやってきた。

「あぁ、だろうな。大勢人がいる中で顔無し死体作れるのなんかアナザーくらいしかいないさ」

 目線は新聞に向けたままで亜美に答える。亜美は椅子の後ろに回り込んで一緒に新聞を眺める。

 A区の顔無し死体事件も今回で十件目。A区の警察も手掛かり一つ見つけられないということで捜査が手詰まっているらしい。

「全く…ハジメも早く捜査しに行けばいいのに」

「悪いがこっちも商売だ。ボランティアで人殺し探しなんてやらん」

 新聞を閉じ、ゴミ箱へ突っ込む。

「ツンデレなんだから…もう」

「誰がツンデレだ。早く茶ぁ寄越せ」

 亜美の持っているトレーから湯呑みを一つひったくり、そのまま一気に飲み干す。

 いれたばかりなのか少しばかり熱かったが、気持ちのスイッチを入れるには丁度いい。

「よし!今日も一日がんばりましょう」

 自分の頬を両手で叩き、気合いを入れる。これはこの仕事を始めてからの習慣である。

「さて、ボスに気合が入ったところでお客さんみたいよ?」

 亜美が玄関に手を向けるとちょうどタイミングよくチャイム音が鳴った。

「すみません、人探しをお願いしたくて来たのですが…」

 玄関の外からはお客と思わしき少女の声が聞こえてきた。

「はいはーい、今行きまーす」

 亜美が玄関へ行き、少女を部屋に連れてきた。

 少女は黒髪を一つにまとめ、身長は亜美よりふた周りほど小さかった。

「いらっしゃいませ。お話はこちらの部屋でよろしいですか」

 先程まで亜美と駄弁っていた部屋からその隣のソファのある個室へ移動する。

 亜美にお茶を頼み、俺は依頼主と対面のソファに座った。

「で、早速本題ですが。人探し…ですか?」

 手を組み、相手の反応を待つ。

 少女は目を少し泳がせた後、こちらを見つめ口を開けた。

「はい…。実は私の父がA区に行ったっきり音信不通で…。もう一週間以上経ったのに…。だから心配で…」

 あー、そうかー。A区かー。A区の行方不明者かー。

 顔には出さずに思案する。おそらくこの少女の父親はかなり面倒なことに巻き込まれている。もっと具体的に言うと顔無し死体になっている可能性が大きい。というかなってる。確実に。

 だがしかし、探偵たるもの依頼主から依頼されたものは必ず遂行しなければならない。例えそれが遂行することが出来ないものだとしてもだ。

「あー…。はい、わかりました。とにかく調査してみましょう。…すみません、お名前と電話番号の方教えていただけますか」

「はい、栗崎といいます。栗崎雅です。父の名前が健介です。電話番号は…」

メモ帳を上着のポケットから取り出し、一番新しいページに書き取る。

 あっ、と伝え忘れたことを思い出しペンを置いた。

「あぁ、それとお代の方は一週間後に十万円。ここに持ってきてもらえますか」

「じ、十万ですか!?…えっと、少し高くないですか…?」

 見た目は高校生に見えなくもない感じの少女だ。十万は高いかもしれない。しかし、依頼する以上交通費諸々が掛かるし、確実にアナザー関連の事件だ。まけるわけにはいかない。

「嫌なら結構。金さえ払えば完璧にこなしましょう。ですが、お代が頂けないのであればこの件は流れということで」

 そう言って立ち上がると、雅は上着の裾を掴み縋るように言ってきた。

「わかりました!払います!払うのでどうか父をお願いします!!」

 裾を離さず、涙目で身長差からこちらを見上げてくる。

「いいでしょう。依頼は完璧に」

 ニヤリと笑い、俺は金の使い道について考えを巡らせ始めた。

今回は本作品を読んでいただきありがとうございます。

次回からは異能力探偵がどんな捜査をするのか、アナザーとは一体何なのかを詳しく書いていきたいと思います。

では、次回会うことが出来たならばお楽しみください。

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