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15 来訪

 初夏の日差しが、春の優しいそれとは違う暑さをもって降り注ぐ中、ウルフベリングの使節団は到着した。


 ウェジントン侯爵領まで彼等を迎えに出ていたウェジントン侯爵と、アウランド侯爵が彼等の横に並び、王宮についたその足で国王が待つ謁見の間まで彼等を導く。

 謁見の間で、国王夫妻の横、最前列でエランと共に彼等を迎えたロザリンドは、異国の人々の様子を興味深く眺めた。


 謁見の間の扉が開き、まず先頭で入ってきたのはもちろん、第一王女である。

 青銀色のつややかな髪の毛を後ろに流し、金の髪留めで止めてドレスはその髪の毛よりさらに濃い青銀色の細いラインのもので、なんと膝のあたりまでスリットが入っている。

 竜王国では貴族の女性は足を見せてはならないという風潮があるので、その大胆さに目を奪われた。

 歩く度にそこから除く足には長い白いブーツを履いている。

 年齢はロザリンドとそう変わらないはずだが、涼し気な銀色の瞳と、すっと伸びた鼻梁に、りりしささえ感じるきりりとした眉で、自信に溢れた笑みを浮かべる口元が彼女を随分大人びて見せていた。

 可愛らしい、というよりは、美人だという言葉がよく似合う女性だろう。


 その後ろには壮年の紳士に、銀髪の青年が並び、さらに文官と武官らしい者たちが左右にわかれて付き従っていく。

 男たちを従えた王女は、優雅というよりは堂々とした足取りで国王の元まで歩み出ると、竜王国のものとは違う礼の姿勢をとった。


「竜王国国王陛下、拝謁いたします、父のクリストフ=ウルグ=ウルフベリングの名代で参りました、セレス=ウルイグ=ウルフベリングと申します。先の戦では多大なるご尽力を頂いたところ、お礼を申し上げに伺うのが遅れ大変申し訳ございません。こうして同盟の義をお返しに参ることができましたことは、大いなる喜びでございます。貴国とはこれよりもより良い関係でありたいと、父も願っております。心ばかりではございますが、父より友好の証として貢物を預かってございますので、どうぞ後ほどご確認ください。」


 広い謁見の間の中で、朗々と響く落ち着いた声音に、竜王国の貴人たちの後ろに控える侍女たちが、ほう、とため息をつく。

 これは男性のみならず女性にもよくおモテになるでしょうね、とロザリンドは感心しながらその美しくも精悍な王女を見つめた。


「遠路はるばるようこそ我が国へ。先の戦での貴国の傷が癒えたことは我が国にとっても僥倖である。この度の交流をもってより固い絆が結べることを余も願っている。是非いろいろとお話を伺いたいところだが、まずはお疲れだろう。その楽しみは夜の宴にとっておくとして、案内させるのでまずはお部屋で旅の疲れを取るがよろしかろう。」


 王がそう言うと、使節団の面々はもう一度深く礼をしてから、アウランド侯爵に連れられてその場を後にした。

 長旅の疲れを感じさせないその堂々とした足取りは、最後まで乱れない。


「とても美しい王女様でいらっしゃいましたわね。」


 彼等が謁見の間を出て、扉が閉まったのを確認してからロザリンドは感嘆の声をあげた。

 その横で、エランが頷く。


「そうですね、お聞きしていた通りですね。」


 落ち着いたその声に、ちらりと横の彼を仰ぎ見る。

 使節団が去った後を見つめるその表情はいつもどおりの柔和な笑顔で、とりあえず、王女殿下へ一目惚れなどはしていなさそうだ。

 移ってしまった彼の心をつなぎとめておくというのは今のロザリンドには少々精神的な荷が重い作業に思えたので、その心配が無いようでなによりである。

 エランは顔は動かさず、見上げてくるロザリンドの瞳をその金色の瞳で見下ろした。


「嫉妬ですか?」


「エラン様、こちらへ辞書をお持ちいたしましょうか?」


「必要ありませんよ。あなたにそのような重い物を持たせるわけにはいかないですからね。」


 別にまったくこれっぽちも嫉妬などはしていないが、彼の心が第一王女に向いていないかと心配していたことは事実であるので、つい言い返してしまった。

 その様子を、エランは楽しそうに赤い睫毛を下げてククク、と笑う。

 なんだかご機嫌なその様子は勘違いされているようで随分腹立たしく思うのだが、今日からロザリンドは彼と仲睦まじい様子を演じなければいけないのである。

 ここで険悪になっては仕事ができない。

 ぐっと我慢して、ロザリンドは夜の宴のための準備に向かった。


 〇・〇・〇・〇・〇


 ウルフベリングの使節団を歓待する宴の華やかさの中で、アリィシャはぎゅっと横にいる恋しい人の腕にかける手に力が入る。

 昼間に見たウルフベリングの第一王女の姿は精悍で、美しかった。

 近衛騎士団長に相応しく大柄で逞しいウルベルトの横に立つのに、大変お似合いであるように見て取れた。

 あのように堂々とした女性を前に自分は彼をつなぎとめることができるのだろうか。

 そんな不安がつい、出てしまったのである。

 それに気づいたらしいウルベルトが彼女を優しい眼差しで見下ろし、腕をといてそっと腰を抱いてくれた。

 常であれば人前でされるには少々恥ずかしい姿勢であるが、今は大変心強い。

 その腕の温かさに甘えてアリィシャは彼の体に身を寄せる。


 そこへ、国王夫妻に挨拶を終えた第一王女が進み出てきた。

 相変わらず堂々とした足取りで、エランとウルベルトの前まで来ると、彼女はチラリとその銀色の瞳でウルベルトの顔を見る。

 それからその横で彼に身を寄せるアリィシャへ目を移し、その後にエランに目を向けた。

 スン、と彼女の鼻がなったような気がした。

 そういえば、ウルフベリングの王族や貴族たちはフェンリルの血を引いていたのだったかしら、とアリィシャが思っていると、王女はそれまでの冷たい美貌を隠して、花のような、愛らしい笑顔を顔に咲かせた。


「竜王国両王子殿下にご挨拶いたします。ウルフベリング第一王女、セレス=ウルイグ=ウルフベリングと申します。ウルベルト殿下、お久しぶりでございます。その節は我が国の危機を救ってくださり大変ありがとうございました。」


 氷が溶けた野原に咲く花のような彼女の笑顔に、アリィシャが戦々恐々としている上で、低い声がそれに答える。


「ええ、お久しぶりです王女殿下。貴国の内政が安定したことは我が国にとっても喜びです。どうぞ滞在中、楽しんでいらしてください。」


 ウルベルトのその言葉に、第一王女、セレスは笑顔のまま頷くと、エランのほうへ向き直った。

 そして銀色の睫毛を下げて、笑みを深くすると、よく通る声でこういった。


「エラン様、ご活躍のお噂はかねがね伺っております。わたくし、あなたを拝見して確信いたしました。どうぞわたくしをあなたの妃としてくださいませ。」


 この言葉に、目を丸くしたのはたぶんアリィシャだけでは無い。

 竜王国の面々のみならず、ウルフベリングの使節団の中からもザワザワと驚きの声が漏れている。

 アリィシャは思わずウルベルトに身を擦り寄せて、横の親友とエランの様子を伺い見た。

 するとそこには、いつもどおりの柔和な笑顔のエランと、それは美しい笑顔のロザリンドの姿があった。


 しかしアリィシャは知っている。

 あの笑顔の親友は臨戦態勢である。


 正直その後ろに黒々とした薔薇が咲き誇って見え、思わず身震いしてしまう。

 エランは柔和な笑みを崩さないまま、ロザリンドと組んでいた腕をといて、その手を彼女の肩にまわして抱き寄せた。

 そして頬をロザリンドの頭の上に軽くよせながらにっこりと笑って言葉を紡ぐ。


「王女殿下、我が国へようこそいらっしゃいました。美しいあなたの横に望まれるとは私は幸せ者です。しかし大変申し訳ないのですが、私の心はすでにここにおります、ローザのものなのです。私達が縁をむすばずとも、両国の友好にほころびは生まれません。どうかご容赦願えるでしょうか。」


 言いながら、エランが愛おしそうにロザリンドに蜂蜜色の視線を落とせば、彼女もまた、その視線に幸せそうに笑ってみせる。

 先日のお茶会で取り乱していた親友と同一人物とは思えないその様子に、さすがロザリンドだとアリィシャは感心した。


「そうは言っても、ご婚約もまだなのでしょう?縁を結ぶのに、何か不都合なことでもおありになるのではないのかしら。」


「ええ、残念なことに、少々我が国の事情がありまだ婚約は結べていないのです。しかしローザはすでに後宮に部屋を持っており、我が妃になることは内部的には確定しております。それ以上は我が国の事情ですので…」


 銀色の目をキラリとまたたかせて、痛いところをつくセレスに、エランは表情を崩さずにさらりと嘘をついて見せる。

 これ以上の詮索は、内政干渉だぞ、というエランの言葉に、セレスはちらりとロザリンドのほうへ視線をやる。

 その視線に、ロザリンドは薔薇のような笑顔のまま応戦した。

 しばし二人がそうやって見つめ合って…いや、睨み合っていたところで、セレスの後ろからまったがかかった。


「王女殿下、このような場所でそのような発言をなさるものではありません。申し訳ありません王太子殿下。その…少し席をはずしてもよろしいですか?」


 穏やかな笑顔を浮かべて声をあげたのは、銀髪の青年だった。

 彼はウルフベリングの年若い公爵だと名乗っていた。たしか名前はセドリム=ハウンズだ。

 短い紫銀の髪が印象的な、キリリとした青年である。

 事前にきいたゲイルからの情報によれば、彼は第二王子派である。


「ええ、もちろんです。」


 そう言って頷くエランに会釈をすると、セドリムは笑顔のままむんずとセレスの細い腕を掴み、くるりと背をむけると、セレスを引きずって大股で会場の端へ歩いていった。

 その間に


「ちょっと離しなさいよ!邪魔しないで!」

「うるさい馬鹿娘!タイミングを考えろこの馬鹿!」

「馬鹿って二回も言ったわね!この無礼者!」


 などといった、謁見の時のあの凛とした風情からは想像できないセリフが聞こえてくる。

 アリィシャたちがそんな二人を見送ったところで、おほん、と一つ咳払いをしたのは使節団の列の中で、王女の後ろに居た壮年の男性だ。

 彼はウルフベリングの外交官の、ドミヌク伯爵である。

 彼はたしか、王女派だったはずだ。


「大変失礼いたしました。我らが王女殿下はいささか、奔放な方でして…。」


「いいえ、とんでもありません。しかし王女殿下のお望みに添えぬのは残念なことです。かわりに是非、竜王国を楽しんでいっていただければ、両国の友好につながるでしょう。」


 ドミヌク伯爵の謝罪に、やはり笑顔を崩さないままエランが答える。

 大人しく使節団の日程を終えて帰ってくれれば、今回のことは聞かなかったことにすると言っているのだろう。

 その腕は、いまだにロザリンドの肩を抱いたままだ。


「もちろんです。しかし王女殿下はいささかやんちゃなことをいたしましたが、両国に血の結びつきができることは我らも望むところなのです。もし叶うのであれば喜ばしいことだと思ってしまうのは止められません。」


 そう言うドミヌク伯爵の目がちらりと向けられたのは、ウルベルトだ。

 王女はエランをお気に召したようだが、やはり彼はウルベルトのほうを望んでいるらしい。

 アリィシャが彼の軍服の背中をそっと握ると、ウルベルトの手にも少し力が入った。


「そうですね。いつの世にか、そのようなことがあれば喜ばしいことでしょうね。」


 言葉の裏に、私はお答えできません。という響きをのせて告げられたウルベルトの言葉に、ドミヌク伯爵は小さく肩をすくめてみせた。


 〇・〇・〇・〇・〇


 ウルフベリングの使節団を歓待する宴は、立食形式の晩餐会となっており、一通りの挨拶を終えた後は、各自が思い思いに歓談しながらの食事となった。

 エランの横で、ロザリンドが彼とドミヌク伯爵やウルフベリングの武官が話す先の戦についての話に耳を傾けていたところ、先ほど連れて行かれたセレスが穏やかな笑顔のセドリムにまるで連行される罪人のように連れられて帰ってきた。

 ドミヌク伯爵たちが、その様子にやれやれといった表情で場所を譲ると、若干不本意そうな顔ながら、セレスはエランとロザリンドに礼をする。


「さきほどは無作法をいたしまして申し訳ありませんでした。改めて、そちらの方のお名前をお伺いしてもよろしいかしら。」


 さきほどは、あっという間にセレスがセドリムに連れて行かれてしまったので、ロザリンドは挨拶する間もなかった。

 ロザリンドはにっこりと微笑みを返すと、優雅にウルフベリングの礼の姿勢を取った。


「セレス王女殿下、わたくし、ロザリンド=ウェジントンと申します。先ほどはわたくしこそ、ご挨拶をせず申し訳ございません。エラン様のお言葉に、つい嬉しさで我を忘れてしまいましたの。」


 姿勢を正してから睫毛をふせ、頬に控え目に手をあてて、顔を斜め下に向ける。

 顔を意図して赤くできないのは残念なところではあるが、これでも十分、恋する乙女の恥じらいは演出できるだろう。

 その様子を、セレスは相変わらず憮然とした顔で見つめて、ため息をついた。


「まあ、仲がよろしいのですわね。わたくし、別に側室が居るのはかまいませんわよ?王たるもの妃を多く持つことは当…っいった、いたいわよセドリム!」


 またしてもストレートに切り込んでくる王女に、セドリムが笑顔のままその足を踏みつけたらしい。

 抗議の声をあげるセレスに、ロザリンドは顔を上げ、笑顔を深くした。


「あら…残念ですわ。竜王国では国王であっても、側室を持つには正妃と婚姻して子を為さずに5年後で無くてはなりませんの。セレス様の花のさかりに、そのように無駄にお待たせしては申し訳ありませんもの。」


 正妃になるのはもちろん私だし、すぐ子供もできますので待ってても無駄骨ですよ、と言ったのである。

 その言葉に、セレスが方眉を上げたが、彼女が口を開くよりも早く、ロザリンドの上から柔らかな声が響いた。


「ふふ…そうですね、私もローザによく似た子がほしいですね。女の子だったら嫁に出したくなくて困るでしょうが。」


 二人のやり取りを黙ってきいていたエランが、さも楽し気にそんなことを言ってロザリンドの頭上でくすくすと笑う。

 そしてまたその手をロザリンドの肩にまわし、頭に頬を摺り寄せた。

 正直手があたる部分はくすぐったいし、すぐ頭の上から降ってくる声は甘ったるいしで止めていただきたいところなのだが、ここで彼を引きはがしたり取り乱したりしては敵には勝てないので我慢である。

 今はエランよりも、目の前の王女に勝つことが先決だ。

 ぐっと笑顔で耐えたロザリンドの前で、セレスが眉を寄せる。


「そう…つまりどうあっても、わたくしが入るスキが無いとおっしゃりたいのね。」


 精悍な美貌に不満そうな色を乗せて言うセレスに、ロザリンドはいかにも心苦しい、というように少し眉を下げて見せた。


「申し訳ありません王女殿下。他のどのようなものを譲れても、わたくし恋しい方の横を譲ることだけはできませんの。」


 ふう、と儚げにため息をつき目を伏せて、ロザリンドは自分の仕事のなかなかの成果に満足していた。

 ここ一か月、エランに翻弄されまいと闘争心を燃やしておいたおかげで、まったく狼狽えずに恋人を演じることが出来ている。

 これならば露払いの役目としては上々だろう。

 売られた喧嘩には勝たないと気が済まない性格のロザリンドは、この王女相手に容赦をするつもりは無い。


 しかしご機嫌な内心をさとられないように目線を上げようとしたロザリンドの体がくるりと向きを変えられた。

 なにごとかと目を上げれば、その上に蜂蜜のような瞳のエランがキラキラと輝くような笑顔でこちらを見下ろしている。

 思わず腰がひけそうになったロザリンドの体は、思いのほか力強い彼の腕に取り押さえられぴくりとも動かなかった。


「ローザ、もう一回言って?」


 何を言われているのかわからず、ロザリンドは目を瞬かせる。

 この甘ったるい顔の王太子は何がしたいのだろうか。

 意味がわからず、ロザリンドが何も言わずにいると、エランの腕に力が入って体がさらに引き寄せられた。


「もう一回。」


 更に近くに迫ってきた声に、先ほど意図して赤くできなかった頬が、今は意図せず赤くなる。

 何故味方のはずのエランが自分の邪魔をするのか混乱しながらも、ロザリンドは先ほど自分が何をいったのだったか必死に思い出した。


「ほ、他のどのようなものを譲れても、わたくし恋しい方の横を譲ることだけはできません…」


「後半だけでいいかな。」


「わたくし恋しい方の横を譲ることだけはできません」


「もう一回?」


 鮮やかな赤い髪の毛をさらり、と肩からすべらせて、小首をかしげて言うエランに、ロザリンドの外面は限界を迎えた。


「エラン様!もうお止めになってくださる!?これ以上は皆様のお耳汚しですわ!時と場所をお考えになって!!」


「ははは、すみません、嬉しかったので。」


 ロザリンドが思いっきり両手でその胸を押せば、さきほどまできついほど彼女の腰を引き寄せていた腕がするりと離れる。

 エランは悪びれた様子もなく、嬉しそうに無駄にキラキラしい笑顔で謝罪した。

 せっかくここまで順調に行っていたのに、取り乱してしまったロザリンドはまた負けてしまったことに歯噛みする。

 そしてはっとして横を向けば、そこには胡乱な目をしたセレスとセドリムが居た。


「王女殿下…やめましょうよ馬鹿馬鹿しいですよ…。」


 小さくうなるように言うセドリムの声が、その声量のわりにロザリンドの耳によく届いて彼女の顔をさらに熱くする。

 思わずエランを引き剥がしてしまったことで、怪しまれていないかと思ったのだが、思いの外、恋人同士の演出としては効果が高かったようである。

 高かったようであるが、これはものすごく恥ずかしい。

 セレスはと言えば、険しい顔で瞳を伏せている。

 なんだか少し、肩が震えているような気がするのは気のせいだろうか。

 そしておもむろにガバっと顔を上げると、髪の毛を後ろに払い、腰に手を当て、あごをそらした。


「今日のところはこの辺にしてさしあげますわ!」


 ふん、とそれは美しい悪役ポーズで鼻を鳴らし、踵を返してまたあの堂々とした歩みで去っていく王女を、一同はしばし何も言わずに見送った。


「王太子殿下、申し訳ありませんうちの王女殿下が…。」


「ははは、なかなか楽しい方ですね。」


 ため息交じりのドミヌク伯爵がまた謝罪をし、エランが柔和な笑顔を浮かべてそれに頷いている横で、ロザリンドはせっかく王女を追い払うのに成功したというのに、己の顔から尚もひかぬ熱のせいでまったく顔が上げられなかった。

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