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荘厳な玉子  作者: 丸山 純一
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「秋山が逮捕(パク)られました。」

暗く冷たい声の福永の電話で江原は目を覚ました。


自身が社長を務める信光信販の事務所の最奥のソファーセットで昨晩から、今朝実行予定の小松の取り立ての拉致について、福永、秋山と打ち合わせをしていた。

小松は本部、信光信販(ウチ)から合わせて100万以上借りて行方を眩ませていた元ヤクザだ。

本部から行方を突き止めたから、という事でこの話しは信光信販が、江原が任されていた。


誰かが仕事の話し合いにはアルコールは持ち込まない方が良い。としたり顔で言っていたのを思い出した。

まだまだ大丈夫だが、37歳になり二日酔いになりやすくなった。

打ち合わせのクッションにと、軽く入れるつもりのアルコールがトップギアで入り、日頃の仕事に対しての説教が出てしまい、二人を怒鳴り散らすまでの状態になった。

普段は割って飲むところをほぼほぼロックでウイスキーを煽った。


というのも、秋山、福永は信光信販のツートップだ。

二人はムショで出会ったムショ仲間コンビで有り、結束も固い。福永が兄貴、秋山が舎弟だ。

秋山は強盗で6年。福永は殺人未遂で7年食らっていた。

詳細は知らないが、二人は中で兄弟分になり、秋山をかばい、福永は増刑(ましけい)一年の勲章を付けて満期出所した。

既にウチに仮入社していた秋山と共に、福永の放免(でむかえ)に行ったのだが、秋山はその場で泣きじゃくり出所を喜んでいた。


福永は都内一の組織(ヤクザ)三國会(さんごくかい)系の中でも高層マンションに事務所を構える、ひとかどの組の組員だったが、組の為に服役に行ったのに、出てきた時に組はそこらの個人商店レベルに衰退しており、事務所はタバコ屋かと言わんばかりの小さな事務所に移っていた。

組員数より事務所前にエサをもらいに来る飼い猫の数のが多くなってしまっていた。というシャレにならない過去を持つ。

ヤクザの福永の舎弟になった秋山もそこで一応ヤクザになろうと考えていたらしいが、組員の過半数が猫なんて組じゃ食えるはずも無く、福永出所と同時に三國会本部から組は解散させられた。


知人のツテで信光信販(ウチ)に仮入社し、身を寄せていた秋山だったが、福永とヤクザ社会で一花咲かす夢も途絶えた。


三國会で若くしてNo.3になった真島寿一(まじまじゅいち)が経営する藤キャッシングの系列である信光信販の事務所に改めて二人が連れてこられたのは、それからすぐ、今からだと3年前になる。

真島からすれば、傘下組織から溢れた活きの良い二人を放っておけなかったのだろう。自分の時にもそうだった。目をかけてくれた。

元々、藤キャッシングの店長は自分が務めており、社長の真島から暖簾分けという形で、その頃、系列店信光信販のオープンから経営を任されたばかりだった。求人誌で適当に採用したパッとしないテレアポ社員とともに2-4や3-5等の短期小口融資を切り盛りして、何とか毎日の売り上げを立てていた中での二人の入社は貴重だった。二人により、でかい額も貸し倒れ無く貸し出し出来る様になり、急速に売り上げを伸ばした。

二人が入ってからの3年間、系列内でトップの売り上げを出し走り続けた。

福永、秋山はヤクザでは無く、ヤミ金融というフィールドで花を咲かせた。

その影で、福永、秋山は更に距離を縮めた。勝手も増えた。

他のムショ仲間や福永の居た組の組員等、自分達の息のかかった連中を自分に何の相談も無く真島に入社を打診し、入社させた。


自分に相談も無く、偉そうに会社を回す二人に対しての説教が昨日は爆発した。


二人の解答は、会社を大きくしたかっただけで拾ってくれた自分に恩返しがしたかったというものだった。

それは本音かも知れない。

本部(藤キャッシング)もからむ小松の取り立ての拉致に、二人とも身体(からだ)懸かるのを承知で二つ返事で向かったからだ。


その秋山がパクられましただ?


昨日のままのテーブルに所在無げに置かれた割りものの炭酸水で喉を鳴らし渇きを癒し、余りを一気に頭からかぶった。

シュワシュワと炭酸が気化する雑音が耳から脳に割り込んでくる。

そしてタバコに火を点けた。

二三回煙を吐き出すと頭が覚醒した。

自分も12年前に敵対組織(マフィア)の若い奴を傷害致死(コロシ)て7年服役(アカオチ)している。

福永と同じ様に自分も三國会上がりだ。

人を殺せる程に、意気り猛っていた時期もあった。

福永には伝えていないが、業界(ヤクザ)内では福永より遥かに座布団は上だった。

そして、伊達や酔狂で座布団上げてきたわけじゃない。

最近は金融業に落ち着いたが、秋山逮捕に久しぶりに熱くなるものを感じる。

そして、直感だが、ただの逮捕では無い。

何かが始まる予感がした。

福永に事の顛末を聞き、呼び出し、電話を切った。

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