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第八話 『第五高校』

 そこはあの異世界ではなく元の世界だった。俺の手は昨日と比べると驚くほどにちいさくなってる。手だけではない、体の全てがそうだった。そして見覚えのある景色が写し出される。そこに写るのは幸せそうな大人の男女。あぁまたこの夢か、ここだけ見ればとても幸せな夢なのかもしれない。だがここから先がまさに悪夢なのだ。現実だけでなく夢ですら幸せにならないのか。もう数えるのを諦めるほど見たその悪夢はセリフも場面も全て覚えてしまった。異世界でこの夢は見なかったから少し安心してたころに思い出すかのようにやってくるこの悪夢。ホラーゲームかよ。ホラーというよりトラウマなその『記憶』の先はもう二度と見たくはない。完全に記憶から削除したい。頼むからこの夢から覚めてくれ.........


***

 なんとかあの夢の続きを見る前に起きることができた。だが目覚めは最悪だ。それも今日は第五高校に初登校する日だというのに......

 顔を洗い、朝食を食べ、制服を着る。一週間高校に通っていなかったからこの感覚は久しぶりだ。昨日準備した持ち物の最終確認をしてリュックを背負い寮から出る。

 しばらく歩くと白い建物が見えてきた。異世界とはいえ学校は嫌なものである。もう白い建物を見るだけで数々のトラウマが......これ以上こんなことを考えると本当にトラウマを思い出して学校行けなくなりそうだから思考を停止して学校へ向かった。

 俺がこれから通う高校は戦闘科、サポート科、開発科の三つの科がある。俺の能力はすべての科に適正らしいが一番向いているのは戦闘科らしい。なので俺は戦闘科を選んだ。

 今日が俺にとって初登校だが他の生徒は違うもう既に5か月間過ごしている。ちなみに今は八月だがこの世界には四季がないのか夏らしさを全く感じず、凄く過ごしやすい気温だ。話がずれたが俺は一応編入ということになっている。まぁ元の世界では高校に通ってたし嘘ではないな。

 担任から初日は職員室に一番先に来るように言われている。その指示通り俺は職員室に向かう。職員室の前まで来て一つ深呼吸風ため息をつく。深呼吸風ため息は元の世界の時から頻繁に使っていたので熟練度はマックスだ。

コンコンと職員室のドアをノックしてからドアを開ける。


「失礼します。今日からこの学校でお世話になる辻見望です。」


そこまで噛まずにセリフを言うと一人の女教師がこっちに向かって歩いてくる。


「担任の中前紫織(なかまえしおり)です。これからよろしく。早速ですがHRがあと十分で始まります。そこで簡単な自己紹介をしてもらうので少し考えておいてください。」

「わかりました。HRが始まるまでは何をしてれば良いのですか?」

「ついてきてください。」


そう言われついて行くと倉庫的な場所に着いた。そこで中前先生がガサゴソ何かを探し始める。


「これが体操服です。体育ではこれを使ってください。サイズは合っているはずです。それとこっちが校内で使ってもらうスマートフォンだ。スマートフォンの使いどころは後々説明させてもらう。」


渡された体操服とスマホはグレーに少しラインが入っていて地味だが個人的にはカッコイイと思う。


「戻った頃にはHRが始まるだろう。タイミングバッチリだったな。」



 教室の前まで行くと中前先生からドアの前で待つように指示があった。教室札には1-Cという表記があった。中前が教室に入ると同時に校内にチャイムが鳴り響く。教室で中前が話しているのをドア越しに聞く。


「おはようございます。今日からこのクラスに編入する生徒がいます。では入ってください。」


教室内がざわつく中俺はドアを開け、教室に入った。


「彼が今日からこの教室で生活する辻見望だ。自己紹介を。」

「辻見望です。総城(そうじょう)高校から来ました。これからよろしくお願いします。」


何も嘘は言ってない。実際に通っていた高校の名前をだしたが能力高校は番号で統一されているのでそこが能力高校ではないことはすぐにわかる。だから最近能力が発現したということにしておこう。実際にこういう事もあったらしいからありえなくはない話だろう。


「辻見はその奥の空いている席を使ってくれ。」

「はい。わかりました。」


いわゆる主人公席だった。元の世界でも主人公席には何度が座ったことがあるが中々過ごしやすかった思い出がある。しかし改めて見るとこの世界の人々は元の世界とは違い髪の色の種類が多い。この教室内でも髪の色が同じとはあまりいない。

そんなことを考えながら席に座る。


「少し早いがHRは終わりにする。辻見と同じ五班の人は色々教えてやってくれ。号令。」

「きりーつ、気をつけ、礼」

『ありがとうございました。』


全員がそれを言った後すぐに教室が賑やかになる。そして斜め右前の赤髪の男が話かけてきた。


「俺は同じ班の上原幸嗣(うえはらこうじ)。よろしくな!なぁ辻見って前の高校は能力高校じゃないだろ?最近能力が発現したのか?」

「こちらこそよろしく。能力は少し前に発現したばかりだ。」

「へぇ~本当にいるんだなそういう人。噂でしか聞いたことなかったけど。どんな能力なんだ?」

「えーと、自分の血で物を作れる能力だ。上原君はどんな能力?」

「幸嗣で良いよ。俺は自分を中心に半径五十mの円の範囲の中の能力を全て無効化できる。能力名はスキルブレイク。まぁ敵味方構わず無効化するから使い勝手はよくないがな。」


能力モノには定番の無効化。もっと上の学校にいるとは思っていたがまさか同じ高校とは。だがそれで幸嗣の体が制服の上からでも分かるくらい筋肉質な理由がわかった。きっと幸嗣の戦闘スタイルは能力無効して殴り合いってところだろう。


「おっと、そろそろ一時限目が始まっちまう。」


そう言って幸嗣はロッカーに教科書やらノートを取りに行く。一時限目は国語になっている。ここは能力高校だったはずだが普通の授業もやるのか。そんなことを考えてると、隣から声がした。


「あの、えっと、同じ班の日尾野唯美(ひびのゆみ)です。唯美って呼んでください。こっ、これからよろしくお願いします。」


とても綺麗だった。元の世界ではテレビでも見ることができないくらい。長い銀髪で青い目をした彼女は顔も整っていてまるで人形のようだった。人見知りなのか緊張しているように見えたがそれはお互い様だ。隣にこんなかわいい子がいるのはラッキーを通り越して困る。しばらくは授業に集中できそうにない。こんなかわいい子も戦闘するのだろうか。


「こちらこそよろしく。俺のことも望って呼んでくれ。」


頼むから名前で呼んでくれ。そう心では強く願ったことをさりげなく付け足してみる。

そうすると唯美は白い頬を少し赤く染めて小声で言う。


「よ、よろしくね望くん。それときょ、今日の放課後時間ある?」


心臓が痛い。かわいすぎる。神様この世界に飛ばしてくれてありがとう。なんか初めて心から神様に感謝した気がする。


「もちろんありますとも。」

「じゃあ放課後教室で待っててね。」


登校初日に美少女と放課後イベント?明日死ぬんじゃねぇかこれ?


「わかった。放課後に教室だな。」


そこまで会話が進んだところで教室内に授業開始のチャイムが鳴り響く。そのチャイムは同じ音のはずなのにさっきより高い音に聞こえた。




***

 一時限目から四時限目までの授業をこなし、今は学食の時間だった。どこに行けば良いのか全く分からなくて困っていた時に幸嗣が近づいてきた。


「望はここの学食のシステム分かってるか?」

「いや全くわからん。どこで食べるのかもわからない。」

「そうか、とりあえず食堂へ移動しながら説明する。」

「ここの学校の学食は全生徒が学食で食べるんだ。学年とクラス、班で食べる場所が決まっているから注意しろよ。ちなみに俺たち1Cの五班は入ってずっと左に行ったところだ。」


説明を受けている間にもう食堂に着いていた。


「次は選び方か。これはやりながら説明した方が早そうだ。」


そう言って幸嗣はポケットからスマホを取り出す。おそらく俺にも配布されたスマホと同じ機種にケースをつけたのだろう。幸嗣のスマホは全体的に黒く、白いラインがいくつか入っているものだった。ちなみにケースをつけていない本体、つまり俺のスマホはグレー一色で真ん中にリンゴの如く白い校章が刻まれてる。


「この販売機に近づくと自動的にこのメニュー画面が開かれるんだ。この中から好きなメニューを選んでタップするだけで選んだものが販売機から出てくる。」


幸嗣が画面をタップすると無人の販売機からラーメンが出てくる。メニューには「日替わりお楽しみメニュー」と優柔不断の人にも優しいメニューまであった。だが俺は幸嗣を真似してラーメンを選ぶ。そうするとすぐに販売機からラーメンが出てくる。これが文明の力。


「じゃあ冷めないうちに食べようぜ。」

「何から何までありがとう。助かったよ。」

「おう!また何かわかんないことあったら聞いてくれ。」


お礼を言い自分達の席へ向かうとそこに二人、既に横に並んで座っていた。一人は唯美だった。もう一人は確か同じ班の人の......駄目だ名前がわからん。幸嗣は席に座り、俺も続いて座る。


「あれ?転校生君じゃん?初めましてあたしは湊夏海(みなとなつみ)夏海って呼んで。」


湊夏海と名乗ったその女子は幸嗣よりも薄い赤髪で黄色い目をしていた。唯美には劣るが夏海も中々な美人だ。こんな顔面偏差値高い人達と一緒にいたら余計に俺が醜くなっちゃうだろ。俺も別に顔が悪いわけではない元の世界では可もなく不可もなくといったところだ。


「わかった。俺のことも望って呼んでくれ。」


一通り挨拶が済んだところで小声でいただきますをして、ラーメンを食べ始める。ラーメンは思っていたよりも旨く驚いている。こんなレベルのものが毎日食べられるというだけでこの高校に通う価値があると言っても過言ではない。旨いので黙々と食べていると話の矛先がこちらへ向く。


「望は最近能力が発現したんだよね。どんな能力なの?」


と夏海が質問してきた。それにしてもコミュ力高いなぁ。俺だったら初対面の人にため口とか絶対無理、絶対。


「幸嗣には説明したけど俺の能力は自分の血でものを作る能力だ。能力名はカーディナルメイク。」

「血で!?なんでも作れるの?」

「形と機能さえ分かっていれば生命以外なら何でも作れる。まぁ機能が複雑だったり、大きかったりすると使う血の量が多くなるから限度があるけどね。」

「へぇ~凄いね。そうだ!せっかくだしこの際この班の皆で能力の紹介しようよ!」


そういえば他人の能力にはあまり興味がなかった。いや、気にする余裕すら無かったと言う方が正しい。良い期会だここで他人の能力を勉強しよう。それよりも俺の隠されたコミュ力に驚いている。俺って人と会話できるのか。ずっと猫としかできないと思ってた。


「望はさっき紹介したし、俺も望には紹介してるから省略。あとは夏海と唯美か。」

「じゃああたしから言うね。」


正直唯美の方が気になるが楽しみは最後にとっておこう。


「あたしの能力は炎を作りだしてそれを操ることができるの。能力名はフレイム。カッコイイでしょー。」


自分の能力を自慢げに語る夏海。赤髪で炎の能力とはイメージ通りだな。その能力は名取と同じ種類な気がする。あと絶対水があるだろ。あと光と闇も。


「次は唯美だよ。ほら早く早く。」

「わ、私の能力は身体の強化です。能力名はブーストです。」


身体の強化って普通に強くないか?っていうか唯美は身体強化して戦うのか、それならこんなに華奢な体で戦闘科にいる理由も分かった。だがこれで第五高校、これで中間この国にはもっと上もいるのか。って考えるとやっぱり名取はバケモノ級の強さなのか。


「いろんな能力があるんだなぁ。」


これをきっかけに他人の能力に少し興味を持てた気がする。ただこれでもほんの一部、もっと能力があると思うと世界は広いなぁって実感している。


「げっ、もうこんな時間だ。次の授業私模擬戦じゃん。早く行かないと。」


そう言って夏海はすぐに学食を食べ終え食堂から出ていった。ちゃんとごちそうそまを言って。


「......模擬戦?」


そう、異世界の能力学校がただの平穏で幸せな学園生活で終わるわけがなかった。

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