第七話 『戦いの行方』
目を覚ますと最初に見たことのない天井が目に入った。そして気を失う前のことを思い出して急に起き上がると誰も居ない白い壁で囲まれた部屋の中だった。窓で外の様子を確認すると空は夕焼けだった。俺が倒れてからそれなりに時間が経ったのだろう。立ち上がろうとした時に地面が反発したことで俺はベットの上に居ることを理解した。そして今度こそ立ち上がろうとした時自分の腕に一本の細長い管が繋がっているのが見えた。その管の先には赤黒い血が袋に入って吊るされていた。この状況から考えて、戦って倒れた後に誰かが俺を病院まで運び輸血をされ今に至る。ってところだろうか。凄い名推理だな。あ、じっちゃんの名にかけるの忘れてた......はい誰でも分かりますね。調子乗ってすいませんした。そんな下らない一人芝居がちょうど終わった時に横開きのドアが開いて、白衣で身を包んだいかにも医者って格好のまだ二十三歳くらいの男性が入って来た。
「目覚めましたか。調子はどうですか。」
「大丈夫です。傷も全て塞がっていて輸血もしてもらったので何も問題ありません。」
この世界では一晩で傷は治ってしまうらしい。能力のおかげか医療の進歩なのか。だが輸血は元の世界と同様、時間がかかるらしい。まだ輸血は続いている。
「それは良かったです。では今回は念のため検査をして終わりになります。と言いたいところですが能力違法使用対策局の方からお話があるそうなので、終わったら検査をします。」
「お待たせしてしまって申し訳ございません。どうぞお入り下さい。」
医者がそう言うと真っ黒なスーツを着た黒髪の男性が1人と金髪金眼で学校の制服のようなものを着た人が一人、医者と入れ替えで入ってきた。
「こんばんは。能力違法使用対策局の駒沢玲二だ。この度は君に先ほど解決したショッピングモールでの戦闘について話にきた。」
解決したという言葉を聞いて胸をなでおろした。きっとあの金髪の人がやってくれたんだろう。駒沢と名乗ったその男は丁寧に名刺まで渡してきた。名刺を貰ったことなど生まれてこの方一度もない。
「......やっぱり僕いけないことしちゃいましたか?」
薄々そうなんじゃないかという気はしていた。学校外での能力使用は禁じられている。とかそういうテンプレ的なものがこの世界にもあるんじゃないかという気はしていた。だが駒沢はこう答えた。
「何を言っているんだ。君のおかげで多くの人を救うことができたんだ。それが悪いことなわけないだろう。感謝を言いにきたんだ。これは功績ものだよ。」
なかった。この世界にテンプレなんて求めてはいけなかった。まぁなくて助かったけど。とりあえずその不安は取り除かれ次に気になるのはあの金髪の男だ。さっきから何も喋らないし、自己紹介もしてくれないし聞いてみることにした。
「あの...隣の人は?」
「そう言えば紹介がまだだったね。彼は名取飛鳥だ。名取自分で自己紹介しろ。」
「駒沢さんが紹介してくれるのずっと待ってたんですけど...まぁいいや。俺の名前は名取飛鳥。今日君を助けた第一高校の二年だ。よろしく。」
第一高校って言ったらこの国で一番強い高校だよな!?でも確かあの時助けてくれた人は目が緑だった気が......
「今日助けてくれた人は目が緑色だったと思うのですが。」
そう思ったままに質問すると名取は緊張感ゼロで答えた。
「あぁ、俺は能力を使っている間は目が緑になるんだ。」
カッコイイと思ってしまった。能力物のアニメとかで能力使う時目光るのカッコイイとは思っていたが現実で見れるとは思っていなかった。でもこういうのって片目だけって場合が多いと思っていたが、まぁいいか。ちなみに俺は能力を使っても全く光らない。
「そうだったんですね。助けてくれてありがとうございます。」
一通り名取の自己紹介が終わったところで駒沢が話を始める。
「ここからが本題なんだが、実は能力を使って直接的にまたは間接的に人に危害を加えるのは基本的に禁止されているんだ。」
やっぱりあったのか。そう思いながら黙って話の続きを聞く。
「それは今回の事件の犯人はもちろん君にもあてはまる。能力高校に入っていれば話は別だが君はギリギリ入学していない。しかしそれを回避する方法が一つある。今回の君の功績を名取のものにするんだ。」
「そうしたら回避できるんですか?」
「勿論だ。名取の話によると君はガスマスクを着けていたそうだね。」
「はい。」
「ならば更にうまく回避できる。功績を名取のものにすれば君が戦ったという証拠はなくなる。そして君ではなく名取が最初から最後まで戦い、勝利し、多くの人を救ったと世間に認識させれば君が罰を食らうことはないだろう。もし戦っているところを見た人がいたとしても、君はガスマスクを着けていたから顔まではわからない。その分功績は与えられないけど君がそれで良いならそうさせてもらう。」
断る理由がなかった。そもそも俺は最初から最後まで戦ったわけではない。最終的にはそこの名取飛鳥が決着をつけたのだ。よって俺は功績を貰えるような立場ですらないのだ。
「それでお願いします。」
「分かった。ではその方向で話は進めさせてもらう。今日は協力感謝する。最初にも言ったが被害がここまで最小限で済んだのは本当に君のおかげだ。ありがとう。」
「こちらこそありがとうござます。お疲れ様でした。」
その言葉を聞いた後駒沢は部屋を出て行った。それに続いて名取も部屋から出ていく。
「お前の咄嗟の判断力はなかなかなものだ。高校でも期待してるぞ。」
返事をしようと口を開けるよりも早くドアが閉まる。能力高校の中でも一番強い第一高校の生徒に、褒められた...
その後俺は色々な検査を三十分程度行い、寮へ帰った。本来の目的であった文房具も誰かが届けてくれていたらしく持って帰ることができた。元の世界では何もできなかった俺でも今日、人を救うことができた。この世界でなら生きる理由が見つかるよう気がする。
『能力紹介』
名取 飛鳥 ASUKA NATORI
能力名:エア
詳細:風を自由に操ることが可能。コストがないためスタミナ切れの心配はない。更に自由に風を操れるので戦い方のバリエーションが多い。数多くある能力の中でもトップレベルの能力。