第五話 『紫の煙』
どうしてこうなったのだろうか。少し前までは平和だったそのデパートで、人々はパニック状態であり、泣く人、叫ぶ人、助ける人、色々な感情が混ざっているこの場所はまさに混沌的状況。その中に人が近づかない場所があった。紫色の煙のようなものが漂っているその場所には2つの人影があった。この状況の犯人と思われる人物と、俺だった。
***
ある木曜日。鬱陶しいほどにまぶしい太陽の下、俺は学校生活の準備のためにショッピングモールに向かっていた。寮からショッピングモールまではたいした距離ではなく、歩いて行ける距離だった。歩きながら俺は今日買う物の確認をする。まずは文房具全般。何の準備もなく異世界へ飛ばされたんだから当然持っていたものしか持ってきていない。あとは制服や上履きは用意されているし、日用品を買って帰るか。
ショッピングモールに入り地図で文房具が売っている場所を確認する。二階に移動し、文房具が売っている店に入るとたくさんの文房具が並んでいた。どれが良いのか全くわからないままデザインの気に入ったものを買っていく。レジには人の気配がなく、ロボットのようなものが仕事をこなしていた。会計をすました後にレジが
「レシートはいりますか?」
と聞いてきた。もうこの世界人間いらなくね。人類の文明の発展に驚きながら文房具屋を出ていく。日用品は1階にあるため、エスカレーターに乗ろうとした時にその異変に気付いた。エスカレーターから見た一階には既に紫色の煙が充満しており、五人ほど人が倒れている。見るからに毒ガスなそれはどんどん広がり、人が倒れていく。
このままでは自分まで倒れてしまう。俺は昨日練習したあの能力を使う。買ったペンを無理矢理袋から出し、そのペンで自分の腕に傷をつける。昨日のように人差し指で傷をなぞる。
「カーディナルメイク!!」
俺の手のひらからガスマスクが出現する。イメージ通りだ。すぐにガスマスクを装着した。もしかしたら俺は本番に強いタイプなのかもしれない。
「みなさん早く逃げて下さい!」
周りの人に呼び掛けながら俺は紫の煙の中に入っていく。
中心にいるあの人が犯人だろう。犯人に気付かれないように倒れている人々をガスの外へ避難させる。
あと二人で全員の避難が完了するという時、
「おいお前、何してる!」
犯人に気づかれた。俺の得意分野である気体化を見破るとはこいつなかなかやるじゃないか。せっかく背後から不意打ちしてやろうと思ってたのに。見た目は黒人、腕に刺青、そしてとてもがたいがいいスキンヘッド、如何にもな悪役だ。
「いやー自分の命を守るために戦う?」
「今すぐ逃げるってなら見逃してやる。俺も無意味な殺しはしたくない。」
「断る。」
「なら仕方ないな。殺すか。」
その言葉は元の世界でよく聞く殺すとは全く別の言葉のように感じた。言葉の重さが違う。だが怖くはない。いやだって一週間以内に自分からトラックに突っ込んでますからね、俺。戦うならこの状況で俺がガスを心配する必要はない。問題はあの手にあるナイフだ。犯人は俺よりも大きく筋肉質だ。真向からぶつかったて勝てない。しかも俺は武器は持っていない。
......いや、ある。この血が俺の武器だ。
「何だァビビってんのかガキ!!」
犯人が振ったナイフをうまく自分の腕にあてさせる。致命傷は避け、血を出す。なかなか難しいものだ。しかし今回は成功した。
「カーディナルメイクッ!」
犯人より一回り大きいナイフを作りだす。これで俺も戦える。中学校では3年間剣道をいていたからそれなりに戦えるはず。
犯人のナイフを躱し、スキができたところに一撃入れる。ギリギリの戦いを繰り返しあと一息のところまできた。同じようにナイフを躱s
スパッという音と共に頭の左側に痛みが生まれた。それと同時にガスマスクが落ちる。血の使い過ぎで少し貧血気味なのかミスを犯してしまった。いやそれだけじゃない。
「お前これを狙って......」
最初から犯人の狙いはこれだったのか犯人はニヤッと不適な笑みを浮かべる。最初から遊ばれていたという事か。このままではマズい。俺にも毒ガスがまわってしまう。
状況を整理しろ。もう一度ガスマスクを作って戦うか一旦下がって状況を立て直す。このどちらかが最善手のはずだ。とにかく早く考えろ。今の状況ならどっちがふさわしいのかを......