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第三十四話『別世界』

 目を覚ますと幸嗣が居た。そして吹き飛んだはずの俺の足やその他の傷もまるであの戦いは夢だったのか錯覚するほど綺麗に元通りになっていた。だが審判の死体と大量の剣を目にした時あの戦いは現実だったと実感した。


「まずい。何分こうなってた?!」


寝起きの頭でもすぐに今の状況を思い出した。暴走状態で審判を倒し気を失っていた俺は時間の感覚が無かった。


「三分ぐらいだ。」


三分......どうやら暴走状態による疲労で倒れたわけではなく、暴走状態との意識の切り替えに必要だった時間なのかもしれない。ただ今の状況ではそんなことを考える余地もなく一秒でも早く唯美達を助けなくてはならない。


「審判に息はない。完全に死んでいるだろう。だが手掛かりが無くなった。これからどうやって夏海達を助けるんだ?」

「手掛かりが無くなったわけじゃない。むしろ助けるための手段も獲得した。」

「本当か?」

「ああ。幸嗣、俺の肩に触れていてくれ。」

「わかった。」


俺も肩に幸嗣が触れたことを確認し、俺は目を閉じる。


「能力発動......『位置の変化』」



***

 次に目を開けた時には別世界に居た。建物は崩れ、大地は割れ、暗い空には赤い月が浮かんでいた。まさか異世界に転生してから異世界に行くとは思ってはいなかった。


「望、ここは?それとあの能力は?」

「ここは俺達の世界とは違う世界、つまり異世界だ。そして俺は二種持ちだったらしい。一つは『カーディナルメイク』、もう一つは『模倣』とでも名付けるか。相手の能力を見るか相手に触れることでコピーできる能力だ。」

「そう、か。」


幸嗣の表情はどこか悲しそうだった。


「とにかく唯美達を見つけよう。」


崩れた建物の中俺達は進んでいく。しばらく進むと開けた場所に出た。そこにはボロボロで倒れている唯美と夏海、傷つきながらも戦っている下町先輩、そして無傷で戦っている名取先輩がいた。下町先輩は大量の敵を相手に戦えない唯美と夏海を守っている。踊るように戦っている下町先輩の両手両足に付いた刃物から斬撃が繰り出されスケルトンやらゴーレムやらRPGに出てきそうな敵を切り刻んでいる。だが数が多すぎる。流石に倒しきれず攻撃を受けている。だが絶対に唯美と夏海には攻撃が行かぬよう守っている。

 名取先輩は空に浮いている白髪の男性と戦っていた。それは一対一の戦いとは思えないほどの激しさだった。火、水、土、光が荒れ狂い、名取先輩目掛けて飛んでくる。それを名取先輩は風を使ってスピードを上げ(かわ)す。それと同時に細い台風で攻撃する。しかしその攻撃は白髪の男性の作ったガラスのような盾によって防がれる。こんな戦いが続いていた。その白髪の最恐の能力者を見て俺はしばらく息をするのを忘れていた。

 白髪の男性の能力によって飛ばした岩を名取先輩は躱す。しかしその岩が唯美達の方へ飛んでいく。俺は持ってきていた深紅の剣で自分の左腕に傷をつけ、剣を投げ捨て、走り出す。走りながら能力を発動させる。


「深紅の大盾!!」


深紅に黒い模様が付いた盾で岩を止める。ガキンという音と共に腕に強い衝撃が走る。戦闘服じゃなかったら腕が折れていただろう。軽いのに大きく、耐久性が高い盾が作れたことからカーディナルメイクの性能も上がっていることがわかる。


「望、くん......です、か?」


唯美が手を伸ばしながらそう言った。俺はその手を掴んだ。


「あそこ、に、(ふみ)さんが......」


そこまで言って唯美は気を失った。唯美が見ていた方向を確認すると鎖に縛られ吊るされている一人の少女の姿があった。

 とにかく今の最優先事項は唯美と夏海の安全確保だ。唯美と夏海に触れ、下町先輩にも触れる。


「下町先輩、今からあなたと唯美達を元の世界に戻します。だから元の世界で何かあったらその時はよろしくお願いします。」


俺は能力を発動させ唯美達を元の世界に戻した。不安な要素は消えた。後はあいつを倒すか、隙を見て逃げるだけだ。ただ、目の前に七森文がいるのに見捨てて帰るわけにもいかない。......倒すしかないのか。

 

「幸嗣!あの白髪に能力無効!!」

「了解!!」


幸嗣は能力を発動した。だが空に浮いていた白髪の男が落ちることはなく、様々な手段で名取先輩を攻撃し続けていた。


「能力無効が効かない!?」


能力無効が効かないとなると考えられる可能性は二つ、一つは能力を無効化されない能力、もう一つは、あれは能力ではない可能性だ。


「幸嗣、こっちに来てくれ。」


俺は幸嗣を呼んだ。幸嗣が近付いた瞬間、幸嗣に触れ元の世界に飛ばした。ここから先の戦いに巻き込んでしまうかもしれない。だがそう言って元の世界に戻そうとしても彼は拒否するだろう。......幸嗣は、やさしいから。だから何も言わずに飛ばした。


「望、全員行ったか?」

「はい。」

「オーケー。じゃあ離れてろ。」


俺は名取先輩に言われた通りにその場から離れた。すると名取先輩を覆うように竜巻が発生する。


「封印手----『暴風の鎧』」


封印手、それは強力すぎるが故に国から使用を禁じられた技。

名取先輩の腕、足、胴体それぞれに台風が巻き付く。

その暴風によって、離れているのに俺は更に遠くへ吹き飛ばされてしまった。

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