第三十一話『スコープ』
ショットガンの銃声が響く。同時に発射された弾丸を隠者は身体で受け止めた。避けようとする動作もせずに。隠者は衝撃で一歩下がる。
「防弾服か......」
この世界では防弾チョッキの進化形態である防弾服が戦闘で使用される。全身を守ることのできる防弾チョッキの完全上位互換だ。さらに薄い。
「どうしたァ?もう弾切れかァ?」
この幸嗣の能力で全員の能力が使えない今、効果的に戦えるのは幸嗣と俺、唯美と下町先輩のみだ。残りの名取先輩と夏海は能力無しだと戦闘手段がない。ならば名取先輩と唯美だけでも上に行かせるべきだろう。しかし二人だけでは戦力が心配だ。となるとここに残るのは多くて三人、そして一番隠者に勝てる確率が高い組み合わせ......
「名取先輩、唯美達を頼みます。」
「望くん!?」
「望?」
「俺と幸嗣で隠者を潰します。先輩達は先に行ってください。」
「......わかった。」
名取先輩はすんなり受け入れてくれた。理解が早くて助かる。俺も何も策が無いのに突っ込んでいくような馬鹿じゃない。名取先輩はそれを踏まえて了承してくれたのだろう。
「ありがとうございます。こっちは後で合流します。」
「任せたぞ。」
任されたからには負けるわけにはいかない。元々負ける気など微塵もなかったが。
名取先輩達が上の階に進む。
「お別れは済んだのかァ。待ちくたびれたなァ。こんだけ待たされたってことはさぞかし楽しませてくれるんよなァ?」
「安心しろ。叩き潰してやるから。」
その一言で戦いは再開した。
幸嗣がショットガンを撃つ。その前に、隠者が拳銃でショットガンを打ち抜いた。ショットガンは幸嗣の手を離れ、回転しながら床を滑っていく。あの様子だとショットガンは発射機構は潰れ、もう使うことはできないだろう。数秒前まで手に握ってすらいなかった拳銃を引き抜くと同時に撃ち、ショットガンに命中させ、使用不能にした。偶然じゃないとすればかなりの腕前だ。俺はその腕前を封じるため、右手に握っていた拳銃で隠者の拳銃を撃つ。当たるかどうかは一か八かだがやらないよりマシだろう。すると見事に俺の撃った弾は隠者の拳銃に命中し、拳銃は隠者の手から離れる。それと同時に俺の右手に強い衝撃が走る。右手がはねられ、拳銃が吹き飛ぶ。隠者は右手の拳銃を撃たれると同時に、左手でもう一丁の拳銃を引き抜き、俺の拳銃目掛けて撃った。見るからに肉弾戦タイプだと思ってたが、銃撃戦タイプだったとは。おそらくあの拳銃も使えない。残っている武器は剣一本と腰に隠しているナイフ一本のみ。せっかくリロードシステムを戦闘服に搭載していたのに出番がなくなってしまった。幸嗣も近接戦で使える武器はない。あの作戦を使うならここだ。ここしかない。
「おいおい、まさかネタ切れかァ?勘弁してくれよォ?」
「そうだな。そろそろクライマックスだ。」
隠者の拳銃の弾数は十八発。そして拳銃残弾数が二発、装填する一瞬、わずかだが隙が生まれる。その一瞬を叩く!
「相当な射撃スキル、一丁の拳銃を持ったお前の弱点、知ってるか?」
「何言ってんだァ?お前ェ。」
腰のナイフを投げる。ここで投げナイフの練習の成果が出ている。隠者の脳天を一直線に向かっていくナイフを隠者は撃って撃墜させる。隠者の拳銃の弾数は残り一発。その直後、高く飛んだ俺は剣を真上から剣道の面を打つ要領で振り下ろす。
「隙だらけなんだよなァ。残念だ。」
胸を打ち抜かれる強い衝撃が体中を駆け巡った。着地に失敗し、その場に倒れる。
俺がそう言った直後、隠者の首が赤く染まる。背後に回った幸嗣がさっき弾かれたナイフを拾い、隠者の首を掻き切った。
「お前の弱点は、一人しか狙えなかったことだよ。」
防弾服によって防がれた身体にダメージはなく、起き上がりながら動かない隠者の身体にそう言った。
お前のスコープには俺しか入っていなかった。幸嗣のことは見えていなかった。一対一なら確実に負けていただろう。だが今回は二人同時に相手をできなかったお前の負けだ。




