第三十話『隠者』
コンクリート剥き出しの灰色の塔。その塔の中心に位置する螺旋階段。俺達は今、その階段を上っていた。生身のままなら上りきるだけで体力を使い果たすのではないかと言うほどに長い。ただ今は戦闘服のおかげでサクサク上れる。しばらく上り天井が見えた。相変わらずコンクリート剥き出しの天井で螺旋階段はそこで途切れていた。
「止まれ。」
俺が全員に指示を出す。階段から顔を出したその瞬間、攻撃をされては対応できない。今後もこのような状況にあうことも予測できる。これ専用の道具を作っても良いだろう。
戦闘服につけた仕組みのうちの一つの機能を使う。人差し指の手袋の先端に刃が出てくる。爪の延長のような感覚だ。左腕を捲り、その人差し指で傷をつくる。出てきた血に右手で触れ、能力を発動させるための条件を整える。頭の中で作りたい物をなるべく細かく思い浮かべる。そして右手に意識を集中させる。
―――カーディナルメイク発動。
能力を発動させ体内で物を生成し、右手から出現させる。イメージ通りの物を作ることに成功した。俺の右手には潜望鏡が出現していた。潜望鏡とは別名ペリスコープとも呼ばれる反射鏡などを利用し、視点の位置を変える光学装置だ。潜航中の潜水艦が海上の様子を観察するためによく使われる。見つからないようにする為にコンクリートの色に合わせた灰色の潜望鏡で二階の様子を観察する。
「誰もいない?」
潜望鏡をいくら覗いても敵の姿は見えない。どういう事だ?各階に一階のようなモンスターがいてもおかしくはないとおもっていたが。まぁいないのなら先へ進もう。潜望鏡を戦闘服のポケットにしまい、階段を上り次の階段を目指す。流石に階段が一階から最上階まで繋がっているわけもなく階段の位置は各階ごとにずらされていた。全員が二階に足をつき、次の階段へ急ごうと走り出したその時、鈍い音とともに幸嗣が吹き飛ばされた。勢いよく壁に打ち付けられた幸嗣は「がはッ」と声をあげ、床に倒れ込んだ。
「幸嗣!?」
「上原君!」
夏海と唯美が叫ぶ。何が起きたのか分からず機能停止状態だった俺の脳を無理矢理働かせ考える。罠か?周りを見渡しても何も見え......
「チッ!厄介な能力無効から潰しときたかったのに中々頑丈じゃねぇか。」
何処からか声が聞こえた。俺達の声ではない。知らない人の声が。その言葉と同時くらいに幸嗣が立ち上がって能力を使った。すると幸嗣の真横に人が現れまた幸嗣を蹴り飛ばす。幸嗣はまたもや吹き飛び壁にぶつかった。が警戒をしていたのか直前でガードし、ダメージを最小限にとどめていた。
「透明化の能力者!!」
幸嗣がそう言った。そこでようやく理解した。そこに居る白髪で大柄な男の正体に。
「そうか、俺達は飛んで火にいる夏の虫だったってことか。そうだよな、武装能力組織アルカナの『隠者』さんよ。」
「ほう。俺の名前まで知ってるとは驚かされたな。随分と雑だよなあ。透明化の能力だからって名前が隠者ってか。...色々聞きたいこともあるし殺さねぇようにしねぇとなァ。」
「聞きたいことがあるのはこっちも同じだ。」
「そんじゃやることは一つだなァ。」
「そうみたいだな。」
奴を倒すには透明化をなんとかしなきゃいけない。だが幸嗣の能力を使うとこっちまで能力が使えない。そのために今回は戦闘服と武器を用意してきた。今なら戦える。俺は剣を構える。
「やる気じゃねぇか。いいねぇ。お前とは気が合いそうだ。別の形で会ってたら友達になってたかもしれねぇなァ。」
「お前と友達なんて死んでもごめんだよ。」
そう言いながら注意を引き付けているうちに、幸嗣はショットガンで隠者を撃った。そのショットガンの銃声がこの二階での戦闘開始の合図となった。




