第二十九話『開戦』
まだ薄暗い空。少し肌寒いくらいの気温で、街の光はほぼ消えている。近未来とはいえ夜があるから朝が来る。それは元の世界と変わらない。むしろ近未来では仕事の負担が減り、元の世界より夜は仕事をしている人が少ない様に感じる。時刻は三時十五分。いつもならぐっすり睡眠中のはずだが、今日は外に出ていた。眠いなどと言っている場合ではない。早朝独特の冷たい空気は心を落ち着かせてくれる。まるで自分の心情を表している様な朝だった。
戦いが始まる。もしかしたら今日で見ることが最後になるかもしれないこの風景を目に焼き付けておいた。
「いってきます。」
そう呟いて俺は寮を後にした。
***
八時二十五分。俺は駅に到着した。集合時間の五分前だというのに全員が既に揃っていた。大きなバックパックを背負い、一つのアタッシュケースを持った上原幸嗣、竹刀袋のような袋に武器を取り出し、最後の確認をしている日尾野唯美、ウエストポーチを着けた湊夏海、唯美と同じく刀を二本入れた袋を持った下町淳貴、全員が背負っているバックパックと戦闘服を除いて特に何も持っていない名取飛鳥、そして背中に長い剣、腰にハンドガン、特注の戦闘服を身に纏った辻見望。全員が揃った。
「さぁ......行こう!作戦開始だ!!」
二十四時間運行している電車に乗り、海岸近くの駅で降りた。海から吹く潮風のせいで駅より体感温度が低い。そして俺は海岸に降りた。ここから塔までの移動手段は風だ。名取先輩の能力で全員を飛ばしてもらう。結構リスクは高いがこれが一番手っ取り早い。
「口と目は開けるなよ。それじゃあ飛ばすぞ、三、二、一......」
名取先輩の合図とともに俺達の周りを風が囲み身体が地面から離れる。高く吹き飛んだであろう身体がどうなっているのかわからない。ただ空中を移動していることはわかった。
「到着だ。」
「おいおいマジかよ.....」
名取先輩がそう言って目を開ける。画像を見た時は黒かったバベルの塔の中は明るくて持ってきた暗視ゴーグルは仕事をしないままリストラとなった。ただ幸嗣や皆が驚いているのは目の前にいる大量の怪物達だ。
「随分と丁寧なお出迎えじゃないですか......」
よくわからない魔獣、よくわからないスケルトン、よくわからないゴーレム、よくわからないスライムと色々な属性が混ざり合い、この階は混沌と化していた。
「話さなきゃいけない事が幾つかある。だがまずはこれを片付けてからだ!」
「夏海!最大火力で焼き尽くせ!!」
俺が夏海に指示を出す。俺達の中で効果的な広範囲攻撃は夏海と名取先輩しかできない。名取先輩は移動で体力を使っただろうからここは夏海で対応する。
「了解ッ!」
夏海はそう答えると同時に両腕を前に出し、腕に力を入れた。すると炎が発生し、物凄い速度でどんどん敵に向かって広がっていく。いろんな種類の怪物達が火祭りカーニバルしているうちに唯美と下町先輩に武器を用意するよう指示する。
炎が消え、敵の半数以上が真っ黒く、動かなくなっていた。だがそれでもまだ立っている敵はいた。ゴーレム、石でできているやつらにはあの炎では倒せない。となると剣も難しいか。それなら、
「唯美!ゴーレムを殴れ!!多分剣じゃ効かない!」
「わかりました!」
答えるとほぼ同時に唯美は高く飛んだ。そして落下の勢いを利用して殴り、ゴーレムを一撃で砕いた。残りは五体。唯美はもうゴーレムの拳が届く間合いに居る。
「全体強化・制御!」
唯美の能力が発動し地面にひびが入る。すると唯美の姿は消え、その刹那ゴーレムを一体殴り粉砕、そのまま振り返ると同時に肘で二体目を粉砕、さらに回転しながら飛んで蹴りで三体目、と次々粉砕していく。目で追うのがやっとの速度だ。身体強化能力がある戦闘服と合わさってかなり威力が出るようになっている。それにより全体強化の五十パーセントほどに制御されている全体強化・制御でも今は戦闘服なしの全体強化の八十パーセントほどの力を発揮できる。
とにかくこれで怪物たちは片付いた。見渡す限り俺達以外の人間の姿はない。一息ついたところで名取先輩が話を始める。
「まずは移動中の話をしよう。風に乗り俺はこの塔の見えもしない最上階まで登ろうとした。だができなかった。見えない結界のようなものでその空間に入ることはできなかった。まずアルカナのリーダ、または幹部が最上階にいることは確かだろう。」
「そうですね。それと能力者の中に怪物を召喚する能力を持った人が一人はいることもほぼ確定ですね。」
名取の話に唯美が答えた。
恐らくその能力者は鈴にあのメールを送った戦車という人間だろう。大アルカナの中では援軍という意味もある。援軍、つまり何らかの軍を召喚できる能力だろうか。
「とにかく上を目指すことは確定か。」
「目指す場所が決まってるなら話は早いじゃん。」
「ああ。何階まであるか分からない。サクサク登ろう。」
本当に何階まであるのだろうか......




