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第一話 『虚無』

 いつか死ぬだろうそう自分でも思い続けて三年間。俺はまだ生きていた。正直なところ俺でもなぜ生きているのか分からないこの状況。あれほど嫌だったこの無様な生き方を三年間も続けていたのだ。

 三年間目的もなかったため勉強に専念した結果中々な高校に通い、テストでは大体九十点以上で学年上位をキープしていた。だが友達は一人も居ない、ボサボサな髪型とまるで死体の様な目と話しかけるなオーラ全開なために、友達どころか近づいてくる人すらいない。

 勿論部活にも入っていないため、少し音が割れているチャイムが校内に響き渡ったら、誰よりも早く帰るという流れを何日も繰り返している。

 

 いつものように学校から帰る道。普段と変わったことは特にない。ひび割れたアスファルトを踏みつけ、歩いている。下校は速いが別に家にすぐ帰るわけではない。バイトでお金を稼ぎ、ひたすらゲームや小説に費やしている。今日はバイトは無く時間を気にする必要はない。だからと言って早く帰るわけでもない。向かいのファミレスで時間でも潰そうかと思い横断歩道を探す。すると年齢は同じくらいの少女が何を血迷ったか赤信号の横断歩道を澄ました顔して歩いていた。どうやら赤信号である事を気付いていないらしい。それも猛スピードで車が走っているのに。

 周りには人の姿はなく、自分が助けるしかないと思い、どう助けようか迷っていたところで気付いてしまった。この状況下なら彼女を助けるついでに死ねるのではと。ずっと自分の死に場所を探していた。何故かそれが今日、この日しかないという確信が胸のどこかにあった。最近はどうせ捨てる命ならばせめて他人の為に使って捨てようと、そう考えていたのだ。


少女を突き飛ばし自分が轢かれる。


 どうせこの世界での生を引き延ばしてまで生きる希望が見つかるとは思わない。だからこの決断は正しいのだと、自分にそう言い聞かせた。心の準備は三年前から出来ている。赤信号の横断歩道に飛び出す。運転手は急ブレーキをかけていた様子が猛スピードで走っているため間に合うわけもない、運転手が罪人になってしまうところは申し訳ないが今から死ぬ俺には知ったことじゃない。少女が安全な場所に飛ばされたのを確認し、俺の人生を振り返る。本当に嫌な人生だったなと......

クラクションの音が響く中、意識がなくなった。





........開かなくなったはずの目が開き、光が入ってくる。真っ白な世界。地平線もなく、天井も空もなく、物音一つないただただ白い虚無の世界。とても現実のものとは思えないこの光景に天国でないかという疑問が生まれた。


「いいえ、ここは天国ではありませんよ。」


無音の世界に一つの声が響く。声の生まれた俺の背後を見ると確かにさっきまで誰もいなかったはずなのにそこには1人の少女の姿があった。それに思考を読まれている。俺はここに来てから一言も発していない。それにも関わらずその少女は俺の心の中の疑問に答えてみせた。


「君は......」


さらにその少女はさっき俺が突き飛ばして助けたあの少女だった。純白のワンピースに身を包んだ白髪碧眼の高校生くらいにも見える容姿をしている。髪はスーパーロングヘア―で膝下までそのさらっさらで真っ白な髪は伸びている。


「はい。神様やってます。」


と神様宣言されたわけだが......神様?こんな女の子が?天使なら納得できていたかもしれないが神様となると胡散臭さがぬぐい切れない。


「で、ここはどこなんだ。天国でもないなら、もしかして俺死んでない?」


そう質問すると感情のない表情のままで答えた。


「ばっちり死んでます。ここは人間界と天国の狭間、天国に行くまでの通過地点です。普通なら何事もなく通過するのですが貴方には少し問題が......」

「問題?」

「はい。一つ目にまず貴方は私を救うために死んでしまいました。しかし私は普通、元の世界(あの世)にはいない筈の存在です。よってあなたの死はバグだったとし、元の世界に戻ってもらう予定でした。」

「予定?」

「それが二つ目です。貴方の人間生活には希望が見えませんでした。よって元の世界への帰還は無意味と判断しました。」


どうやら俺の過去についても見たらしい。あれを見たうえで元の世界に戻すほど神様は残酷ではなかったようだ。


「まて、となると俺はこれからどうなる?」

「そこが本題です。これから貴方には異世界に転生してもらい、しあわせな生活を送ってもらいます。最もしあわせかどうかは貴方にかかっていますが。」


異世界という聞きなれない単語に意識をそがれ、脳が状況に追いついていない。異世界?転生?何を言っているんだ?詳しい説明を求めようと口を開いた時には既に目の前に魔法陣のようなものが展開されており、神様は相変わらずの表情でこう言った。


「貴方には幸せになってもらいたいと個人的には思うので異世界での自殺は禁じます。それでは頑張って下さい。」


その言葉を聞いた直後、自分の意志など言う暇もなく俺は気を失った。





気が付くと俺はビルとビルの間に挟まれていた。人一人通るのがやっとな幅に倒れていた。このビルに使われている素材は見たことも聞いたこともないような、まさに未知だった。どうやら本当に異世界に飛ばされてしまったらしい。重い体を起こし、ビルの間から出るとそこには信じられないような光景が広がっていた。


「なんだ...これ......」


思わず声に出していた。車は空を飛び、タイムマシンがあってもおかしくないような世界だった。思ってたのと違う。まるでDVDのケースを開けたら表紙と違う内容のDVDが出てきたかのようなコレジャナイ感。異世界といえば中世的な世界をイメージしていたがそんな雰囲気は一切なく、どちらかというと近未来の世界だ。

ただ一つだけすごーく重要な問題があった。俺は右も左も分からないこの世界に投げ出され、おまけに自殺も禁じられた。つまり生きていくしか選択肢は無いわけだが、どう生きていけばいいのだろうか......

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