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第十四話『夕焼けの丘』

 能力高校での学校生活の一週間目が今日で終わろうとしていた。その今日も既に授業は全て終わり部活動が始まる放課後になっていた。俺は思っていたより楽しい学校生活が送っていて誰よりも俺自身が驚いている。

少なくとも今回は周りの人に恵まれていたのだろう。そういえば週末には歓迎会を開いてくれると言っていたな。詳細は未だに教えてもらっていないが。本当にやるのだろうか。ただの社交辞令なのではないだろうか。

少し心の中で心配している。だが例えあれが社交辞令だったとしても、俺は嬉しかった。今までは社交辞令でも言ってくれる人は居なかったのだ。何があった時も俺は一人だった。だが別に孤独ではなかった。俺は元の世界では一人の方が気楽で良い、そう思っていた。だが今は違う。俺は......



 授業の後片付けを手伝って放課後残っていた俺は夕日が差し込む教室の中で帰る準備をしていた。もちろん教室内には俺以外に人は一人もいなく、俺が帰りの準備をする音だけが響いていた。俺はこの景色、空間、雰囲気が好きだ。これは元の世界に居た時から変わらない。そのせいか気分がよく一週間お世話になった教室、来週からもお世話になる教室の整理整頓をして帰った。いや、正確には帰ろうとしただった。

 下駄箱まで行ったところで唯美に会った。唯美は俺に気が付くと読んでいた本をパタンと閉じ、バックの中に入れて、俺に近づいてきた。夕日のせいか唯美の頬は赤く染まっていた。


「望くん、一緒に帰りませんか?」


おそらく待っていてくれたのだろう。だとしたら悪いことをした。もちろん唯美の誘いを断る理由はない。


「待っていてくれたのか?待たせてごめん。一緒に帰ろう。」


唯美とはこの一週間で話を重ねるごとに普通に話せるようになった。ちなみに唯美は誰とでも敬語というか丁寧語で話す。初対面の人が苦手らしい。だから話を重ねていけば自然と会話ができるようになる。実際今だって


「さっきどんな本読んでたの?」

「内緒です。」


とまるでずっと昔からの友達だったかのように会話できる。

 

 寮までの帰り道、ビルが多いこの世界だが、この高校周辺はビルが少ない。まぁ元の世界と比べたら都会だが、この世界で言ったら田舎なのだろう。そのおかげもあって夕日がとても綺麗だ。この世界には四季がないがこれだけ綺麗な景色が望めるなら十分だろう。


「明日の歓迎会は予定通りカラオケに行くそうです。時間は午前十一時、場所は寮の前の犬の象に集合です。」


前から思ってたんだがあの犬の象何なの?西郷どんに見捨てられちゃったの?だがその犬の象は生徒たちの良い待ち合わせ場所になっているらしい。ちなみに俺は猫派。


「わかった。十一時に犬の前だな。」


唯美の顔を見て確認すると唯美はこくんと頷く。


「それにしても綺麗だな。」

「はい。私のお気に入りの景色です。でもここより綺麗に見える場所があるのですが見に行きますか?その場合少し遠回りになってしまいますが。」

「此処より綺麗に見える場所があるのか。いいね、見に行こう。」

「分かりました。行きましょう!!こっちです。」


俺は唯美の案内のまま今来た道を少し戻り、行ったことのない道に曲がりどんどん見たことのない場所に進んでいく。俺一人だったら確実に帰ってこれないだろうと確信できるくらいに複雑な道だった。そんな複雑な道なのにも関わらず唯美は一片の迷いもなくどんどん奥へ進んでいる。迷わないのか?

 しばらく進んでいると開けた場所に出た。高台である此処からは今俺が住んでいる街を見渡せる丘のような場所だった。数々のビルの屋上が見える。近未来っぽい世界とはいえここは最低限の道路整備や安全対策しかされていなかった。まぁ元の世界に比べたら此処の方がよっぽど整備されているが。


「此処が私のお気に入りの場所です。この時間帯が一番綺麗に見えます。」

「確かに綺麗だな。心が洗われるような感覚になる。」

「ふふっ。望くんは面白い表現をしますね。」


唯美が満面の笑みで言った。ここでの唯美はいつもより表情が豊かな気がする。


「そうか?これくらい普通に言うだろ。」

「いいませんよ。こんな表現をするのは望くんが初めてです。」


唯美も俺もその会話から数秒景色を眺める。こう見ると俺が生活しているのはこの街の極一部でしかないことが目に見えて分かる。そもそも寮と学校とショッピングモール、コンビニくらいしか俺の活動場所がないのだが。


「実は私、この場所を人に教えたのは望くんが初めてなんです。この一週間、同じ班で生活して沢山会話もして望くんは凄く優しくて良い人だってことがわかりました。私は望くんは他の人が持っていない何かを持っているように感じます。その何かはまだわかりませんが......とにかく望くんとこの景色を一緒に見たかったんです。特別ですよ。」


唯美は顔を夕日で赤く染めながら言った。俺はそこまで思ってもらえるほどの事をした記憶は俺にはない。俺はこの一週間、ただ少し現実とはかけ離れたような世界での当たり前の生活を心から楽しんでいただけなのだ。なのに何故こんなにも感謝されているのだろうか。


「あれ!?望くん!?私何か望くんを悲しませるようなこと言っちゃいましたか?」


じんわりと温かいものが俺の目から流れていた。その正体は涙だった。


「あれ、俺...泣いて......」


こんな姿を唯美に見せるのは恥ずかしい。この涙が早く止まることを願っていた。だがその思いとは裏腹に涙は量が増える一方で止まる気配がなかった。そんな俺の背中を唯美は黙ってさすってくれた。それは懐かしい感覚だった。あぁそうか、これが人の温もりか......

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