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第十二話『ドキドキ!放課後イベント』

 意識はすぐに戻った。原因は仮想世界から元の世界に戻るために意識が飛んだだけだった。だがあの感覚は貧血で倒れた時の感覚ととても似ていて、大量に出血していた事から貧血と区別がつかなかった。現実に戻るとさっきまであった傷は消え、ボロボロになっていた制服も元に戻っていた。正確には元から傷も汚れも無かったのだが仮想世界と現実世界は全くと言っていいほどに似ていた。違和感しかない。とにかく俺は体を起こし制服の上着を着てモニタールームへ戻る。

 モニタールームのドアを開けると一斉に拍手が起こった。それは他の誰のものでもなく俺に向けられて送られていた。なんて良い学校なのだろうか。自分で言うのもアレだが、他人の才能を素直に認め心から拍手を送っていた。俺は最近能力が発現したばかりだ。東尾が何処でも平均と言うのならこの中にも東尾より弱い、つまり相性などを考えなければ俺より弱い人だっている筈だ。それなのにも関わらずこの場の全員が拍手をしていた。こんなこと前の世界では考えられなかった。俺はしばらくそのまま呆然と立ち尽くしていただろう。あの時神様を助けて良かった。あの選択は間違いではなかったと俺は今希望に満ち溢れていた。それがたとえ一時的なものだったとしても。


今日の授業は全て終わり、もう放課後になっていた。予想外だったが模擬戦を行い少しは自分に自信がついていた。そして放課後と言えば待ちに待った唯美との約束の時間だ。そうこれこそまさに「ドキドキ!放課後イベント」だ。ネーミングセンスが皆無なのはほっといてくれ。こんな題名をつければ実際に選択肢が三つぐらい画面に出てきそうな気がする。まぁ出てきたら怖いだけだが。そんなことを考えながら約束の場所である教室で俺は一人寂しく待機していた。暇つぶしに貰ったスマホに元の世界から持ってきた数少ない所持品の内の一つのスマホのデータを同期できないか説明書を読んでいた。この手のものは説明書を見てマニュアル通りにやった方が絶対に良い。説明書を見る限りできなくはなさそうだ。USBが必要と書いてあるがこのスマホは元の世界から持ってきたもの、この世界に俺のスマホと形が合うUSBがあるか心配だがなければカーディナルメイクで作れば良い。もしかしたらこの能力使い勝手良いかもしれない。そこまで調べたら教室のドアが開いた。そして唯美が入ってきた。一体何が起きるのかワクワクしながらも少し緊張していた。だが次に視界に入ったものを見た瞬間ワクワクも緊張も消えていた。教室に入って来た唯美の後ろに二名見覚えのある男女が居た。幸嗣と夏海であった。勿論こいつらが来るとは聞いていない。聞いていたらドキドキもワクワクも緊張もしていない。そう俺のラブコメは始まらずして終わったのだ。そんな複雑な心境の俺に夏海が近寄ってきた。


「期待してた?ラブコメ起こると思ってた?唯美にどんなこと言われると思ってた?ねぇねぇ今どんな気持ち?」


 小声で言ったところで苛立ちはおさまらない。男だったら殴ってた。そんな夏海の猛攻撃を軽くあしらい俺は質問する。


「で、これから何をするんだ?」

「あ、あれ?言ってなかったですか?今日はこれから望くんにこの第五高校の案内をしようと...」


唯美が答えてくれた。できればもっと早く知りたかったことだが言い忘れていたなら仕方がない。ん?言い忘れていた?もしかして唯美はドジっ子成分も含んでいると言うのか!?


「じゃあどこから案内するんだ?」


幸嗣の言葉で俺は我に返った。危うく昇天しそうになってた。


「それでは教室棟、特別棟、の順で近いところから案内しましょう。」


 教室を出て、まずは教室棟を案内してもらった。この世界の能力者は全人口十分の一、さらに十の高校に分かれているとはいえ俺の元いた世界の高校より生徒数が多い。となると必然的にクラスの数も多くなっている。


「このあたりはただの教室だろ。せっかくなら普通の高校にはないものを見せてやろうぜ。」


幸嗣がそう提案すると唯美達は少し考えて答えた。


「じゃあもう特別棟行っちゃう?」

「そうですね。それがいいと思います。」


 俺はそう会話をする三人は俺とは何か違うものがある。理由はないがそう感じた。ただ明確に俺と3人の間には壁がある。出合って一日も経っていないのだから当然だとは思うが。


「おーい望?聞いてるか?」

「あ、ごめん聞いてなかった。で何だっけ?」

「だから今週末望の歓迎会をしよう。ってなって何処でやるかって話してたんだろ。」

「歓迎会?俺の?」

「お前以外誰の歓迎会するんだよ。」


 話がどう転がって案内する順番を決めていた話から歓迎会の話になったのかは分からないが完全に自分の世界に入り込んでいた。今までは独りだったので何も問題はなかったがここでは話しかけてくれる人がいる。これからは注意しないとな。


「じゃあカラオケにしようよ!」


夏海がとても行きたそうに提案してきた。ってかこの世界にもカラオケは存在したのか。まぁ元の世界でも行ったことは一度もない。これは皆に言うべきだろうか。


「実は俺、カラオケ行ったことないんですよね......」


とりあえず言ってみた。カラオケに行ったことがないのは事実だし何せ俺はこの世界の曲を何一つ知らない。これでカラオケに行かずに済むなら言った方がいいだろう


「「「えぇー!行ったことないの!?」」」


三人の声がハモった。二人の声がハモって「わーハモったー」なんて会話は何度か聞いたことがあるが、三人がハモるというのは見たことも聞いたこともない。俺が他人とあまり関わらなかったからだろうか。って言うか今、幸嗣がオカマっぽい裏声だったような気がしたんだが。もしかして、そういう奴なのか?


「じゃあ尚更行かなきゃ!」


何故そうなる。普通は初めての人に色々教えるのは面倒くさいと嫌がるものだと思っていたが。俺がおかしいのか?


「カラオケ一回も行ったことないとか人生損してるよ!」


何故そんなにカラオケだけに固執しているのだろうか。わたしはふしぎでたまらない。


「すまん望。夏海はカラオケオタクでな夏海に遊びに誘われてカラオケに行かなかった人はいないとまで言われるほどだ。ここはカラオケにしてくれないか?」

「まぁ行きたいところもないしカラオケでいいよ。」

「やったー!」


夏海が喜んでいて何よりだ。それにしても凄い都市伝説だな。え?もしかしてあれ実話?


「望くんここからが特別棟です。」


完全に学校案内とか忘れていた。特別棟は教室棟の二倍はあるだろう。普通の高校でも半分くらいはあるだろうがここは能力高校だ。特別な施設だってたくさんあるに違いない。例えばさっき模擬戦で使ったモニタールーム、スタンバイルーム、あとは廊下でトレーニングルームのようなものも見えた。特別棟には俺の想像したこともないような施設がたくさんあった。


 雑談を交わしながら特別棟の案内をされ、俺は一通りこの校内の施設を把握した。案内を終えた俺達は教室に荷物を取りに行った。


「じゃあ帰ろっか。」


その言葉で中前先生に帰る前職員室に寄るように言われていたことを思い出した。


「俺は職員室寄ってから帰るから。」

「おう!またな望!」



 職員室のドアの前で深く息を吐きドアをノックする。


「失礼します。1Cの辻見です。中前先生はいらっしゃいますか。」


そう言うと中前先生がジェスチャーでこっちまで来いと手を振る。職員室に入り中前先生のところまで行く。


「新しい高校生活一日目お疲れ様。ここでの学校生活どうだった?」

「そうですね、ここでなら楽しく過ごせそうな気がします。」


これは紛れもない本心だった。ただ今回はたまたま周りの人に恵まれていただけかもしれない。俺はこの世界の全ての人を信用しているわけではない。それに......


「それは何よりだ。私が評価するべき点はやはりあの模擬戦だろう。あれが初戦闘だとは思えん。」


ですよねー。だって初戦闘じゃないですもの、あれ。だがあのショッピングモールでの戦闘のことは黙っていなければならない。


「あの戦闘技術と判断力ならばもっと上の高校も狙えるぞ。君にはなかなか才能がある。あの能力も欠点はあるが君にピッタリな能力だと思うぞ。」

「ありがとうございます。」


こんなに褒められたのは生まれて初めてかもしれない。


「だが課題も明確に存在する。そうだな...まずは体を作らなくてはな。君は細すぎる。」


やはりそうか。元の世界では平均くらいだったが、この世界に来て確実に平均以下になっただろう。幸嗣の戦闘スタイルは能力消して殴り合いという脳筋だから体を鍛えていたのだと思っていたがよく考えれば東尾も俺より背は低いが筋肉は俺よりあっただろう。平均のスペシャリストである東尾であの体つきならばこれから上を目指すならばもっと鍛えている人もいるだろう。


「まぁとにかく一日目が無事に終わってなりよりだ。模擬戦で疲れただろう今日はゆっくり休むといい。」

「わかりました。それでは失礼します。」

「あぁ。気を付けて帰りたまえ。」


一礼して職員室を出る。そしてそのまま帰ろうと下駄箱に向かう。まだ今日は月曜日だ。明日も学校がある。実際に体を動かしたわけではないが模擬戦で何故か疲れている。中前先生の言う通り今日はゆっくり休んだ方が良いだろう。そういえばこの世界にも曜日という概念はあったんだな。意外と元の世界にこの世界は似ているかもしれない。


 こうして俺の波乱万丈な能力高校生活一日目は終わりを迎えた。

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