第九話『模擬戦』
急いで食堂から出ていった夏海とは対照的に俺達はゆっくりと食事を済まし、教室に向かった。教室に着いたのは次の授業が始まる五分前だったのにも関わらず人は全然いない。何かおかしいと思い始める俺は夏海の模擬戦という言葉が頭に浮かんだ。やはりこの学校には能力に関する授業があるのだろうか。ないわけもないとは思っていたが。午後からは能力の授業?そんな疑問達が頭の中を駆け回る中、幸嗣が口を開いた。
「そうか。望はこの授業も初めてか。説明してやりたい。ところだが今は時間がない。とにかくモニタールームへ行こう。」
モニタールーム?何かを鑑賞する授業なのだろうか。移動教室ということならこの授業五分前に人がいない状況にも納得できる。一人で納得しながら幸嗣達についていく。
「唯美も今日模擬戦だったろ。モニタールームでいいのか?」
「はい。私は最後の方だから途中で抜けます。」
まさか能力で模擬戦の授業をするのか。それって危険じゃないのか?っていうか唯美は幸嗣とは普通に話せるのか。人見知りなのか?いや人見知りだと信じよう。
「よし、じゃあ行こう。」
そう幸嗣が言うと同時に俺達はモニタールームへ歩き出した。全く理解できていないまま。少し歩き一つの教室の中へ入る。その教室には奥に大きいモニターが一つ、左右に奥より少し小さいモニターが1つずつあった。名前通りモニタールームだった。そして教室に居なかった生徒はほとんど真ん中の席に座っており、俺達もそこへ座る。まだ授業までには少し時間があったのでこの疑問を解消すべく質問することにした。
「なぁこれってどんな授業なんだ?」
質問すると幸嗣がすぐに答えた。
「この授業は『能力』の授業の一環として模擬戦闘をするんだ。普通の教科で言ったら単元テストみたいなもんだな。で俺らはその様子を見るためにここ、モニタールームにいる。模擬戦の様子は全てこのモニタールームで見ることができるんだ。ちなみに今回の最初は夏海が戦う。」
「なるほど。でもそれって危なくないのか?」
ショッピングモールで実際に戦闘をした俺なら分かる。能力の中には発動するだけで人を殺せる威力の能力だってある。そんな能力同士で戦い合ったら安全なわけがない。移動する前から浮かんでいた疑問をぶつけると幸嗣は顔色一つ変えずに言った。
「その点では大丈夫だ。模擬戦は仮想世界の中で行われる。その仮想世界で傷ついても現実では何の影響もない。まぁ記憶とかは残るからトラウマ植え付けられるってのはあるらしいがな。」
それなら何の心配もない。幸嗣も夏海も他の生徒もこのシステムを完全に信用しているんだな。その仮想世界も能力なのだろうか。まるでこのことのためだけに作られた能力のようだ。適材適所というやつだろう。俺が一通り説明を受けた時にこのモニタールームにチャイムが鳴り響く。それと同時にドアが開き中前先生が入ってきた。そして中前先生が中央モニターの前に立ったところで号令がかかる。
「きりーつ、気をつけ、礼」
「お願いします。」
「着席。」
全員が座ったのを確認してから中前先生は説明を始めた。
「えー、前回の続きからだな。ということは湊対海木だな。二人とも準備はいいか?」
「オッケーです!」
「大丈夫です。」
中前先生が質問すると左側から夏海、右側から海木と思われる人の声が聞こえてくる。その声を聞いた中前先生が何かのボタンを押す。するとアナウンスが流れる。
『---只今より模擬戦闘を開始します。スタンバイルームにいる対象以外の生徒、職員は直ちにその場から退出してください。繰り返します。読み込み室にいる対象以外の生徒、職員は直ちにその場から退出してください。読み込みを開始します。三.二.一.---模擬戦闘スタート。』
そのアナウンスが流れると同時にモニターに映像が映し出される。左のサブモニターには夏海、右のサブモニターには海木の様子が映し出され、中央モニターは上空から全てを見渡せるように映し出していた。
中央モニターに映し出されたその景色は中世ヨーロッパのような世界だった。そうそう俺が考えていた異世界はこんな感じだった。話が脱線したが、その中世ヨーロッパ風の世界の中で夏海と海木は建物の影に身を隠しながら、相手の様子をうかがっていた。お互いに硬直状態が続く中先に動いたのは夏海だった。建物の影から別の建物の影に移動しながら夏海は炎の玉を数発投げつける。その姿は某横スクロールゲームの赤い帽子の人を連想させた。だが海木は水で壁を作ってその全てを防いでいた。海木は水を操る能力者だろうか。そして居場所がバレている夏海に凄い勢いで水がやってくる。ウォータージェットカッターのように細くなった一つの水が夏海を切りつける。だが夏海はそれを炎で蒸発させ攻撃を止める。それでも海木の攻撃は止まらず次は水を竜巻のように一塊の水柱として夏海にぶつける。その水柱も夏海が最大火力で蒸発させる。すると、ドォォォォォンと低い音が響く。その後アナウンスが流れる。
『---湊夏海再起不能。よって勝者海木誠也。』
一体何がどうなったんだ。なぜ爆発が起きた?頭の中がぐちゃぐちゃになりかけていた時どこから聞こえた小さい声だったがその言葉は理解できた。
「水蒸気爆発か。」
水蒸気爆発!なるほど海木の水柱が夏海の高温の炎に接触して発生したのか。水蒸気爆発については暇だった頃気になってインターネットで調べたので知っていた。海木は水蒸気爆発に巻き込まれていなかった......まさか海木は最初からこれを狙って?夏海の行動を読んで、だから遠距離で攻撃していたのか!?だとしたらとんでもないやつだ。なんでこんなやつが能力高校でも平均の第五高校にいるんだ?まさかこれが平均とか言わないよな。
「あれがこのクラスの学級委員長であり、学年トップであり、校内でもトップクラスの海木誠也だ。」
質問もしていないのに幸嗣がまるで俺の頭の中を読んでいるかのように言ってきた。だがその言葉で少し安心した。こんなレベルの奴らが平均じゃなくてよかった。海木は能力も十分強力だが、頭が良い。相手に応じて作戦を変える判断力とそれを実行できる行動力を兼ね備えている。だがこれでも中の上、だとしたらあの時助けてくれた名取はどれだけ強いのだろうか。もし俺が第一高校を目指しているのなら、先は長い。目指しているのならの話だが。
『能力紹介』
湊 夏海 NATUMI MINATO
能力名:フレイム
詳細:炎を生み出し操ることができる。炎を生み出すコストはないが、自身に炎耐性はない。さらに炎のコントロールが難しい。炎の速さを重視すると形が崩れ、形を重視すると炎の速さは落ちる。火力調節は簡単。




