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八男って、それはないでしょう! みそっかす  作者: Y.A
あふたー編

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第二十三話 婿入り試験

「本日は、ようこそおいでくださいました(……やっぱりハズレだな……)。これより、ザンス子爵家に婿入りするために必要な能力の試験を開始します」




 数日後の王都にて。

 俺たちは、見合い写真を送ってきた連中を郊外に集めて、試験の開催を宣言した。


「試験? このアーシュ男爵家の次男である俺様が試験だと? 意味がわからない。俺様はそんなことをしなくても合格だろうに」


「説明します」


 たまに思うのだけど、彼らどうしようもない貴族の子弟たちって、その根拠不明な自信がどこから湧いてくるのであろうか?

 彼らの自信を数分の一でも、能力はあるのに自信がない人たちに分け与えられたらいいのにと思ってしまうのだ。


「まずは、ザンス子爵領について。世界樹と呼ばれている大きな木の上で生活しています」


 俺は、できる限りエルフ族の普段の生活を詳しく彼らに説明した。

 どのくらい理解できるかは、これはあまり期待しないでおこう。


「だからなんなのだ?」


「これだから……おっと」


「……」


 彼らの根拠のない自信は凄い。

 成り上がりの俺すらバカにしようとする。

 これでも一応は辺境伯なのにな。

 こいつらのさらに凄いところは、自分たちは貴族家の跡取りでもなく、行き場所がなければ将来平民に落とされてしまうかもしれないのに、特に努力をするわけでもなく、遊び暮らしている点だ。

 危機感がない……実家が甘やかしているから当然か。

 本当なら、嫌われてもいいから厳しく教育した方がいいのに……。

 それができていれば、彼らはこんな風になっていないか。


「世界樹はとても高いので、移動する際に木に登らなければいけないことが多いのです。当然婿に入る者もそれができなければ」


 猿酒を造っている、世界樹のあちこちにあるウロを自ら視察し、時に猿酒の状態を見て悪ければ直さなければいけない。

 ザンス子爵家にとって、猿酒造りはメシの種なのだ。

 当主が猿酒の醸造に詳しくなければ、お話にならないのだから。


「そんなものは家臣に任せればいい。木登りなど貴族がすることではない! 屋敷に居てそこから命令すればいい」


 出たよ。

 貴族は働かずに、ただ偉そうに座って命令を出していればいいと勘違いしている奴が。

 どうせ当主になる目などないのでそういう情報に疎く、実家も最初から期待していないのだろうけど。


「残念ですが、少なくとも木登りは必須スキルです。あの大きな木のてっぺんに布が縛ってあります。取ってこれた人は第一の試験に合格です」


 問答無用だ。

 ザンス子爵家に婿を入れる場合、俺が許可しなければ話が進まない。

 それが現実であり、それに気がつかない奴など、こちらが断ってもなんの問題もないのだから。


「では、始めてください。別に合格者がゼロでも、俺は困らないので。陛下もなにもおっしゃらないでしょう」


 俺のつれない返事を聞いたからか、みんなやっと木に登ろうとし始めた。


「無理である!」


「連中、体を鍛えたこともないんだ。難しいだろうな」


 王都郊外で目についた一番高い木だが、高さは三十メートルほどしかない。

 これに登れないようでは、世界樹での移動すら儘ならないのだ。

 屋敷がある階層にのみ留まっていては、当主の務めがはたせるわけがないので、木の上に布を取ってこれなければ容赦なく不合格にするだけだ。


「駄目だこりゃなのである!」


 みんな、木登りの経験がないのであろう。

 地面から二メートルも登れていなかった。


「まさか、ここまで低レベルとはな……」


 ブランタークさんも、貴族の駄目息子たちを見て心底呆れていた。


「はーーい、全員不合格です」


 一人くらい合格者が……少しでも期待した俺がバカだった。


「ザンス子爵家は、世界樹の周辺の土地も領地としました。数百メートルを、手動の昇降装置を使って降りる必要があります。この程度の木登りで苦戦するのでは、お話になりません」


「では聞くが、バウマイスター辺境伯殿はできるのだろうな?」


「当然」


「では、見本を見せてもらおうか!」


「いいけど……」


 俺は『飛翔』で浮かび上がり、木のてっぺんに縛られた布を回収してから元の場所に降りた。


「できました」


「卑怯だぞ! 魔法を使うなんて!」


「そうだ! そうだ!」


 こいつらって、本物のバカなんだな。

 今、それにあらためて気がつかされた。


「大切なのは、世界樹での移動と、地面への上り下りができればいいわけで、あなたたちも魔法を使っても構わないですよ」


 一応言い忘れた風で、俺はバカたちを少し挑発してみた。

 腹が立ったのと、これで奮起してくれれば、少しは見直せるかもしれないと思ったからだ。

 結局無駄だったけどな。


「卑怯な! 自分は魔法が使えるからと言って!」


「そうだ!」


「卑怯だぞ!」


 話がズレているような……。

 彼らはそうやって、色々と不都合なことを誤魔化してきたのであろうが。


「体を鍛え、自力で自在に世界樹の上を移動し、時に己の腕力のみでロープを引いて地面に降り、地面から世界樹に戻る。ザンス子爵領の領民たちも家臣たちも、全員そうしているんだけど……婿入りした当主ができないとお話にならない」


 自分だけ木登りもできないなんて、そんな当主、侮られるに決まっているじゃないか。

 どうしてそれがわからないのか。


「事情は説明しました。同じ内容を実家にも送り、不採用の理由を伝えますので、課題をクリアーできるまで連絡はしてこないでください」


 俺は忙しいんだ!

 これ以上、お前らの相手なんてしていられるか!


「導師、ブランタークさん、帰りますか」


「そうであるな! 我が兄上が見たら激怒されるであろう、軟弱ぶりである!」


「ノーコメントだ」


 俺たちは見合い写真を送ってきた連中全員に不合格を宣言し、バウルブルクの屋敷に『瞬間移動』で戻るのであった。

 たまには、フリードリヒたちと遊んでやらないとな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 貴族の場合、部屋住みだろうとどんなに甘やかそうと、礼儀作法や爵位の差別や貴族間のつきあい方については、かなり徹底して教育されると思うんですが…少なくとも当主や家令にとって、赤っ恥を回避…
[一言] >成り上がりの俺すらバカにしようとする。 そりゃあ、爵位が低い若造にへりくだってるからだよ
[一言] 貴族家に属していながら公式な場で爵位が上の人間に対する話し方ではないよね。 普通に懲罰物だよね。
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