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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神戯シリーズ

神戯の勇魔

作者: 人工衛星

初投稿です。

「なあ勇者よ」

「なんだ、魔王」

「…………二人きりじゃな」

「………」

「おい、なんでそんな嫌そうな顔をする」

「いや、お前が余りにも気持ちの悪いことを言い出すから……」

「まったく」

「悪かったよ」

「ふん」




「……なあ、勇者」

「……なんだ」

「思えば、お前とこうして話するのは初めてではないか?」

「………まあ、いままで顔合わせれば殺し合ってた仲だしな。ゆっくり話する時間なんざなかったさ」

「フ……確かにな。殺し合いの最中に暢気に話などできないか」

「あー、でも、一回だけあったな。ほら、アレ。お前が泣いた時の」

「ッ!? な、泣いてなどおらんわ! あれは余りにもお前がふがいなさ過ぎて涙が出たのだ!」

「泣いてるじゃねーか」

「だ、黙れっ!」




「……まあ、確かにあの時は精神的に参ってたからなぁ…………」

「ふん。あの時のお前ときたら……情けないにも程がある」

「……」

「なにが「もう疲れた。さっさと殺せ」じゃ。これまでの最速で配下を蹴散らして城に来たにも関わらず、一言目がそれだ。思わず目が点になったわ」

「うるせーな……お前こそ「寂しいよぉ」つってボロボロと涙なんか流しやがって。こっちこそ驚いたぜ」

「そ、そんなこと言っておらんだろう!大体あの後我のことを瞬殺しよってからに。殺してくれなんぞ言った癖に手加減もせんとは、まったくもって意味が分からん」

「あれはお前、「り合うからには本気でりに来い」って言っただろ。それにあんときのお前完璧魔法タイプだったし。対して俺はスピード型の戦士タイプだったからな。相性だ相性」

「納得がいかん……」

「もう終わったことじゃねーか」

「それはそうだが……」



「……そういえばよう」

「ん?」

「お前、今女なのな」

「今更か」

「いや、だって胸ないし。盛り上がりが一切見られない。っつーかそれなんて壁――――ブヘェアッ」

「……相変わらず失礼な奴じゃな。大体、我らには最早性別なんぞ関係ないだろうに」

「…………………じゃあ、なんで腹殴るんだよ」

「気分の問題じゃ」

「……あ、そう」




「お前だってほれ、昔女だった事あったじゃろう」

「あー、まあな。二回程」

「…………ん? あ、ああ、そうか。二回か。一回目は城に辿り着く前に死んだんじゃったな」

「………ああ。流行り病にかかってな」

「あの時は男たちに騙されて嬲られておったの。オークの群れにも捕まっておらなんだか?」

「ああ。…………って、は? なんで知ってんだよ」

「だって見ておったし」

「What?」

「イヴィルアイ。監視用の魔物じゃよ」

「はぁー―—―――っ!? じゃあ、何? 見られていたのか、全部!?」

「応よ。あの時はずいぶんと楽しそうじゃったなぁ」

「ばっ違っ! あれは毒盛られて動けなくてだなぁ———」

「その割には動けるようになった後も盛っておったよな」

「……………ち、違うし。全然だし。その証拠に俺襲ったやつ全員両手足の腱切ってアレ・・取ってやったし」

「ではオークの件はどうなんじゃ? あんな雑魚相手に捕まるとはさすがに無理があるじゃろう」

「いや、ほら、油断してたんだよ?」

「………ほーう、単身で魔王たる我を殺す事のできるお前が、あの二足歩行しか能のない豚にのう……油断した程度で捕まるのかー。そうなのかー」

「……いや、すいません。好奇心に負けました。で、でもそれが最後だよ? ホントだよ?」

「はぁ……男共に純潔を散らされた後、辿り着いたのがオークとは………そんなじゃから|春画(エロ本)の題材にされるのじゃ」

「え、嘘」

「嘘じゃないわ。ほれ、『女勇者と五人の盗賊』、『女勇者と仲間たちの日常』、『女勇者とオークキング』。シリーズものじゃぞ。もはや年頃の男共のバイブルと化され世界中で量産されておる」

「どっから出したそんな本。つーか絵めっちゃキレイだな!」

「まったく。お前の行いのせいで今の黒猫族は皆高級娼婦よ」

「黒猫族は美人が多いからな。さすが俺の血統!」

「威張るな阿呆」




「あれじゃな。一回目と二回目のお前はろくなものじゃないの」

「あー……、まあ、若かったからな」

「それで済むと思ったら大間違いじゃ。最初に我を殺したあとお前自国の姫と婚姻して王になったじゃろ」

「ああ、国民達が幸せに暮らせるよう頑張ったんだぜ」

「確かに。お前の統治は立派なものだった。今の王達では足元にも及ぶまい。……しかしな、勇者? 」

「……」

「幼い姫を欲望の虜にし、メイドに手をだし、貴族の娘を寝所に連れ込み、身分を隠して町娘と子をつくっては、娼婦を買い漁る……王という以前に人としてどうなんじゃ」

「………すみません…………」

「最終的に姫——いや、当時は王妃か。——の腹の上で死んだ後、お前の継承権争いで国中荒れに荒れたぞ。それはもう、王族貴族、平民問わずにな。当時、あの国では血の流れなかった日はなかったらしい。——まったく、一体何人子を作ったんじゃ?」

「…………」

「まあ、見かねた我がお前の不手際を国ごとブレスで吹き飛ばしてやったわ。感謝するがいい」

「ああ、ありがとう——って、感謝していいのか、コレ?」




「——しかし、ブレスか……確かあの時はお前竜だったか? 倒すのえらい苦労したぜ」

「おお、それじゃ。空を飛んどる最中に分けわからんうちに殺されたんじゃよ。一体どうやったんじゃ?」

「どうもこうも、弓で猛毒塗りたくった矢をお前の両目に打ち込んで、後はひたすら遠距離からチクチクと」

「………汚いのう。正々堂々こんか」

「無理だっつーの。二回目途中で死んだ上で、その後長寿で成長の遅い樹精人エルフだぜ? 力の差が開きすぎだ」

「…………我はその後生まれて直ぐにお前に殺されたんじゃが。変わらず卑怯じゃないかの?」

「ちゃんと正面から挑んだだろ」

「目を開けたら「おはよう。では死ね」じゃぞ。自分の姿も分からんうちに意識がトんだわ」

「あー、たしか粘液系だったぞ。こう、紫色のブヨブヨな奴」

「竜の後は粘液スライムか。一貫性がないのう」

「気にしたら負けだろ」

「確かにな」




「ていうか、なんでこんな話になったんだっけ?」

「さて……ああ、お前が我の性別について話し始めたのがきっかけじゃな」

「マジかよ……そこからどうしてこんな話になったんだ?」

「知らん。何事もそんなものじゃろう」

「気にしたら負けか」

「負けじゃ」




「なあ、魔王」

「今度はなんじゃ」

「……何年生きた?」

「今年で十六になる」

「いや、体じゃなくてな……つか、十六でその胸かよ」

「——フンッ!」

「ゲフゥ!?」

「…………次はない。いいな?」

「……………………ウス」

「ハァ……おそらくだが、————千年ほどは過ぎたんじゃないかの」

「千年、か………うん、そのぐらいだろうな」

「………」

「………永いよなぁ……」

「のう、勇者」

「なんだ?」

「……いや、なんでもない」

「なんだよ、それ」

「気にするな。忘れろ」

「おう?」




「……あのあと」

「ん?」

「スライムとなった我が殺されて、そのあと我がお前を殺したあとじゃ」

「おお、ゴースト系の奴な。あん時はまじで手も足も出なかったよな。次目覚めたら世界中アンデットだらけだったし」

「おう、お前は光の精霊だったよな。アンデット共はお前の光に触れた瞬間消滅したな」

「まあな。何もしなくても消えるんだぜ。チョー楽だった」

「あの時、お前は世界中に広がったアンデットを消すために世界を回ったじゃろ」

「ああ………」

「何かわかったか?」

「……………お前もわかってただろ?」

「…………」

「世界中にお前が広げさせた(・・・・・・・・)、アンデット共に色々調べさせてたんじゃないのか」

「…………」

「何も掴めなかったさ。……何も、な」

「そう、か……」

「全てのアンデットを消し去って、同時にアンデットと繋がっていたお前も消えて、俺は一人で探し続けた。……結局、欠片も見つからずに寿命が尽きた」

「……それで「もう疲れた。殺せ」か……」

「そう、んでお前に泣かれる。と」

「そ、それはもういいじゃろ」

「いやーあん時は焦った、焦った。お前人間型だし、しかも美人だし、それで涙を流されるんだぜ? もう本当勘弁してくれって気分だったよ」

「……うるさい」

「……「我がお前を殺して、お前が勇者であることを放棄して、我が世界を手に入れたとしても、我を真に知るものは居なくなる。それは、悲しいではないか。……それは、……寂しいではないか」……か」

「〜ッ!?」

「いやー、目が覚めたぜホント……って、おいっ! その手をおろせ! その力の込め方は流石にシャレにならん!」

「わ、我は、止めろと言ったはずじゃぞ」

「いや、悪かったって。でも、そうなんだよ、お前を消したあと、初めて一人で世界を放浪してさ、それで何にも手掛かりが見つからなくてさ、俺を知る者のいない世界で一人生き続ける苦しさを、俺は知っていた筈なのに……それを忘れていたんだ。それを、お前にも味わせるところだった」

「…………」

「それに気付いた時、そして、お前が「殺り合うからには本気で殺りに来い。そうすればそんな事を考える事もなくなる」って言われたとき……泣きそうになった」

「ふん…………」

「だから、本気で、全力でお前を殺しにいったんだ」

「そこがおかしい」

「狼人族のスピードと獣人の奥義、神獣化を使い、勇者のスキルをフルに活用した必殺の一撃を、お前への感謝を伝える為に振るったんだ」

「だから、それがおかしいといっておる! なんで説教の返事が全力の斬首になるんじゃ!? 意味が分からん!!」

「俺の目を覚ましてくれた魔王に、「本気でこい」と言ってくれた魔王に答えたかったんだ!」

「…………本当に、ホンットーに要らんところで真面目じゃな!」




「そういえば、あの時のお前って何の魔王だったんだ? 装備と魔力の流れからして魔法型なのはわかってたんだが……」

「……邪眼族じゃ。額と両目に魔眼を持つ魔族じゃよ」

「あ、そうなんだ。じゃあ俺の目にも止まらない速度での攻撃は攻略法としては正しかったんだな」

「まぁ、そうじゃが……納得はいかんがの」

「美人だったよなー。今も美人だけど。……今の種族はなんだ?」

「淫魔族。サッキュバスじゃ」

「えっ………淫魔でその胸?」

「…………」

「ギャァァァァァッ!! 目が! 目がぁーーー!」

「次はないと言ったはずじゃ。……阿呆め」

「だからって目潰しはねぇだろうが! ああ、痛かった」

「もう再生したのか。化け物め」

「そりゃ、お互い様。……そっか、淫魔族かぁ。成る程ね」

「何じゃ。何が言いたい」

「いや、だってお前、前の姿忘れたの?」

「ム」

「触手だぜ、触手。しかも俺がお姫様の時に」

「……仕方ないじゃろう。自分で自分の姿は決められん。お前も知っておるじゃろう」

「まあなー。でもよう、だからってあの粘液はなんだよ? なんで着てる鎧とか服だけ溶けるんだよ。なんで無駄に発情するガスなんか使ってくるんだよ? 今お前が淫魔になってるのも納得ってもんだぜ。このスケベが。最初の頃の俺の事悪く言えねーな」

「いや、待て。待ってくれ。だってな? 種族特性としてな、使えるんじゃよ。そりゃ使ってみたくもなるじゃろう。でも我とマトモに戦えるのは勇者たるお前だけで、必然、使用先がお前になることは仕方ないことじゃ。それに、お前がたまたま女じゃったのも悪いとは思わんかの?」

「思わねーよ。お前自分で言ってたこと忘れたのか?」

「うぅっ」

「「いい様だな、勇者よ! そのままその痴態を我に見せてみよ!」……思いっくそ目的言っちゃってんじゃねーかよ。他にも――」

「悪かった! 我が悪かったからもう許してくれ!」

「ハァ……お前そんな性格だったっけ? 最初のころはもっと残忍で傲慢で、人の話聞く奴じゃなかった様な気がするんだが」

「変わったのよ。お前と戦う中でな。……お前の能天気が移ったんじゃ」

「……そっか」

「お前も変わったな。……少し、非情になった」

「そうか? ……そうかもな。色々見てきたから、な」




「……」

「……」

「なぁ、魔王」

「何じゃ、勇者」

「お前は、世界を諦める事は出来ないのか?」

「出来んな。お前だって、救いを求める人々の手を払いのける事は出来んじゃろ?」

「ああ、出来んな」

「それが出来てしまっては、その者は勇者ではない。……世界を諦める事が出来ては、その者は魔王ではない。勇者と魔王でしか居られんのよ。お前も、我も、な……」

「そうだな。確かにそうだ。愚問だったな」

「よい。この呪いに囚われた者同士じゃ。謝る事はない」

「呪い、か……。確かに、ピッタリな表現だ」

「じゃろう?」

「一生役割道理に生きる事を強要され、死んでも死ぬことができない呪い」

「……」

「……なぁ魔王。今、何回目(・・・)だ?」

「六、いや、七回目かの」

「……もう、そんなにか」

「次は何になるのかのう……」

「さぁな。俺は人族の男になりたいぜ」

「ん? 今は違うのか?」

「よく見ろよ。角があるだろ? 今は鬼人族だ」

「そうか」

「そうだよ」

「………」

「………」

「なぁ勇者」

「ん?」

「居ると思うか、………………………神は」

「………居るんじゃねえかな………『ステータスオープン』」

「……『ステータスオープン』」

「こんなモン使える様に出来るなんて、神とか言う存在以外考えられねぇ」

「ああ、確かに」

「魔法でもねぇ、機械でもねぇ、よく分からないこの板を、二百年前、突然全世界の全人類が使える様になるなんてな」

「身体能力や、技能、魔法を数値化し、それを、個人で見れる様にする。か、……まさに神の法術じゃ」

「これだけだ。手掛かりは。あっちから勝手に与えられ、勝手に放置して」

「……」

「争い合って、殺し合って、それだけを強制されて、それを笑いながら眺めている奴がいると考えると、頭がどうにかなりそうだ」

「もしそんな奴がいたなら、我はそいつの四肢を引き裂いて、その目の前でそいつの臓物をゆっくりと咀嚼してやるのにな」

「表現がグロいよ。……まぁ、同意だが」

「お前はどうする? 勇者」

「そうだな。俺なら……何千何万の拘束術と封印術を掛けて身動き取れない様にして、体の末端から少しづつ刻んでいくかな。勿論、痛覚倍加も掛けて」

「……やはり、非情になったのう」

「褒めんなよ」

「褒めとらん」




「いつまで、続くのかな」

「さてな。そもそも終りが来るのかどうか」

「………」

「のう勇者」

「なんだ、魔王」

「……………つ、次」

「ん?」

「次、転生したら……………い、一緒にならぬか?」

「は?」

「いや、その、…………もう知らぬ仲でもないしの、我もお前の事を憎からず想っておるから……いや、お前が嫌なら別にいいんじゃが」

「なぁ、魔王」

「いや、分かっておる。分かっておるぞ。我は魔王、お前達人類の不倶戴天の敵。悪の化身じゃ。その我がこんなことを言うのは可笑しいとは思う」

「いや、だからさ、魔王」

「しかし、そんな我でも、もうこの想いを押し隠す事は最早無理じゃ。いや、そもそも我がこんな想いを持つことが間違っていると「魔王!」ヒャッ!?」

「もう、いい」

「勇、者? ――あ、ああ、そうじゃよな。迷惑じゃよ、な……」

「違う」

「へ……?」

「次、転生したら、一緒になろう。魔王」

「…………」

「俺も、もう疲れたし、二人で死ぬまで一緒にいよう。……役割に反するのは多分滅茶苦茶きついけど、一回位は世界を滅ぼさない魔王と人々を救わない勇者がいてもいいはずさ」

「勇者……」

「でも、できれば人型の女がいいかな。今みたいに美人の」

「そう、じゃな。お前も人の男になるんじゃぞ?」

「おう。頑張ってみるさ。努力でどうにかなるもんじゃねーけどな」

「なら、我にも無理をいうでない」

「はは、悪い」

「いや、いい。……なかなか良い気分じゃ。……この千年で初めての気持ちじゃよ」

「そりゃ、良かったな」

「ん……」




「——それじゃ、始めるか。いつも通りに」

「そうじゃな。いつも通りに」




「——――魔王、お前の野望もここまでだ。今日がお前の最期だと知れ」

「勇者よ。ここまで来たことを褒めてやろう。しかし、今日がお前の最期だ」

「いざ――」

「尋常に――」



「「勝負」」




                 完

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