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わかりにくいところや、誤字がありましたら報告してくださるとすぐに直します。




ベッドに入って数分で意識が消えた。


ふと気がつくと、暗闇の中で立っていた。目の前にはテレビのリモコンのような物が浮いている。寝起きのように頭が働かなく、少しの間リモコンを眺めていた。


触れてもいないのに、リモコンが動き出して前方に向けられる。

「ピッ」と機械的な音がなり、映像が映し出された。暗い部屋の中でテレビをつけたように、ぼんやりと明るくなる。



茶髪の女の子が髪をなびかせて仁王立ちしている。何かを言っているが声が聞こえない。

その子がこちらに向けて指をさしていると、画面が変わり涙を流す女の子が映る。

泣いている女の子を守るように、5人の男子が現れる。それぞれ腕章をつけているが文字は読めない。

それを見た茶髪の子が、顔を歪める。握りしめた拳が震えている。泣きそうな顔で何かを言う。

5人の男子は冷たい目を茶髪の子に向けている。つり目の男子が言い返していると、泣いている子が何かを叫んだようだ。

それを止めるように、泣きボクロの男子が手を出すが、泣いている子は叫び続ける。

つり目の子の隣にいた男子が、微笑みを口に浮かべたまま何かを言うと、泣いていた子が口ごもる。

茶髪の子は泣いている子を睨みつけ何かを言うが、顔がよく似た2人の男子に言い返される。

そこでつり目の男子が、茶髪の子を指して何かを宣言した。驚いて目を見開く茶髪の子の言うことを無視するように、5人の男子は泣いている子を連れてその場を離れようとする。

そして、最後に映ったのは、泣いていた子の不敵に笑う顔だった。



すべてを見終える頃には、私の目から涙が溢れていた。拭うことはせず、流れるままにしていると突然、声が聞こえた。


「ゲームでよくある展開なのに、なんで泣けるの?」


その声は聞いたことがあった。

女子にしては低く、男子にしては高いとよく言われた。感情を込めることもない平坦な声。

声の方を向くと、灰色の半袖パーカーの中に白いカットソー、黒のジーパン姿の男とも女ともいえない人がいた。


「でも、ヒロインが性格悪い系はあんまないかもしれない。主人公がハッピーエンドを迎えられないのもね」


淡々と映像の感想を言っているこの人は誰なのか、という質問はする意味が無い。


「それにしても数分しか入ってないのに、もう新しい体に感情移入したの?こんなことで私が泣くなんて…」

「昔の私の記憶がなかったからじゃないかな。『人形』なんて恥ずかしい名前をつけられてた頃の」

「……」


声と同じように表情も変わらなかった私は、周りから『人形』と呼ばれていた。

その不本意な名前に嫌気がさして逃げた結果が引きこもり、だった。

親のおかげでお金に苦労することは無かったから有意義に過ごしていた。

そんなある日、私が寝ている間に大地震が起きて、高層マンションに住んでた私たち家族は死んでしまった。

それが、神無崎碧海(かんなざきあおい)の最期。


「それで?なんで昔の私がここに?」

「よくわかんないけど、私が色々説明しなきゃいけないんだって言われて。誰かわかんないけどね」

「よく知らない人の言葉に従うほど私っていいひとだったっけ?」


むしろ、よく知ってる人でも自分の利益にならなきゃ従わない人だったはず、と思いながら言った。


「利益にならなきゃ従わない、って知ってるくせに」


先ほどのリモコンをくるくると回しながら、得意げに話した。


神無崎碧海(かんなざきあおい)の魂は大きかったらしくて、体が潰れた時にばらばらになったらしいんだ。それを集めたら、やっと転生できるんだって」

「今は転生したわけじゃないってことか…言うならば、憑依ってところかな」

「まあそんな感じ。完璧な憑依じゃないから、体の持ち主の魂が影響する時もあるって。さっきの泣いた時みたいに」


弟君と話した時みたいに勝手に動くのは、そういうことか。


「聞いた話によれば、魂が二つある時は自我が強い方に引き込まれて一つになるって。気をつけなよ…って言うまでもないって感じだね」

「思考と行動の主導権を持ってるんだから、私の方が強いってことでいい?」


ここだと私の思いのままに話せるけど、戻ればまた高飛車みたいになると思う。


「いいと思うよ。…そろそろほかの魂の所に行くね」

「うん。がんばれよ、昔の私」

「任せとけ」


グッと拳を作って言うと、親指を立てて言われた。

くるりと背を向け去っていくと思いきや、突然振り向いて付け足した。


「言い忘れてたけど、さっき見せた映像の黒髪ヒロイン。その体の持ち主の最終地点だから」


黒髪ヒロインって…さっきの嘘泣き媚売り女?嘘でしょ?あんなのになっちゃうの?


「あんな未来にならないようにがんばって」

「全力で回避するわ」


ひらひらと手を振って昔の私は消えていった。

それと同じくらいに、私の意識が消えていった。



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