12
……
────
……んゔ…
─……───…!……?
……ぅゔん…うるさ…
───…ぉ!………ぃょ!
誰だよぉ…人が寝てる時は静かにするって教えてもらわなかった?
目を擦りながら仕方なく起きてやる。
視界は真っ暗。テレビのリモコンみたいな奴が、目の前をフワフワと浮いている。あれ、誰もいない。
なんか見覚えあるな…とか思ってたら、リモコンが動き出して私が向いてる方に向けて「ピッ」とスイッチを押した。
ゆっくりと四角く明かりがついて、その中に昔の私…神奈崎碧海がいた。
相変わらずの無表情で手を振っている。
【やっほ。元気してた?】
「昨日ぶり。めちゃんこ元気だよ」
なんか自分と話してるはずなのに、変な感じ。
体が違うし、向こうの様子とか分からないからかな。友達と電話してるみたい…友達いないけど。
【髪切った?あらあら…前は綺麗なロングだったのに、勿体ないことしたね?】
「ちょっとモタモタしてたら切れちゃってた。後悔はしてない」
だろうな、って言って碧海が自分の髪を片手で梳く。
そう言えば、寝る前にこの体に元からいた魂とどっちが強いか決めなきゃって言ってたっけ。忘れてたけど。
「聞きたいことがあるんだけど。元からいた魂と話すことできる?」
【どうだろ?聞いてくるね…………お待たせ】
一瞬画面がぶれたように歪んで固まった。
十秒もしないうちに碧海が戻ってきて、両手で画面の位置を調節している。
「待ってないよ。どうだった?」
【なんか『魂同士が馴染んでたら出来るはず』って言われたけど、よくわかんない】
「同じく、どういうこと?ってか、馴染んでるってどういう感じで現れるの?」
【分かんない。とりあえず念じてみたら?】
念じるって…話せるようになりますよにって?どこのコミュ障だよ…まあやるけど。
えーっと。
この体に前からいた魂さん?話したいことあるから出てきてください。
こんな感じ?一応両手を合わせて、目を閉じる。
───ザザッ
およ?なんか聞こえた気がする。
【どう?なんか出た?】
───ザザッザ─
「ノイズっぽいのが聞こえるようになった」
【まじか。あ、ちょっと待ってて……伝言頼まれた。『リモコンに四色のボタンがあるはずだから、黄色のボタンをここ以外の空間に向けて押して』だって】
───ザザッ─ザッ─
リモコン?コレか…ボタンは…朝のニュースとかのジャンケンで使う奴でいいのかな。
ここ以外の空間…碧海が写ってるテレビの右でいいかな。
んで、ポチッと。
『!?だ、だれ!?』
「うお、びっくりした…」
【え?どうした?】
パッといきなり付いた画面に、女の子が写る。画面の隅っこに細々としたものが置いてあるけど、だいぶぼやけてて見えない…
にしても、どこかで見た顔だな…特に泣きボクロが。
「…知らない女の子が写ったんだけど。放送事故?」
【うそ、どういうこと?……まじか。その子元の魂の子らしいよ】
「まじか」
どおりで見覚えあるはずだよ。髪は残念なことになったけど、顔は同じだもんね。
向こうさん、前髪上げて、パックしてるから全然わからなかった。寝る前の保湿?
『ちょっと貴女!聞いてるの?』
「は?なにを」
『貴女の名前を聞いてるのよ!さっさと答えなさいよ!』
うわ…何こいつ。
つば飛びそうな勢いでせめてくるこの女、名前なんていったっけ?モモ…あー思い出せない…
つか私は碧海って名乗っていいんだよね?
一応同じ魂だし…
「…私はアオイ。あんたは…モモさん?」
『誰がモモさんよ!桃内愛来、2度目はないから頭に叩き込みなさい!』
「……モモさんね。てか私もこれからそっちの名前言わなきゃなんだった」
桃内愛来って結構ヒロインっぽい名前だよね。桃とか愛とか…女子好きそうじゃん?
私は好きでもないけど、ホワホワした系は。
『モモさん言わない!…貴女が私の名前を使うってどういうこと?』
【え、気づいてないの?体に別の魂が入った事に】
碧海にもモモさんの声聞こえてるんだ。
魂については私専門外なんでー、其方にお願いします。
『!?他に誰か居たの!?』
【あ、聞こえたみたいだね、よかった。私は碧海、よろしく。えっと…アイちゃん?】
『あ・き、よ!何なのよこの人達…そう言えば同じ名前なのね』
お、鈍いわけでは無いのかな。まあ大体の人は気づくだろうけど。
なんか考えてる顔してるけど…なんだ?同じ名前だから呼び分けしにくい、とか?
【同じ魂だからね。突然だけど、私の欠片が体を借りるね】
『は!?どういうことよ!ちゃんと説明しなさい!』
「…いちいち大声出さないで欲しいんだけど。耳に響く」
『…我慢しなさい!』
えええ…
なんて横暴な…
【えーと、なになに?……その体に入った魂によるからどんな内容か、分からないけど。やりたい事をやったら自然と抜けていく…だって】
『やりたい事?どんな事よ』
「男装して学校を楽しむ」
おっと、即答してしまった。ついでに握りこぶし付き。
楽しむって所が最重要項目ですね。男装しても楽しくなかったら意味無いからさ。
『学校を!?』
【男装かー】
違うところで驚く2人。モモさんが男装ってところに食いつくかと思ったけど、まさかの学校。しかも苦虫を噛み潰したような顔してる。
「ピアスに髪の毛絡まっちゃって、痛いし取れないしでイライラしたから切ったらこんなになっちゃって。ついでだし、男装して遊ぼうかなって思ったんだ」
【シナリオぶっ壊していくねぇ。面白くなりそう】
シナリオがバッドエンドしかないようだしね。壊して進むしかないよね?前回見た映像にでた、良くわからんやつに負けるつもりは無い。
『それなら学校じゃなくてもいいじゃない…なんで学校を?』
「チャンスが来たからさ。校則がかなーり緩い学校に行けるのに、なにもしないなんて勿体ない。しかも、この体自体が言ってたけど…変わりたいみたいだよ」
『…変わりたい?私の体がそう言ったの?』
「うん」
明らかに声のボリューム下がったな。
引きこもってたから行きたくないのは分かるけど、そんなにか。
【ねぇ、どういうキャラで行くの?クール系?キュート系?】
「ガチガチに作るつもりはないよ、ボロでたら面倒だし。言葉使いを少し男に寄せるだけかな」
【服とかは?髪は切ったみたいだけど】
「明日揃えるつもり。髪の手直しも含めてね」
とかなんとか碧海と話してたら、意識が薄れてきた。朝が来たのかな。
「時間切れかな?意識が薄れてきた」
【あら、もうか。またの機会があったら呼んでね】
『あ、一つ言いたいことが。私の方でも生活があるから繋がりを切ってもいいわよ?その体に未練はちっとも無いし』
「んな大事なことなぜ黙ってた」
『わ、忘れてたのよ!仕方ないじゃない!』
知らんわ。モモさんの方でも生活があるってどういう事か分かんないけど、貰えるなら貰いたいな。
でも、全部切ったら後々面倒だし意識だけ繋いでもらいたいな。
【…………へえ。全部切ったら私の魂が回収しきれないから、少しだけ持ってて、だって。めちゃんこ長い犬のリードみたいな感じで】
「私が犬か。躾は全くされてないぞ」
『私が振り回されるなんて絶対嫌よ!』
【とんでもなく長いから、犬の行動に全く影響ないし飼い主の負担にもならないよ。きっと】
首になんかついてるってだけ?ならいっか…
ん、待てよ。つまり──ブチッ──
『あら?アオイから返事がないんだけど、どうしたのよ』
【あらあら…限界が来たか。アイちゃん、私の片割れ落ちたわ】
『落ちた?どこに』
【まあ、気にしなくて大丈夫だよ。それとリードの件、ちゃんとやっとくよ。また機会があったら呼ばれるかもね】
『いきなり現れるから驚くのよ…予定に組み込んでおいて欲しいわ』
【それはあっちのアオイに頼んでね。じゃあ、ばいばい】ブチッ
『…はぁ。嵐のような2人ね。楽しかったからいいわ…また来るのかしら?べ、別に来て欲しいとか思ってないんだから!…って誰に言い訳してるのよ…』ブチッ