第7話 異変
あれから数日、森林エリアの先にある町「フォレスティア」に滞在している。
因みに最初の町は「スターティア」と言うらしい。
如何やら町の名前は、○○ティアと付ける決まりのようだ。
そんな事はさておき、最近森林エリアに異変が起きているらしい。
以前は、少なかった蜘蛛型のモンスターが多く出るようになったとか新しいボスが出たとかそんな感じだ。
原因に心当たりがあるがあえてプレイヤー間への情報提供はしないことにした。
そんな折、このゲームではモンスターはポップするだけではなく生態系の様なものを形成しているらしくそう言った事から、強い個体が生まれた時にモンスターの分布が変わることがあると運営が公式HPに緊急に載せていた。
このことからも、先の鬼ごっこの際に蜘蛛に大量のお食事を用意してしまった上に基本的に止めも任してしまった為、大量の経験値があの一匹に流れ込んだ結果として新たにボスとして進化してしまったのだろう。
そんな事もあり、素材としてスパイダーシルクなる物が大量に流通しだしてそれを使った防具が安くなったそうだ。
今までは、服系の素材は毛皮や植物、市販の布素材を使っていたらしいが蜘蛛が出るようになったことで安定した糸素材が手に入るようになり服飾関係のプレイヤーはこの異変に感謝しているらしい。
そんなこんなで、今日も森の奥を目指して歩く。
片手には、気絶させたオオカミを抱えている。
目的地は、件の蜘蛛型のモンスターのボスの所である。
「クインちゃ~ん、約束のオオカミ持ってきたよ~」
餌付けに成功したと言うか、ボスであるクイーンポイズンスパイダーのクインちゃんに気に入られてしまったのだ。
名前が長かったのでそう呼んでいるだけだが、気に入ったのか特にソレをとがめるような雰囲気を発することは無かった。
呼びかけると木々に張り巡らされた巣の中から音もなくスーッとお尻から糸を出しながら降りてきたクインちゃんは、体長5mを超える大きさになり黒くフサフサていた体はエナメルの様な質感になり光が当たると紫色に光る禍々しい感じになっている。
こんな状況でなかったらとても気軽に声を掛けられる様な相手ではない。
蜘蛛の巣は地上から数メートルは上に張っているため基本的に虫系のモンスターしかかからない為、オオカミの味を憶えたクインちゃんからオオカミ一匹と引き換えにスパイダーシルクを一巻交換すると言う提案が出されたのだ。
まさか、モンスターからクエストを発行されるとは思っていなかったのでその時は驚いた。
因みに普通のスパイダーシルクの品質と比べるとクインちゃんから受け取っているものは、クイーンスパイダーシルク(艶)と言う品質が最高の上艶やかな見た目と手触りで、おいそれと市場に出すのをためらうモノであった。
と言うのも市場に出回っているクイーンスパイダーシルクはプレイヤーが張っている巣を巻き取っただけのもので(艶)の効果が無くと品質が普通の物でもスパイダーシルクの10倍の値段で取引されているのだ。
もしこれをそのまま売ると、入手経路とか色々五月蠅そうなのでアイテムボックスの肥やしと化しつつある。
早くギルドランクを上げて、アイテムを預けられるようになりたい。
因みにギルドランクを上げると、倉庫のほかにもスキル枠が1つ増えるようになっていて冒険者・生産者の2ギルドでF~Sの7段階で計12の枠が増える計算になるが両立するのは難しい上に時間がかかる。
そして取得スキル数が増えるとその分経験値が分散されてレベルが上がりにくくなるらしくどちらか片方に絞ることを奨めていた。
また持ってくるねとクインちゃんに別れを告げて町へと戻る。
今日は、装備の新調をしようと思うのだ。
折角手に入れたこの糸をどうにか使って新しい装備を作りたいが生産者の知り合いなんていない。
出来れば、素材持ち込みOKのオーダーメイドを受けてくれる上に口の堅そうな生産者がいいなと高望みをしつつフォレスティアの真ん中にあるモニュメントに触れてスターティアへと転移する。
各町の中心にあるモニュメントは、登録した町に瞬時に転移出来る装置となっていて多少のお金を払うことで移動の時間を省けるようになっている。
スターティアの冒険者ギルドへと向かい久しぶりにライラさんに会うために授業料を払い訓練所に入る。
「久しぶりだね、少しは強くなったのかい?」
「どうなんですかね、自分じゃその辺は分かりませんがフォレスティアに行けるくらいにはなりました」
「へぇ、となるとあの森を抜けたのか」
「はい」
「そういえば、最近あの森に蜘蛛たちが増え始めてるって知ってるかい?」
「はい、そのことで相談がありまして」
「相談?」
周りを見渡すが、相変わらずここはプレイヤーには人気が無いようで内緒話をするにもうってつけだ。
クイーンスパイダーシルク(艶)を1つ取り出してライラさんに渡す。
「実は、これを加工してくれる人を紹介してほしんです」
「これを…。」
渡された糸を食い入るように見ているライラさんが再起動するまでに数分を要した。
「どこで手に…って、森の異変と関係あるのか」
「はい、実は…」
そうしてライラさんに、あの日起った事とその後に起きた珍事を説明した所と盛大に怒られてしまった。
「まぁ、新しい産業で町は潤っているからこれ以上は言わないけどあんまり無茶しない様に気を付けな。
っで、加工してくれる人を紹介してほしんだったな」
「お願いできますか?」
「ああ、後で紹介状書いてやる」
「ありがとうございます…後で?」
「じゃ、はじめるぞ」
「え?」
「何言ってる、まさかそれを聞く為だけに来たんじゃないだろ?」
「え、え~っと」
「ふん、そうだな。
あたいに認めさせないと紹介状は書いてやらない」
「そんな~」
「さっさと準備しろ!」
「はい(泣)」
その後は、様々な武器を相手にボロボロにされた。
それでも前より少し気絶までにかかる時間が長くなっている気がするので多少の成長を感じていた。
「次はこっちだ」
そう言って、武器を手放して素手で襲い掛かってくるライラさんを必死に迎え撃つ。
攻撃をいなしフェイントを入れつつ攻撃を加える。
目まぐるしい攻防の末、渾身の右手を突き出す。
何かを掴む感触、…むに!
「キャ!」
…むに?
むにむに。
手の平から伝わる独特の弾力のある感触。
グミと似て非なるその感触が電流の様に脳裏を駆け巡るにトリップ仕掛けていると
「おい!いつまで触ってんだ?」
そう、右手はライラさんの立派な胸を鷲掴みにしていた。
ライラさんの声に背中に冷たいモノが流れた気がして、慌てて手を放した後の記憶がはっきりしない。
気が付くとギルドの医務室のベッドに寝ていて、枕元には2通の手紙が置かれていた。
一つ目は、約束していた紹介状と店の場所の書かれた地図がセットになったものでもう一つには大きな文字で
「バカ!」
と一言だけ書き殴られていた。




