第14話 ゴーレムと…
あれから三度ほどサハギンキングを倒して目的の王麟をゲットすることは出来た。
運よく津波にさらわれるパターンは発生しなかったので沖に流されるようなこともなかった。
そうして、スターティア周辺のエリアでは一番苦戦すると思う鉱山エリアに足を踏み入れることにした。
ここには、鍛冶職をメインでやっているプレイヤーなどが素材を集めるためにやってくることが多く、武器もハンマーなどの鈍器による打撃を弱点とするモンスターが多く生息するためその手の武器をメインに戦っているプレイヤーからすればかなりおいしいらしいが、その代りに斬撃系の武器を使っていると耐久度の消耗は激しい上にダメージは少ないというかなり偏ったエリアになっている。
そんな事もあり周りに見て取れるのは、戦闘メインと言った感じではなく職人然とした機能美を追求したような装備を纏っているプレイヤーが多かった。
その中では、異端ともいえる道着を着込んだ上に素手と言った姿に、浮いてしまっているようでチラチラとこちらを見てくるプレイヤーが少なからずいた。
場違いなことは分かっているが、もうすぐ始まる大会までにはゴーレムを握りつぶせるようになっておきたい。
そうすれば、鎧を握って変形させるくらいの握力が手に入っていると思うのだ。
鉱山エリアは、標高が高くなるほど出てくるモンスターの強さが変わるそうで名前もロックからカッパー、アイアンと頭につくものが変わってくるので分かりやすいし名前関係の素材を手に入れることも出来る用になるそうだ。
ゴーレムにはそのまま鉱石が取れる採掘ポイントがあるらしく、歩く鉱山とか言われている。
他に出てくるモンスターはトカゲやサソリなどこちらも名前が変わるたびに硬く強くなってくる。
最近は、≪握力強化≫も80レベルを超えてアプルンならスポンジを絞るくらいの感覚でジュースを作ることができるようになった。
調子に乗って一度パフォーマンスありきのジュース屋をやってみたのだが、やはり男が絞ったジュースをゲームとは言え飲みたいと思うプレイヤーは少ないのか大量のアプルンだけが残ってしまった。
まぁ僕も実際に飲むなら、美人が絞ってくれた方が良いに決まっている。
それはさておき、目の前に現れたのはロックリザードと言う背中に石の様な凸凹があり地面に擬態して襲い掛かってくるちょっとめんどくさいモンスターが数匹。
リザード系共通の弱点は地面に接している腹だ。
背中などより比較的柔らかいというくらいではあるが、ひっくり返してしまえば後は簡単だ。
そもそも魔法や武器など遠距離攻撃の無い生物系のモンスターは比較的楽な相手には違いない。
どんなに見た目が違っても、ひっかくか噛みつくか体当たりくらいしか出来ることが無いのだから、まぁサメの様に巨大で自分より早く動けて地の利まで有ったら先日の様にあっさりと殺られてしまうのだが、今回の相手は複数いること以外にこちらに不利な状況ではない。
時間差で襲ってくるリザードを躱して最後にやって来たのを捕まえて握りつぶす。
思ったより硬かったが、握り潰せないレベルではなかった。
最近、皮膚が柔軟性はそのままに硬くなっているような気がするのは、≪素手強化≫によるところだと思う。
この硬くなった皮膚のお陰で硬いモノを握った時に問題なく力を発揮できていると思うのだ。
ゆくゆくは抜き手で相手を突き刺すみたいなことや素手で刃物の攻撃を受け止めるみたいなことも出来るようになるのかもしれない。
そもそも素手以外の攻撃にマイナス補正が掛かってしまうというのが、ガントレットの様なものにまで反映されるらしく少なくとも手の平全体が何にも被われていない状況でないとマイナス効果が発揮されてしまうので、実質素手以外の方法を取るためには一度セットスキルの見直しが必要だったりとかなりめんどくさい仕様となっている。
その為ほとんどその可能性を検証したプレイヤーが居ないもしくは秘匿しているのか情報が説明文のコピペくらいしかないのが、このスキルなのである。
この皮膚の感覚の違いが知覚出来るレベルになったのも50を超えたあたりからでそれまではいまいちその効果を実感できるような場面はなかった。
そんな考察をしながら歩いていると突然、何かが地面の中から生えてきて鞭のようにしなりながら襲い掛かって来た。
ギリギリのところで掴むことに成功し、掴んだものを確認するとそれはサソリの尻尾だった。
尻尾の続く先をよく見ると足元に繋がっている。
慌てて飛びのくと尻尾を含めると5mを超えるであろう大きなサソリが現れた。
普通サイズでもかなり凶悪なフォルムのそれが車サイズになって襲ってくるとなるとかなり悪夢な状況と言えるのではないだろうか?
先程握った感覚だと、以前森林エリアに居た昆虫を超える硬さの上アイアンクローをしようにも頭の半分を占める大きな顎から凶悪な牙が生えていた。
二本のハサミと鞭の様な尻尾による攻撃は、どれも致命傷に直結する威力を持っていると思われる。
ハサミの大きさだけでも1mはあるだろうか、そんなのに挟まれたら胴体が上と下でサヨナラする未来しか見えない。
尻尾の先端に生える毒針にはもちろん注意が必要だが、他にも振り下ろしや横薙ぎなど全身をフルに使って尻尾を振り回すサソリはかなりの強敵だ。
攻撃を避けては、わずかなスキを突いて関節部を握りつぶす。
そうする事で足を数本使い物にならなくしてやった為、最初と比べると攻撃の速度が半分くらいに低下した。
これくらいなら掻い潜りながら攻撃を仕掛けることができる。
曲がらない方向足を無理やり曲げてやるとポキンッと外れるのが、こういった昆虫系の特徴だと思う。
尻尾だけは、可動域が広く外れるポイントが無かったのでねじ切る形で引き抜いてやると胴体だけになったサソリはHPを全損したため光となった。
昆虫系は頭を潰しても少しの間動いたりと生命力が強いのが特徴なので油断できない。
そうして今日の目的の一つロックゴーレムを発見した。
3mほどの巨体がドシンドシンと地響きを轟かせながら歩いている。
大きさ的にはサソリより小さいが直立して3mと言うのは中々にデカい。
動きはゆっくりなので攻撃に当たらなければそんなに強い相手ではない。
今回に限れば、その防御力を超える力が自分に有れば苦戦する相手ではないと思うのだが、果たして今のスキルレベルでヤツを超えられるのだろうか。
まずは小手調べと無造作に近寄るとこちらに気付き腕を振りかぶるのだが、振り下ろす頃には通過済みで、背後に回り込んでひざ裏に一撃お見舞いしてやると、膝カックンの要領でバランスを崩して片手を地面についた。
そして頭に手が届く位置になったので頭を握るとメリメリと音はしたが、暴れ出したため一度では壊すことは叶わず手を離す。
見ると頭に数本のヒビが入っているようでもう少しで壊せそうな印象を受けたが、警戒させてしまったのか頭への攻撃が難しくなる。
それから数分後、二度目の膝カックンが決まり止めを刺した。
戦ってみてゴーレムの学習能力が無駄に高いことが気になった。
他のモンスターと比べてこちらの動きに対する対応が早いのだ。
生物と魔法生物の違い的な感じだろうか?
ゴーレムからは生き物としての意思みたいなものは感じられないが、与えられた指令により最適解を求め続けるような印象を受けた。
その後、2,3体のゴーレムを倒したが如何やら独立思考型の様でゴーレム全体で学習を共有する様な仕様ではないようだ。
もしそうでなければ、今頃ゴーレムが学習しすぎてプレイヤーの侵入を拒んでいたことだろう。
それでも、この学習能力は捨てがたい。
ちょっと残り時間を使って育ててみるのも悪くないかもしれない。
丁度人目につきにくいところに居た1体のロックゴーレムを見つけたので、早速強制弟子入りさせてやろう。
自分のコピーを作るつもりでダメージは与えず、鍛えるつもりでちょっかいを出し続ける。
最初は、緩慢な動きだったゴーレムも2時間じっくりと鍛えた結果、滑らかな体重移動を思えてとても同じゴーレムとは思えないような動きをするようになった。
関節部も無駄な部分が擦れて削れ可動域も広くなり見た目も少しすっきりした印象になった。
滑るように移動しその運動エネルギーと質量を余すことなく転化し攻撃につなげる一連の動作は、達人の様で既に追い抜かれた様な気もするが、何とか攻撃を掻い潜りさらなる成長を促す。
さらに一時間かけて完璧な仕上がりとなったゴーレムの一撃を避け損ねて死に戻ってしまった。
神殿で起き上がり一仕事終えた高揚感と共にログアウトしてから、ふと気が付いた。
あの育てたゴーレムにプレイヤーが負けた場合、これもMPKになるんだろうか?
見た目もちょっとした違いしかなく、普通のゴーレムだと思って手を出してあんな動きをされたら完全な初見殺しになるんじゃないだろうか?
ちょっと調子に乗ってやってしまった感があったが後の祭りであった。
かのゴーレムがその後ちょっとだけゲーム内を賑わす事になったが、それはまた別の話。




