第13話 流されて…
え~っとここは何処だ?
太陽の位置からするとあっちが南だと思うから反対の北に向かって泳げば帰れるのかな?
真っ直ぐ南に流されていれば、北に泳ぐだけで何とか帰れる気もするがそうもいかないだろう。
幸い近くに大きな水棲モンスターは居ないようなので、何とか生きて浜辺に到着したいものである。
現実世界でこんなに足のつかない場所を泳いだことは無かったが、スキルのお陰か問題なく泳げているというより現実よりも調子がいい気もする。
泳ぐときに水を掴むという表現があるくらいだから、もしかしたら《握力強化》によって掴む力が強化されているのかもしれない。
そんな事を考えながら、平泳ぎで40分くらい泳いだろうか?
まだ浜辺は見えず、あの一瞬でとてつもない距離を移動したことが分かる。
もしくは、まぁ進んでいるようで実は波に押し戻されて殆ど進めていないという可能性もあるが、目印となる物の無い海の上では、進んでいると信じて居なければたちまち心が折れてしまいそうなのでスタミナに気を使いつつ泳ぎ続けた。
そしてそれは唐突に訪れた。
何かに狙われているような気がして振り返ると、水面から背ビレを覗かせつつ近寄ってくるモノが有った。
あれは多分サメ映画でよくある奴だ。
有名なテーマ曲が頭の中で再生されつつあったがとにかく今は逃げるのが先だ。
兎に角アレから距離を取ろうとがむしゃらに泳ぐが相手の方が泳ぐ速度が上なのか徐々に近づいているのが分かる。
それから逃げる事5分、もしかしたらわざとゆっくり泳いで此方が疲れるのを待っているのかもしれないという思いがよぎり慌てて泳ぐのをやめてスタミナを確認すると3割を下回っていた。
このままではどうせ、スタミナ切れの所を食べられるだけだと思い振り返ってサメを倒すことに決めた。
水中にもぐり背ビレ以外のサメの全体像を確認するとそこには、噂で聞いた10mを超えるサメがいた。
大きく見えた背ビレも実は半分も海上に出ていなかったようでその表面は金属の様な光沢をもっていて、多分あれに当たるだけで切断されるような印象を受けた。
同じような印象を受ける胸ビレと尾ビレにも気を付けなければいけない。
何よりも主な攻撃手段となるであろう噛みつきに使用される口は、丸のみにされるくらい大きいことが想像されれる。
此方が覚悟を決めたことに気が付きサメの方も速度を上げる。
やはり先ほどまでは様子見だったようだ。
一気に距離を詰めてきたサメが大きな口を開ける。
真っ暗な洞穴が迫ってくる入り口には狂暴な歯を並べてそんな光景に一瞬恐怖で身動きが取れなくなるが、間一髪鼻先を掴むことに成功して体を持ち上げて咬撃を避けるとともにサメの体にしがみついてある意味安全地帯にたどり着いた。
鼻先を掴みつつ頭に乗ることで、サメから直接の攻撃を心配する必要はないが、水中でロデオマシーンに乗っているかのような感覚になる。
サメの振り落とそうとする激しい動きと空気より重い水の抵抗に必死になってしがみつくが、その度にスタミナがガリガリと減っていくし、サメ肌はヤスリの様で触れている部分が削られる様にHPが徐々に減っていく。
全然安全地帯ではなかった。
奴の体は全身が凶器であり狂気に満ちた眼光で此方を睨んでいる。
このままではそう遠くない未来に待っているのは、死であることは明白なので取りあえず全力で抗ってみることにした。
掴んでいる鼻先を潰す勢いで握り込むが想像以上に硬く、さらに粗目と言うかもはや小さなトゲと言っても過言ではないサメ肌が手の平に食い込む。
多少のダメージがあったのかサメの暴れる動きが激しくなり、握ることに集中したためつかまる力が弱まっていしまい振り落とされてしまった。
あらに悪いことは重なり、振り落とされた際に左腕と背ビレが接触してしまい肘から下を失ってしまった。
切断されて沈んでいく左腕にサメが食いつき咀嚼すると減っていたHPが回復する。
片腕を失い上手く泳ぐことができなくなった為、攻撃を躱すことが難しくなりさらに左足を尾ビレで切断されて最終的に迫ってくる大きな口の中に吸い込まれる様にして死んだ。
久々の神殿での復活を体験し取りあえず失ったものなどを確認すると消耗品をドロップしただけだったことに安堵しつつ、元々の目的だった王麟がドロップしていなかったことも確認できた。
今日は疲れたのでこの辺でログアウトすることにした。




