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握力特化のバカが行く  作者: 溶ける男


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第12話 さらわれる

スターティアの南の海は、とある裏技によりリゾートと化していた。

砂浜には水着姿のプレイヤーが溢れ、キャッキャウフフと楽しそうに戯れていると言った光景が観られる。

この原因を作ったのが、先ほど言った裏技の発見だ。

ある意味発想の転換ともいえるその裏技の正体は、PvPの結界を使ってモンスターの発生しない空間を作り出すというモノだった。

HP全損or制限時間制のPvPにより発生した結界内には、任意のプレイヤー以外の侵入は出来ないという仕様により他プレイヤーからの干渉やモンスターの侵入を防ぎ安全に遊べる空間を簡単に作り出すことに成功し、年中気候の変わらないゲーム内と言うこともあり海水浴場の様な様相を呈している。

一応、リゾートプレイと通常プレイの住み分けは出来て居る様で結界が邪魔で戦いにくいと言った状況になっていないのが救いだろうか。


楽しそうに海と戯れるプレイヤーたちを横目に邪魔にならない場所へと足を進めて本来の目的を果たすために、海へと入る。

海のエリアは、他とは違い浜辺からの距離によって現れるモンスターの強さが変わってくる。

そして浜辺から100mを超えた辺りからは急に深くなり《水泳》を持っていないと溺れてしまうようになり、出てくるモンスターも大型のモノになるそうだ。

10mを超えるホオジロザメの様なモンスターに丸のみにされて美味しくいただかれたとか、そんな大物を釣竿一本で釣り上げた猛者がいるとか実しやかに騒がれていた。


今日の目当ては、80m付近から出始めるサハギンと言う半魚人的なモンスターのリーダーのキングサハギンが落す、王麟と言う王冠のような形をした鱗だ。

キングサハギンはマップ内に1体づつしか湧かないタイプのボス級のモンスターで取り巻きのサハギンも多くさらに追加召喚などもするため、見つけたら周辺に声をかけて臨時のレイド戦の様になるそうだ。


キングサハギンを探しながら歩き回る。

水位は腰の高さほどあり、慣れるまでは素早い動きが出来ず簡単な攻撃を喰らいダメージを重ねこちらの攻撃は泳ぎ回るモンスターに全く当たらないと言った感じだったのが、何とか思い通りの行動がとれるようになってきた。

この辺りで出るモンスターは、サハギン以外にウミヘビの様なものやクラゲ、後はカッターフィッシュと言う胸ビレが刃物のようなトビウオに似た魚だ。

ウミヘビやクラゲはHP自体はそこまでないのだが、毒を持っているためなかなか厄介な相手だ。

ウミヘビは噛まれなければどうということは無いが、クラゲは別だ。

此方の攻撃が、握り潰すということもあってクラゲに触れた先から状態異常を喰らってしまうし、厄介なことにクラゲのバリエーションが豊富なため状態異常も毒にも猛毒・致死毒・痺れ・火傷の様にただれるなど様々あり更に複合で状態異常になるなど何度も死にかけた。

特にヒョウモンクラゲと言う20cmほどのクラゲはもう二度と触らないと誓った。

触った瞬間に焼けるような激痛と痺れで身動きが取れなくなって水中で溺れかけた。

偶々近くにいた人が、辻ヒールをしてくれたので生き延びることができたがその恐怖体験はトラウマとなった。

幸いほかのクラゲより見た目が、分かりやすく黄色と黒のストライプ柄で一目で危険と分かるような見た目なのに素手で触るとかあり得ないと回復してくれたプレイヤーから簡単な説教(じょげん)をもらった。

あとカッターフィッシュは、水面から胸ビレを広げて勢いよく飛び出してくるのが予測しづらいため、たまに首にクリティカルヒットして死に戻っているプレイヤーを見かけた。


そしてようやくキングサハギンを見つけた。

十数体の取り巻きを連れているそれは、二回りほど大きく頭にちょこんと小さな王冠を乗せていた。

如何やらあの王冠が、お目当ての王麟と言うアイテムのようだ。

戦っているプレイヤーも居ないようなので早速手を出してみることにする。

取り巻きのサハギンの強さは、リザードマンと変わらないが相手側には地の利と連携を取れる人数と言う最大のアドバンテージがあり、そう簡単には頭を潰すことは叶わない。

なにより、サハギンの体の表面には魚特有のぬめりの様なものがあり思いっきりつかんでもニュルンと手の平から抜け出されてしまうのだ。

トライデントと言う三又の槍と言うか銛?を巧みに使い攻撃を仕掛けてくるサハギンは、武器の形状上あまりギリギリで避けるのには向いていないし足場の関係でどうしても大きく避けることになってしまい距離を詰めようとすると他の個体の攻撃が飛んでくる。


それから戦う事30分、キングを舐めてたみたいです。

延々と追加される取り巻きに未だ一撃も加えられていない有様で、そんな状況を集まって来ていたプレイヤーが眺めていた。


「そろそろ参加してもいいか?」


集まっていたプレイヤーの1人から声を掛けられた。

一応横殴りはマナー違反と言うことで近くには来ていたが、此方から助けを求めるまでは静観と決めていたようだ。


「はい、よろしくお願いします」

「よし、行くぞおめぇら!」

「「「「「おう!!」」」」」



「数は力だ!」そんな言葉を体現するかのように先ほどまで延々と進めなかった戦況が動く、サハギンたちは追加される数を上回るスピードで駆逐されていき徐々に取り巻きの数を減らしキングと数体のサハギン・エリートという個体のみになった。

サハギンエリートは、戦闘に特化している能力を持ち能力によって持つ武器を変える様で、杖を持つ個体などもいる。

キングの指示にエリートが一糸乱れぬ連携で此方を攻める。

後衛のエリートが、魔法の詠唱を始めてそれを止めようとするプレイヤーを前衛のエリートがそれを阻止する。

どうやら使われる魔法が相当厄介なようで結果を知っているプレイヤーたちはかなり慌てている。

出来るだけ気配を殺して水の中に潜り底付近を泳いで前衛の防御を抜けようと試みる。

服の色も相まって気が付かれる事なく何とか後衛の近くまで行くことに成功し、足を掴んで立ち上がるとバランスを崩し魔法の詠唱が失敗する。

掴んだ足を思いっきり振り抜いてエリートを水面に叩きつける。

背中を思いっきり打ち付けて「バシャン!」と大きな音を立て水柱が立ち上がり、サハギンたちが一斉に此方に注目した為、隙が生まれたところを一気に押し込みキング以外を倒すことに成功した。

後は、キングを倒せばこの戦いに終止符を打つことができる。


戦いながら取り巻きを呼ぶことが難しいらしく一匹になってからは追加のサハギンは現れることは無く、多勢に無勢で徐々に体力を減らしつつあったキングではあるが、HPが3割を切ったところで一際大きな咆哮をした。


「ギュロロロロロロォォォォ!!」


その咆を聞いたプレイヤーたちから焦りと「ハズレパターンか」と言うつぶやきが漏れると異変が起こる。

腰まであった水位が徐々に下がっていき沖の方へと水が引いていく、沖では逆に海面が上昇しつつあるようだ。

あーこれは、津波が来るな。

如何やら津波の到着までにキングを倒し斬らないと強制的に引き分けにされてしまうというパターンで、しかも引き分けと言っても、運が良ければ死なない程度の使用の様で浜に打ち上げられれば儲けものらしい。

とりあえず今できるのは、一刻も早く相手を殺すことだ。

思考をダメージを積み重ねることから急所への死を狙った一撃へとシフトする。

他のプレイヤーを相手に注意が逸れたのを確認し、潜水で近寄り背後からエラに手を突き刺して内部を引き千切る。

痛みに暴れ出すキングの両側のエラを破壊することに成功しHPがガクンッと減ったところに炎魔法がこんがりと焼き上げて止めとなった。

そこからは、ドロップアイテムの確認なんか後回しにして浜辺に向けて猛ダッシュだ。

迫りくる津波から逃れるために海水に足を取られながらも前に進む。

あと浜辺まで30mまでに迫ったところで、あの感覚がやってきてしまった。


そう、スタミナ切れだ!


さっきの無理やりやった潜水がいけなかった。

≪水泳≫スキルも無しに潜水なんかやったものだからスタミナの消費が半端なかった。

他のプレイヤーたちが余裕で浜辺から少し離れた高台辺りまで避難しているのにまだ海の中だ。

更に不幸は重なり海中の砂の凸凹に足を取られてつまづいたところに津波に追いつかれてしまった。

前後左右が分からなくなるほど揉みくちゃにされてそれでも意識だけはつなぎとめることに成功した。

運悪く砂浜に打ち上げられるのではなく沖に流されてしまったようだ。

たしかこんな時は、慌てずまず全身の力を抜けば体は浮き上がるとか聞いたとこがあるので要らない力を抜き自然に任せてみる。

ついでに、余っていたスキル枠に≪水泳≫を取得して少しでも生存確率を上げるように試みる。

そうこうしていると息がギリギリになり海面に向けて泳ぐ。

スキルの性か先ほどよりスタミナの減りも少なく一かきで進む距離も倍近く違う、何とか海面から顔を出し酸素を補給すると共に辺りを見渡した。


「どこまで流されたんだ?」


コレが素直な感想だった。

360度一面水平線しか確認できずどこが砂浜なのかもわからない有様で途方に暮れた。


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