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握力特化のバカが行く  作者: 溶ける男


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第10話 唐揚げ

「どうだ?」

「いいですね」


今日は、頼んでいたクイーンスパイダーシルク製の防具を受け取るためにグレンさんの工房にやって来ていた。

完成した道着は、濃い青色に染められていて丈夫で分厚い見た目からは、想像できないほど軽かった。

軽く動いておかしな所が無いか確認して問題ないことを伝えた。


「そう言えば、最近スパイダーシルクの流通量が減ってきているみたいだが、やっぱり間に合わなかったのか?」


グレンさんは聞きにくそうにしながら確認してきた。

翌日に巣のあった場所に行ってみたが、そこにはもうクインちゃんの姿は無かった。

それに伴い蜘蛛型のモンスターの分布も変わってしまってのだ。

比較的森の浅いところにも発生していた蜘蛛たちも奥の方へ移動してしまい浅い場所では夜しか見かけることが無くなった。

このことで、オオカミの毛皮素材より良質な割に値段の安かったスパイダーシルクは流通量が減ってしまい以前の価格以上に高騰してしまっていた。

一部の生産者は、原因を作ったプレイヤーを探しているらしいが知ったことではない。


「いえ、間に合いはしたんですがその時に逃げるよう伝えたところもっと奥の方に住処を移したらしいんですよね」

「らしいってことは、その後会ってないのか?」

「ええ、森も広いですし何処に居るかもわからないので探しようがないんですよね」

「そうか、まぁそんなに落ち込むな。縁が有れば何処かで再会するってもんさ」

「そういうもんですかね?」

「ああ、そんなもんだ。

 だが、そうなるとこの素材もそう簡単には手に入れられないってわけか」


そう言って余っていたスパイダーシルクに目を向けるグレンさん。


「そうかもしれません、あ!でもそれはお代として受け取ってくださいね」

「いいのか?この量なら釣りが出るぞ」

「いえ、最初の約束通りで大丈夫です

 また利用させてもらう事もあると思いますので、その時はよろしくお願いします」

「ああ、いつでも来い」


そうして工房を後にして、冒険者ギルドでいつもの様に訓練所を借りる。

そうそう、変化と言えばここにも有った。

この間までは、居ても2,3人だったこの場所も人数が増えライラさんに扱かれるプレイヤーが増えた。

如何やら、あの時負かしたプレイヤーが情報サイト辺りに情報を流したらしくそれを読んだプレイヤーが通うようになったみたいだ。

ライラさん曰く3回以上来た奴は2割くらいしかいない様でどうにも根性の無い奴らばかりとのことだ。


「お!ニギル!

 やっと新しい服が出来たみたいだね」

「はい、ライラさんのお陰で良いモノが出来上がりました」

「それで今日は、性能確認の為にやって来たってところか?」

「そうなりますね、今大丈夫ですか?」

「ああ、構わねぇよ

 こいつらはお前と違って直ぐに弱音を吐いて休憩ばかり取りやがるからな」


ライラさんはそう言って壁際を顎で指すと怯えるように顔を逸らしたプレイヤーが複数いた。


「なるほど

 それなら、よろしくお願いします」

「ああ、かかってきな!」


それから30分ほど様々な武器に打ちのめされたが、新調した装備の性能を確かめるには十分だった。

壁際のプレイヤーがそろそろ交代を言ってくるかと思ったのだが、どうも驚愕と言った感じの顔で此方を見ていた。


「あれ?もしかして彼方の人たちはノーマルモードでした?」

「ああ、あんたと違って胸を凝視してこなかったんでな」

「そのことについては謝ったじゃないですか」

「冗談だよ、あいつらレベルばかり高くて動きはてんで素人で危なっかしいからハードモードなんて出来る訳ねぇだろ」

「なるほど」


それからお互い素手による組み手をして順番を譲った。

壁際に行こうかと思ったがどうも問い詰められそうな雰囲気が有ったので、そのまま訓練場を後にして攻略を再開しよう。

森はある程度回ってみたので次は、西の方に行ってみようと思う。

いつもの様にグミを捕まえて西へと進むと川の流れにそって、釣りをしているプレイヤーが等間隔で並んでいた。

少し眺めていると一人の釣りプレイヤーがおもむろに草むらに糸を垂らし始めた。

何をしているんだろうと思ったが、数秒後強い引きに耐えるように踏ん張りながら竿を立てるプレイヤーと草むらから飛び出した1匹の大ネズミの格闘は数分続き遂に体力の尽きた大ネズミが釣り上げられて?いた。

思わず拍手していると此方に気が付いたようで釣り上げた大ネズミを小脇に抱えて手を振って来たのでこちらも振り返しておいた。


この川を進んだ先にある町は、スターティアよりも大きな町の様で広さだけでも2倍以上あるらしくすべて廻ろうと思ったら1週間以上かかると言われているらしい。

詳しくは着いてから見て回るつもりなので調べていないが、色々な施設があると言う事だった。

そうこうしていると、見たことのないモンスターが出てきた。

リザードマンとでもいうのだろうか?

イグアナの様な生き物が槍を片手に2足歩行でうろついている。

此方に気が付き低いうなり声を上げながら槍を構える。

突き出された槍を躱して柄を掴んで引き寄せると引き戻そうとしていたリザードマンは頭を突き出すようにバランスを崩したため噛まれない様に掴み上げて力を籠める。

激痛に槍を離してジタバタし始めるリザードマンに更に力を込めてHPを削り切ると光になって消えた行く。

手に入れたのは、リザードマンの皮だったがやはり品質は最高となっていた。

防御力はゴブリン以上昆虫未満と言った所だろうか、腕力もそんなところでゴブリンの上位版くらいの位置付けでいいと思う。

それでも、主に単独行動をしているためゴブリンよりも狩りやすい。

長物を使っているため懐に入ればやりたい放題だった。


そんな感じで川沿いを進んでいると鷹の様な鳥が襲ってきた。

翼を広げると2mくらいはありそうなその鳥は、上空から頭めがけて急降下してきたのを慌てて腕でガードすると大きな足で腕を掴んで羽ばたき始める。

すると徐々に体が浮かび上がり始めたので、空いていた手で足を掴んで引き離すと同時に着地してその勢いのまま地面にたたきつけると羽を痛めたのか上手く飛べなくなったところに止めを刺して光に変えた。

掴まれたせいでHPが1割くらい削れていたので次からは気を付けようと心に決めた。

取れた素材は、てっきり羽根とかを落とすと思ったのだがステップホークの手羽先と言う食材だった。

見た目としては兎に角デカい、骨付きもも肉を超えるサイズの手羽先だった。

唐揚げとかにしたら美味しいのだろうか?

もう少し手に入ったらどこかで調理してもらうのも悪くないかもしれない。


そんな感じで、出会ったモンスターを狩りながら進むこと2時間弱で次の町の「セカンディア」に到着した。

高い壁に囲まれたその町は、噂通りの広さの様で門の左右から続く壁の終わりが見えないほどだった。

ギルドカードを見せて門を通過して取りあえず大通りを歩いて露店を冷やかしてみることにした。

大体は、武器や防具などをメインに扱っているようだったが、ちらほらと食べ物を扱う店もあった。

その中で揚げ物をメインに取り扱っている露店を見つけたのでちょっとお願いしてみることにした。


「すいません」

「なんだ?」

「これを調理してもらう事ってできませんんか?」


そう言って手羽先を取り出す。


「ほう、ステップホークか」

「はい、コレのから揚げを食べてみたいんです」

「はは、唐揚げか…なかなか無茶を言いやがる」

「無茶ですか?」

「ああ、手羽先を唐揚げにするってのはみんな考え付くんだがその大きさがネックになるんだ」

「そういうことですか」

「ああ、鍋の大きさもから油の温度から時間なんかいろいろ試してみたが満足いくレベルのものが出来ないってことで最近では、唐揚げ以外に使われているな」

「一度取り上げて熱を逃がさない様に包んでじっくり火を通すとかそういうのは無理なんですか?」

「出来ない事もねぇが時間がかかりすぎて露店向きじゃねぇな」

「それでもいいのでお願いできませんか?」

「しょうがねえな、丁度客も居ないしやってやるよ」

「ありがとうございます」

「失敗しても文句言うなよ」

「はい、じゃあこれをよろしくお願いします」


そう言って手羽先を5つ手渡すと店主はソレを特製のタレにつけて揉み込んでいく。

邪魔をしてはいけないので少し離れたところから作業を眺めることにした。

後で知ったのだが、生産スキルでモノを作るときはマニュアルとオートと言うモノが有りレシピに無いモノはマニュアルで実際に下準備から完成までを一通り実践する必要があるらしい。

そこで一定以上の品質の物を作ることが出来るとレシピ登録が出来る用になるそうだ。

店主の成功を祈りながら待つこと10分ようやく一つ目のから揚げが完成したと言うことで受け取ったソレは、カリッカリに揚げられた皮はキツネ色になってとても美味そうだった。

ガブっと一齧りするとパリパリの皮の触感と溢れる肉汁と絶妙に付けられた味に夢中になってもう一齧りすると内側はまだ生だった。


「くそ、ダメだったか」

「でも外側はかなりいい感じになってますよ」


先程の失敗を糧に2度目の挑戦に入る店主を待つこと15分。

出来上がったののは、先程より少し色の濃い唐揚げだ。

今度は中まで火は通っていだが、肉汁は何処に行ってしまったのかパッサパサになってしまっていた。


「温度が高すぎたか」

「火は通ってますけどね」


それから試行錯誤の末、5本目でようやく満足いくものが出来た。

齧りつくとパッリパリの皮から溢れるように肉汁が弾けて口いっぱいに広がる旨みが、もう一口もう一口と止まらず気が付くと一本食べきるのに時間は掛からなかった。


「美味しかったです」

「そいつはよかった」

「どうもありがとうございました」

「いやいや、俺もレシピ登録できたしスキルレベルも上がったから気にするな」

「じゃあ次も食べれますね。

 よかったらフレンド登録いいですか?」

「ああ」


店主のビフさんとフレンド登録をして露店を後にした。

気が付くと1時間以上たっていたが、あの唐揚げを食べれたかと思うと悪くない時間だった。

その後は、適当に町の中を観て回ってログアウトした。

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