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 妖精がいるところには、豊かさを求めて人が集まり、村や町が出来ていく。

 人が沢山集まると、妖精は保護を求めてやってくる。


 私達人間と妖精はこうして、よく言えば支えあって、悪く言えば共依存のような関係で生きてきた。


 つまり村や町から妖精がいなくなると、人間は妖精を求めて他の土地に移る。

 逆も同じで人間がいなくなると、妖精は人間を求めてその土地を離れるのだ。


 私が若いころに暮らしていた村もそうだった。

 村にいた一人の妖精が消え、住民は妖精のいる他の村に引っ越していった。


「イルザ、ここが私たちの新しい故郷!ここから全部始まるのよ!」


 一緒に村を出た友人が高鳴る胸を押さえられないように胸の前で手を組み、うっとりと村の門を指す。

 お世辞にも大きな村ではないし、門も古ぼけて植物が這っている。今までの村の方が大きくて豊かだったし良かった。彼女とは違い、私は、イルザはこの村を好きになれなかった。


「違うよ、私たちの故郷は皆が捨てたあの村」

「もぅ。ここも故郷になるの。第二の故郷、みたいな?住めば都っていうし、住んでいたら愛着の一つや二つ湧いてくるよ」


 いつも前向きな彼女の言葉を上手く受け取れなかったのは初めてだ。

 生まれ育った村を、今まで生きてきた十六年の歳月を、私はそう簡単には切り捨てられない。


「愛着が湧いたとしても、ここが私の故郷になることはないよ」

「今はそうでいいんじゃない?」


 これから先もここを私の故郷だと思うことはないと、この時の私は強く思っていた。

 


 引っ越してから三日が経った。家の中の片付けもほとんど終わったので村の散策でもしよう、と友人に連れられ家を出た。正直、今は部屋に籠りたい気分だったけれど、それを告げると逆に怒られてしまった。


「気分が沈んでいる時こそ、外に出なくちゃ。それに、早めにこの村に慣れたほうがいいでしょ?」


 正論かもしれないけど、これは彼女が村を歩き回りたいだけなんじゃないか。と思ったけれど、また口に出したらなにかしら言われそうなので黙って着いて行くことにした。


「よっす。もしかして、例の新しく来た人?」


 歩いていると、同じくらいの年頃の男が気安く声を掛けてきた。こういうのは苦手だ。


「俺はジャン。よろしくな」


 聞けばジャンは私たちの一つ年上で、家が雑貨屋を営んでいるとか。雑貨屋に用事があったらジャンの家にいくしかないそうだ。どんだけしょぼい村なんだろうか。


「そう言えば、二人ともまだ妖精さんに挨拶してないよな。俺、今から薬買いに行くから、案内してやるよ」


 ジャンはニッと笑うと、私たちの返事も聞かず手を取り歩き出す。

 正直に言うと、私は妖精も苦手だ。今まで出会った妖精は前の村にいた妖精ただ一人だったけれど、彼はとても不愛想で私達と話すのさえ面倒なふうだった。


「へへん、ここだよ。面白い家だろう?」


 妖精さんの家の前に着くと、ジャンは得意そうに言う。なんでジャンが自慢するのは違うんじゃないか、と思いつつも視線を上げる。

 レンガ造りの可愛らしいおうちだった。まるで、絵本の中に出てきそうな小人の家を人間サイズにしたような。この村の中に建っているとここだけ違う場所みたい。


 ジャンは大きな窓の付いた部屋に掛けてある鐘をカランカランと鳴らす。

 これは前の村でも同じだ。前の村のは窓がもっと小さく閉鎖的な雰囲気だったが、この家は開放的で明るい感じ。だが、何事も中身が大事。妖精が冷たい人ならば、全ては台無し。


「おまたせしました。あ、ジャンさん。こんにちは」


 五、六歳くらいの女の子がパタパタと足音をさせながら出てきた。

 少女が動く度に、上手く結べずに落ちた髪が一緒に揺れて可愛らしい。


「オッス。薬貰いに来たついでに、村の新入り連れてきたぜ」

「しんいりさんですか?わぁ、はじめまして。リイリなのです。よろしくおねがいします」


 リイリ、と名乗った少女は太陽のように笑いかける。笑顔が眩しい。実在している方ではなく想像上の妖精さんって感じ!


「では、エナねえさんにもしょうかいしなくては、ですね。ちょっとまっていてもらえますか?」

「そうだな。頼むわ」


 ジャンの言葉を聞いて、リイリは「すぐにもどってきます」と言い奥へと引っ込んでしまった。


「あの、エナ姉さんというのは誰ですか?」

「この村の妖精だよ。さっきのちっこいのは半妖精。ああ見えて俺たちよりも年上なんだぜ」


 ええぇ⁉見た目は子供、中身は大人ってやつ?外見詐欺だね。


「でも、話し方が子供っぽいんですが」


 子供が背伸びして丁寧語を使っているようにしか聞こえない。動きも小さい子のようで守ってあげなくてはと思わせる。


「昔っからあんなしゃべり方だったから気にしなかったな。それと、子供っぽいって言ったら怒られるぜ。『リイリはりっぱなレディですよ!』ってな」

「そう、なんですか」


 リイリの物真似が似ていて、笑ってしまった。リイリがそう言う想像をしてみると、本当に子供が大人の真似をしているようだ。


「へへ。イルザ、久しぶりに笑ってくれたね。私も嬉しくなっちゃう」

「……そんなことない」


 頬を押さえて誤魔化そうとしたけれど頬の緩みは取れなかった。確かにずっと笑ってなかったような気がする。いつからだったっけ。



 それからは特に用事がなくてもリイリに会いに行くことが多くなった。リイリはいつも笑顔で私にとっての太陽のような存在だった。この村に来てよかったと思えたのはリイリのおかげだ。


「えへへ、ききましたよ。きいちゃいましたよ」


 ある日いつものようにリイリに会いに行くと、リイリはやけに嬉しそうな様子だった。


「イルザさん、ことし、せいじんするようですね。わたしもおいわいしたくて、こんなものつくっちゃいました!」


 そう言って手渡されたものはピンクの花の髪留めだった。初めて見る花だ。憶測だが、妖精樹の花だと思う。

 私が成人ということは、この村に来て4年が経過したということだったが、リイリには全く成長が無い様で寂しく感じていた。半妖精は人間よりも成長が遅いと聞くが、ここまで遅いものなのだろうか。


「リイリちゃん、ありがとう。似合うかな?」


 リイリから貰った花飾りを髪に着けて見せてみる。


「にあいます!よかった、イルザさんにはやっぱりピンクがにあうのです」

「そうかな?そんなの初めて言われたかも」

「エナねえさんは、きいろがにあうっていってました。でも、ピンクだってちゃんとイルザさんににあってますよ」


 なんだこの天使は。黄色が似合うっていうのは友人に言われたけど、ピンクが似合うとは言われたことなかったような。嬉しいな。だって、ピンクって女の子って感じの色でしょ?


「ありがとう。お礼に何かしたいんだけど…」


 リイリが喜ぶものが私特製のアップルパイしか知らないんだけど、毎回アップルパイっていうのも芸がないよね。もっと色んなお菓子を作れたらいいんだけど。


「ほんとですか⁉あのですね、リイリ、かみのむすびかたをおしえてほしいのです」

「そんなことでいいの?」


 4年経ってもリイリはへんてこな髪型のままだった。女の子だもんね、そういうことも気にしちゃうよね。

 リイリに後ろを向いてもらい、さらさらと流れる髪を首筋の所で一つ結びにしてあげる。頑張って結い上げようとするから上手く結べていないのだ。ならば簡単な結び方を教えてあげればいい。


「できた。こうすれば綺麗に結えるでしょう?」

「わー。すごくらくです。かみのけもおちてない。ありがとうございます、イルザさん」


 こんなことで喜ばれるなら、毎日だって結びに来たい。私にも仕事があるのでできないけれど。



「こんにちは、きょうはめぐみのあめですね」


 雨の日でも私の太陽はここにある。この間簡単な髪の結び方を教えたけれど、またいつもの髪型に戻っていた。あれれ?


「リイリちゃん、髪型……」

「これですか?いつもエナねえさんがむすんでくれるんです」

「そうじゃなくて、この間教えた髪型は……?」


 ここのあいだ?とリイリは首を傾げて見せる。可愛いけど、そうじゃないの!


「私に花飾りをくれた日よ。ほら、成人のお祝いって」

「え⁉イルザさん、せいじんするんですか!おめでとうございます!あ、おいわいどうしましょう?」

「お祝いはもらったよ!覚えてないの?」


 私の言葉にリイリは困ったように俯いてしまった。私の太陽が曇ってしまった!私の馬鹿馬鹿‼

 じゃなくて、髪飾りを貰ったのはつい先週のことだったのに、髪を結びなおしてあげたことも忘れられてしまって悲しみと同時に背筋が寒くなるのを感じた。


 因みに髪飾りは成人の儀の日に着けて行こうと思っているので、大切に箱の中に仕舞っている。

続きます。

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